表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第25章 平和な日常は続かない?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

361/993

想定を捨てる者

 異変は、再発だった。


 同じ街ではない。

 同じ原因でもない。

 だが、結果だけが一致する。


「……またか」


 レインは、報告書を伏せた。


 拒否しない。

 暴れない。

 だが、選ばない。


 人々は“戻らない状態”に、

慣れ始めていた。


「前より、早いね」


 ミリアの声は、重い。


「今回は、

 迷ってすらない」


 リュカが補足する。


「最初から、

 “決めない”を選んでる」


 それは、世界が

学習してしまった証拠だった。



 英雄は動いた。

 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》も動いた。


 だが、どこかが噛み合わない。


「切るべき点が、

 増えすぎている」


 セインの判断は、鈍る。


「被害最小が、

 比較不能だ」


 均衡が“定義できない”。


 英雄も同じだった。


「守ればいいはずなのに……」


 ヴァルハルトは、

守る対象を見失う。


 敵はいない。

 だが、救済は効かない。



 その様子を、

遠くから見ている存在がいた。


 黒衣の男――

ヴァルグリム=ゼイン。


「……なるほど」


 低く、呟く。


「最適解が、

 “最初から受け取られない”」


 彼は、静かに理解する。


 英雄は正しい。

 蒼衡も合理的だ。

 世界機関も間違っていない。


 だが。


「想定が、

 世界に拒否され始めている」


 そこで、初めて。


 彼は一つの前提を捨てた。


「……なら」


 目が、細くなる。


「壊さずに済ませる理由が、

 なくなった」


 まだ、攻めない。

 だが、次は違う。


 “想定内”で収める気が、

消えた。



 一方、ノーリトリート。


 レインは、

自分たちの線を見つめていた。


「……揺れてる」


 ミリアが言う。


「線じゃない」


 レインは、答える。


「僕たちの、

 覚悟がだ」


 救わないことで、壊さない。

 だが、

救わなかった結果は、残る。


「……このまま行くと」


 リュカが、言葉を選ぶ。


「次は、

 “見てるだけ”じゃ済まない」


 レインは、否定しない。


 ただ、静かに言った。


「それでも、

 引き受ける」


 一拍。


「後悔を、

 続ける覚悟だけは」



 この時点で、

誰もまだ壊れていない。


 だが――

戻れる道は、消えた。


 次は、

敵が“動く”。


 最初の報告は、短かった。


「戦域、形成確認」


 それだけで、

全員が意味を理解した。


 災害ではない。

 暴走でもない。


 意図的に作られた戦場。



 街の外縁、かつて交易路だった場所。

空気が、歪んでいる。


「……重いな」


 ヴァルハルト=レオンが、

大剣を握り直す。


 踏み出した瞬間、

足元の感覚が変わった。


「地形じゃない」


 イリスが、即座に察知する。


「……場そのものが、

 “戦う前提”に固定されてる」


 答えは、正しかった。


 《戦域掌握ドミニオン・フィールド》。


 範囲内すべてが、

戦闘用に最適化される。


 連携は鈍る。

 回復は遅れる。

 判断は、個に分断される。


 集団戦ほど不利になる能力。



 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》も、

同時に突入していた。


「……厄介だな」


 セイン=ヴァルクスは、

即座に状況を把握する。


「均衡が取れない」


「切る?」


 ガランが、低く聞く。


「……まだだ」


 セインは、歯を噛みしめる。


「切った瞬間、

 被害が跳ね上がる」


 それは、

均衡再裁定きんこうさいさいてい

示した未来だった。



 次の瞬間。


 空間が、押し潰された。


「来るぞ!」


 英雄が叫ぶ。


 《黒圧進ダーク・プレッシャー》。


 空気そのものが、

前から殴りつけてくる。


 防御が間に合わない。

 逃げ場もない。


「……っ!」


 ヴァルハルトが、

正面から受け止める。


 地面が、沈んだ。


 英雄でなければ、

即死だった。



「連携を断たれています!」


 ノインの声が、荒れる。


 召喚が、

本来の位置に出ない。


 《断線斬ディスコネクト》。


 指揮・支援・判断。

 “つながり”を切る一撃。


 それでも、

英雄たちは踏み留まる。


 正義が、

真正面から叩き合っている。



 蒼衡も、動いた。


「ユール、配置を!」


「了解!」


 《配置誘導フォース・ポジション》が発動し、

辛うじて陣形を整える。


「……今だ」


 セインが、決断する。


「切る」


 ガランが、

迷いなく踏み込む。


 《断定斬デシジョン・スラッシュ》。


 “危険”と判断された流れを、

未来ごと切り落とす。


 空間が、裂けた。



 ――その瞬間だった。


 黒衣の男が、

初めて明確に姿を現す。


「……ああ」


 低い声。


「来たな」


 英雄が、

覚悟を決めた瞬間。


 蒼衡が、

犠牲を選んだ瞬間。


 正義が、

世界を代表して振るわれた。



「……撤退する」


 誰に言うでもなく、

ヴァルグリム=ゼインは告げた。


 《終幕指定エンド・マーカー》。


 空間に、

終わりの印が刻まれる。


「追うな!」


 ヴァルハルトが叫ぶ。


 だが、

追えない。


 戦域が、

