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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第25章 平和な日常は続かない?

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同じことが、二度目に起きる

 二度目は、予告がなかった。


 前回は段階があった。

 整理、統合、推奨、制限。

 人々が「納得する時間」が、かろうじて存在していた。


 だが今回は違う。


「……もう?」


 ミリアの声が、思わず低くなる。


 街の外縁部。

 まだ昼前だというのに、移送車列が組まれている。


「判断、早すぎない?」


「前例があるからだ」


 レインは、地図を見下ろしたまま答えた。


「前回が“成功例”として記録された。

 だから、今回は短縮されてる」


 最適化。

 効率化。

 “うまくいったやり方”の再利用。


 それが、二度目を早める。


「対象者は?」


 リュカが端末を操作する。


「四十七名。

 居住区再編に伴う移送。

 拒否権は……」


 一瞬、言葉が詰まる。


「……形式上は、ある」


「実質は?」


「ない」


 前回と同じ。

 だが、今回は迷う余地すらない。


 通達はすでに配布済み。

 荷造りも終わっている。


 人々は、怒っていなかった。

 混乱もない。


 ただ、慣れていた。


「前も、こうだったから」


 誰かが、そう言った。


 その一言が、

レインの中で静かに響いた。


(……学習されている)


 制度が、ではない。

 人の側が。


 抵抗しない。

 疑問を持たない。


 だって前回、

「問題は起きなかった」のだから。


「……英雄は?」


 ミリアが、周囲を見回す。


「呼ばれてない」


 レインは即答した。


「事件として定義されてない」


 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》も同じだ。

 切る対象ではない。

 秩序は維持されている。


 世界機関は、すでに動いている。


 手続きとして。


「レイン」


 ミリアが、はっきりと名前を呼ぶ。


「これ、

 もう“偶然”じゃないよね」


「ああ」


 否定はしない。


「再現性が確認された」


 それは、最悪の言葉だった。


 一度きりなら、事故。

 二度目なら、傾向。

 三度目からは――


「……止めないと、

 これが普通になる」


 ミリアの声が、震える。


 エルドが、拳を握る。


「条件は?」


 レインは、答えなかった。


 いや、

答えはもう、出ている。


 選択肢は、あるように見える。

 拒否は、形式上は可能。

 やり直しは――できない。


 そして何より。


「……今回は、

 誰も『おかしい』って言わなかった」


 リュカの言葉が、静かに刺さる。


 それが、決定的だった。


 前回は違和感があった。

 疑問があった。

 戸惑いがあった。


 今回はない。


 ただ、

「そういうものだ」

と受け入れられている。


 レインは、深く息を吸った。


「……次で」


 三人が、視線を向ける。


「次で、動く」


 断定だった。


 初めて、

非裁定ノーリトリート》としての

“待つ”が、終わりに近づいた。


 まだ、手は出さない。

 だが、

待つ理由は、ほとんど残っていない。


 二度目は、早かった。


 三度目は、

もっと早くなる。


 それを、全員が理解していた。


 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》は、今回の事案を

「記録を読む前」に把握していた。


 それ自体が、異常だった。


「……早いな」


 セイン=ヴァルクスは、移送計画の時刻表を見下ろして言った。


「前回より、判断までの時間が半分以下だ」


 リィネ=フォルテが頷く。


「比較対象が“成功例”として登録されています。

 未来分岐の幅が、最初から狭い」


「狭い、というより」


 ユール=セティアが、静かに言った。


「最初から一本しかない」


 それは、蒼衡にとって致命的な感覚だった。


 彼らは、複数の未来から

“切るべきもの”を選ぶ存在だ。


 だが、一本しかないなら――

切る余地がない。


「……だが、壊れてはいない」


 ガラン=ディオルが、低く言う。


「被害は出ていない。

 暴走もない」


「だからこそ、

 判断が遅れる」


 セインは、即座に結論を出した。


「今回は、

 静観する」


 だが、その声には迷いが混じっていた。


「……静観でいいのか?」


 誰も、即答できなかった。



 一方、英雄は先に動いていた。


「次は、

 南東の街だ」


 ノイン=フェルツが、予測を示す。


「配置の流れが、

 完全に一致している」


「なら、

 先回りする」


 ヴァルハルト=レオンは、即断した。


 英雄は、“事件が起きてから”ではなく

“起きる前”に動く存在ではない。


 だが今回は、違った。


「今回は、

 間に合わなければいけない」


 それが、英雄としての直感だった。


 だが。


 到着した時、

すでに移送は始まっていた。


「……開始時刻が、

 予定より前倒しされています」


 イリス=アークライトの声が、静かに揺れる。


「どうして?」


「理由は、

 “前例により安全が確認されたため”」


 その一文が、全てだった。


 英雄が来るより早く、

判断は終わっていた。


 止める理由が、存在しない。


「……くそ」


 ヴァルハルトは、剣を握り締めた。


 敵はいない。

 斬る対象もない。


 正義を振るう場が、

最初から残されていない。



 その様子を、

少し離れた場所から見ていたのが

非裁定ノーリトリート》だった。


「……英雄、

 完全に先を取られたね」


 ミリアの声には、苛立ちが滲んでいた。


「想定内だ」


 レインは、淡々と答える。


「英雄は、

 “起きたこと”に対応する存在だ」


「でも、今回は

 起きる前だった」


「だから、

 対応できない」


 それは、責めではない。

 役割の違いだ。


「……蒼衡は?」


 リュカが聞く。


「切れない」


 レインは即答した。


「壊れていないから」


 三つの正義が、

すべて機能している。


 それでも、

選択肢は確実に減っている。


 ミリアが、静かに言った。


「……ねえ」


「なんだ」


「これ、

 “誰がやってるか”より」


 一拍、置く。


「“止められない形”になってるのが

 一番ヤバくない?」


 レインは、否定しなかった。


「そうだ」


 そして、静かに続ける。


「だから、

 次で終わらせる」


 それは、

初めて“期限”を置いた言葉だった。


 蒼衡は迷い、

英雄は遅れ、

世界機関は処理を終えた。


 盤面は、ほぼ完成している。


 残っているのは、

非裁定ノーリトリート》が

 立ち続ける意味だけだった。


 三度目は、朝だった。


 通達は夜のうちに出され、

移送は日の出と同時に始まっていた。


 準備期間は、存在しない。


「……早すぎる」


 ミリアの声は、もう驚きですらなかった。


「前回より、

 さらに半分だ」


 リュカの端末に映る時系列は、

もはや“判断”と呼べる余地がない。


 通知。

 即実行。

 記録。


 その間に、

人が考える時間は挟まれていなかった。


「対象者は?」


「五十四名。

 前回とほぼ同条件」


「拒否は?」


「……選択項目自体が、

 存在しない」


 その言葉で、

全員が理解した。


 三度目は、

条件①が完全に消えた。


 選択肢がない。

 拒否もない。

 やり直しもない。


 それは、

“最初から決まっていた処理”だ。



 英雄は、来なかった。


 呼ばれなかったからではない。

 呼ぶ意味がなかったからだ。


 蒼衡《そうこう/アズール・バランス》も同様だった。


 切る対象が、

どこにも存在しない。


 世界機関は、すでに動いている。


 完璧な手続き。

 完璧な移送。

 完璧な記録。


 そして、

完璧に“誰の責任でもない”。



 ミリアが、レインを見た。


 もう、問いはなかった。


「……ここだよね」


「ああ」


 レインは、はっきりと頷いた。


「待つ理由が、消えた」


 彼は、一歩前に出た。


 宣言はしない。

 命令もしない。


 ただ、

場の“前提”に手を入れる。


「エルド」


「了解」


 エルドが、移送車列の前に立つ。


 道を塞ぐわけじゃない。

 武器も構えない。


 ただ、

“通れるという前提”を、

 成立させない。


 車列が、止まる。


 誰かが怒鳴ることはない。

 警備も武器を抜かない。


「……手続きに問題がありますか?」


 責任者が、丁寧に尋ねる。


「あります」


 レインは、穏やかに答えた。


「この処理には、

 選択が含まれていません」


 責任者は、言葉に詰まった。


「安全のための措置です」


「安全は、

 理由になりません」


 レインの声は、冷静だった。


「選ばせないことの正当化には」


 その場に、沈黙が落ちる。


 誰も反論できない。

 だが、誰も同意もしない。


「代替案は?」


 責任者が、問い返す。


「今から作ります」


 レインは、即答した。


「時間がかかります。

 混乱も起きます」


「それでいい」


 初めて、

結果を許容する言葉だった。


「選ばせてください」


 それが、

非裁定ノーリトリート》の介入。


 誰も切らない。

 誰も殴らない。


 だが、

“選ばない世界”を止めた。



 その後、移送は延期された。


 即時ではない。

 混乱も出た。


 怒鳴る者も、文句を言う者もいた。


 それでも。


 人々は、話し始めた。


「本当に、ここを離れる必要があるのか」

「他のやり方はないのか」


 それは、

久しく見なかった光景だった。



 遠くから、それを見ていた存在がある。


 黒衣の男。

 三度目にして、初めて足を止めた。


「……なるほど」


 低い声。


「ここで、立つか」


 剣は抜かない。

 近づきもしない。


 だが――

次からは、想定に入れる。


 それだけを理解して、

男は踵を返した。



 拠点に戻ったノーリトリート。


 誰も、勝ったとは言わなかった。


「……面倒になったね」


 ミリアが、苦笑する。


「うん」


 レインは、疲れたように頷いた。


「これで、

 無視はされなくなった」


 世界機関は、

 正式に“再検討案件”として記録した。


 蒼衡は、

 “切れない存在”を認識した。


 英雄は、

 “先に立つ者”がいることを理解した。


 そして――

 敵は、

 ノーリトリートを

 想定に含めた。


 それが、

 この介入の、本当の意味だった。


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