一瞬で解除された。


 彼は、

そこにはいなかった。



 静寂。


 街は、壊滅していない。

 死者も、最小限だ。


 だが、

誰も勝っていない。


「……逃げた?」


 ミリアが、

遠くから呟く。


 ノーリトリートは、

境界線の外にいた。


 介入条件は、

越えていない。


 だが、

レインは気づいていた。


「……違う」


「?」


「役割を、

 果たしただけだ」


 その言葉は、

誰にも聞こえなかった。



 英雄は、

剣を下ろす。


 蒼衡は、

判断を保留する。


 世界機関は、

緊急報告をまとめる。


 そして――

ノーリトリートは、動かなかった。


 それが、

最も重い結果を残した。



 戦場の外で、

ミリアが小さく言う。


「……これ、

 次も来るよね」


 レインは、

否定しなかった。


「次は」


 一拍。


「もっと、

 壊れる」


 戦域が消えたあと、

世界は“平常”に戻った。


 建物は立っている。

 人も歩いている。

 被害は、報告書に収まる範囲だ。


 だが。


「……静かすぎる」


 ミリアが、ぽつりと言った。


 誰も反論しなかった。



 英雄は撤収を指示した。


「これ以上は、

 現場に残る意味がない」


 ヴァルハルト=レオンの声は、

疲れていた。


 勝っていない。

 だが、負けてもいない。


 それが、

一番扱いづらい。


 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》も、

同様だった。


「……次は、

 判断が間に合わない可能性がある」


 セイン=ヴァルクスの言葉は、

珍しく弱かった。


 世界機関は、

被害算定を終え、

“対応成功”の文言を入れるか迷った末、

保留にした。


 成功とも失敗とも言えない。


 その評価が、

すでに異常だった。



 ノーリトリートは、

少し離れた場所に立っていた。


 誰も責めない。

 誰も呼ばない。


 それが、

彼らの立ち位置だった。


「……ねえ」


 ミリアが、

レインの袖を引く。


「さっきの、

 あの瞬間」


「……うん」


「止められた?」


 レインは、すぐに答えなかった。


 戦域が固定された瞬間。

 英雄が覚悟を決めた瞬間。

 蒼衡が犠牲を選んだ瞬間。


 その少し前。


 確かに、

線を置ける余地はあった。


 だが、置けば――

介入条件を越えていた。


「……可能性は、あった」


 レインは、正直に言った。


「でも」


 一拍。


「やったら、

 僕たちが“世界の代わり”になる」


 それは、

一度踏み込めば戻れない場所。


 だから、やらなかった。


 正解でも、

間違いでもない。


 ただの、選択。



 そのとき、

背後から声がした。


「……今の答えで、

 満足か?」


 振り返らなくても、

誰かわかった。


 ヴァルグリム=ゼイン。


 距離はある。

 だが、

はっきり見える位置に立っていた。


 今回は、攻撃しない。


「……君は」


 レインが、

言葉を選ぶ。


「世界を壊したいわけじゃない」


「当たり前だ」


 即答だった。


「壊せば、

 “役”が終わらないだろう」


 その言葉で、

全てが繋がった。



「……あなたは」


 レインは、

一歩踏み出す。


「敵じゃない」


 否定は、返ってこなかった。


「でも、

 “味方”でもない」


「正確だ」


 ヴァルグリムは、

小さく頷く。


「俺はな」


 低い声。


「正義が壊れないために、

 必要な位置に立っている」


 英雄が勝ち続ける世界は、

いずれ歪む。


 蒼衡が切り続ける世界は、

やがて摩耗する。


 世界機関が管理し続ける世界は、

責任を失う。


「だから、

 俺が“悪”を引き受ける」


 淡々とした口調。


「それだけだ」



 ミリアが、

言葉を失う。


「……それって」


「ヒーロー気取りか?」


 ヴァルグリムは、

鼻で笑った。


「違う」


「俺は、

 必ず倒される側だ」


 その前提で、

全てをやっている。


 戦場を作る。

 正義を振るわせる。

 世界に“覚悟”を要求する。


 そして、

役割を終えたら、退く。


「……最悪だ」


 レインは、

率直に言った。


「そうだろう」


 ヴァルグリムは、

否定しない。



「……それでも」


 レインは、

目を逸らさなかった。


「僕は、

 あなたを止めない」


「知っている」


「でも」


 一拍。


「あなたを、

 理解したことは忘れない」


 それは、

宣戦でも和解でもない。


 ただの、宣告だった。


 ヴァルグリムは、

少しだけ目を細める。


「……それが一番、

 厄介だ」


 次の瞬間、

彼は消えた。


 追えない。

 追わない。



 夜。


 拠点で、

誰もが黙っていた。


「……後悔、

 増えたね」


 ミリアが、

小さく笑う。


「増えた」


 レインは、

はっきり答えた。


「でも」


「?」


「引き受け続けるって、

 決めたから」


 正義にならない。

 世界の代わりに選ばない。


 それでも、

見てしまった以上、

忘れない。


 それが、

非裁定ノーリトリート》の在り方だ。



 この夜を境に、

レインは知ってしまった。


 敵は、

倒すために存在しているのではない。


 倒されるまで、

 世界を保たせるために存在している。


 そして、

それを知ってしまった自分は――

もう、

元の場所には戻れない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