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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第25章

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間に合った、という報告

 最初に届いたのは、たいしたことのない報告だった。


 街道沿いの中継拠点が一つ、半壊。

 周辺の魔獣が異常行動を示し、守備隊が一時的に後退。

 負傷者は出たが、死者はなし。


 世界機関の速報分類は「局地的戦闘」。

 脅威度は中。対応済み。


 ノーリトリートは、その後処理確認のために現地へ向かっていた。


「……思ったより、ちゃんと片付いてる」


 リュカが地図と報告書を照らし合わせながら言う。


 崩れた建物は応急処置が済み、人々は瓦礫を片付けながら日常へ戻ろうとしていた。泣いている者も、怒鳴っている者もいない。


 正義は、間に合っていた。


「蒼衡が先に入ってるな」


 エルドが足元の痕跡を見て言う。

 切断痕。戦闘の終わりを示す、迷いのない処理。


「英雄部隊も動いてたみたいだしね」


 ミリアは腕を組み、少しだけ不満そうに鼻を鳴らした。


「私たち、完全に後追いじゃん」


「そうだね」


 レインは肯定する。

 それが事実だった。


 現地責任者が近づいてきて、簡単な説明を始める。


「敵性存在は確認されましたが、対応部隊が即座に到着しました。被害はこの程度で収まっています」


「名前は?」


 リュカが訊ねる。


「不明です。姿は確認されましたが、長くは留まらず撤退しています」


 その言葉に、誰も特別な反応を示さなかった。


 よくある話だ。

 脅威は去り、正義が残った。


 ミリアが瓦礫の一部を蹴り、ぽつりと言う。


「……でもさ。

 ここ、もう一歩遅れてたら、結構ヤバかったよね」


「そうだね」


 レインは、崩れた壁と地面に残る痕を見ていた。


 戦闘痕は荒い。

 だが、壊し切ってはいない。


「でも間に合ったんだろ?」


 エルドの声は穏やかだった。

 事実を確認するだけの調子。


「間に合った。だから問題はない」


 世界機関の報告も、蒼衡の判断も、英雄の対応も――

 すべてがそう結論づけている。


 レインは頷いた。


「今日は、動く理由はなかった」


 ミリアは何か言いかけて、やめた。

 代わりに、小さく息を吐く。


「……そっか」


 その日の報告書には、こう記された。


局地的戦闘事案。

正義側の迅速な対応により被害は最小限。

再発の可能性は低い。


 誰も嘘は書いていない。

 誰も間違っていない。


 ただ一つだけ、レインの中に残った違和感を除いて。


 「この程度で、引いた理由」


 だが、それを口にする理由は、まだなかった。


 蒼衡アズール・バランスが到着したとき、戦闘はすでに終わっていた。


 終わっていた、というより――

終わらされていた。


 街外れの倉庫区画。半壊した建物と、焼け焦げた地面。

 だが、戦場としては奇妙なほど整理されている。


「……逃げた、のか?」


 先行して調査に入ったメンバーが、低く呟く。


「撤退だな。追撃できる距離じゃない」


 地面に残る痕跡は深い。

 攻撃の威力も、数も、十分に“災害級”だ。


 それでも――

壊し切っていない。


「被害報告は?」


「負傷者は出たが、死者なし。

 拠点機能は一時停止、復旧は可能」


 誰かが短く舌打ちした。


「……相手、相当強いぞ」


「分かってる」


 蒼衡にとって、強さそのものは問題ではない。

 問題なのは――切るべきかどうかだ。


 現場を一周し、指揮役が判断を下す。


「危険因子。だが、現在は撤退済み。

 追跡は行わない。ここで切る」


 迷いはなかった。

 切るべき対象は“存在”ではなく、“今この状況”だ。


 報告書には、簡潔な文言が並ぶ。


局地的戦闘事案。

未確認敵性存在と交戦。

対応部隊の迅速な介入により、被害は最小限に抑えられた。

危険度評価:高(現在は収束)。


 正しい。

 いつも通りの判断だ。


 装備を片付けながら、若いメンバーがぽつりと漏らす。


「……なあ」


「なんだ」


「さっきの、

 あれ――本気で暴れてたと思うか?」


 一瞬、空気が止まる。


「何を言ってる」


「いや……強かったのは間違いない。

 でもさ、もっと――やれただろ」


 否定できない沈黙が落ちた。


 現場の痕跡は雄弁だった。

 破壊はある。殺意もある。

 だが、決定打がない。


「考えるな」


 指揮役が言い切る。


「相手は逃げた。被害は抑えられた。

 それで十分だ」


「……はい」


 納得したわけではない。

 だが、判断は覆らない。


 蒼衡は、正しさを保つために存在する。

 曖昧さを持ち帰る場所ではない。


 撤収の合図が出される。


 最後に現場を振り返ったメンバーが、心の中でだけ思った。


 ――次は、もっと壊れる。


 だが、その予感は報告書には書かれない。

 書かれる必要がないからだ。


 蒼衡は今日も、

正しく仕事を終えた。


 英雄部隊が到着したとき、すでに街は半分、戦場になっていた。


 火の手。崩れた外壁。逃げ遅れた市民を守る防衛隊の必死な声。

 だが――まだ致命的ではない。


「間に合う」


 ヴァルハルト=レオンはそう言って、大剣を構えた。


 前線に立つ敵性存在は、一体。

 黒を基調とした装束。人型。圧倒的な圧力。


「……デカいな」


 ライザ=クロウデルが短く吐き捨てる。


「単独? 召喚体じゃない?」


「違う」


 ノイン=フェルツが即答した。


「これは――“戦っている”」


 その瞬間、敵が動いた。


 衝撃。

 空気が歪み、地面が沈む。


「っ……!」


 防衛隊が吹き飛ばされる寸前、光が走った。


「下がれ!」


 ヴァルハルトの剣が、正面から衝撃を受け止める。

 足元の地面が割れ、瓦礫が舞った。


「重い……!」


「でも、止まる!」


 イリス=アークライトの魔導が展開され、戦場の光量が一気に増す。

 逃げ道が確保され、市民が後方へ誘導されていく。


 英雄は、正しく連携していた。


 強敵だ。

 だが――勝てる。


「押すぞ!」


 ヴァルハルトが前に出る。

 力の信奉者として、迷いはない。


 剣撃。衝突。

 敵は確かに強い。だが、英雄の攻撃を“避けている”。


「……?」


 ライザが一瞬、眉をひそめる。


「今の、当たってたよね?」


「外した。……いや、外された?」


 ノインが視線を走らせる。


「撤退線を――確保している?」


 答えは、すぐに出た。


 敵が一歩引く。

 戦場の圧が、ふっと抜ける。


「……今日は、ここまでだ」


 低い声。

 それだけを残して、敵は後退した。


「待て!」


 ヴァルハルトが踏み込もうとした瞬間、

光と影が交錯し、視界が遮断される。


 次の瞬間、敵の姿は消えていた。


 残ったのは、壊れかけた街と、

間に合った結果だけだ。


「……逃げた、か」


「いや」


 イリスが、静かに首を振る。


「“引いた”だけ」


 英雄たちは互いに視線を交わす。


 被害は大きい。

 だが、死者は出ていない。

 街は、まだ戻れる。


 世界機関の連絡が入る。


局地的戦闘事案。

英雄部隊の迅速な対応により被害拡大を防止。

対応成功。


 正しい結論だった。


 ヴァルハルトは剣を下ろし、深く息を吐く。


「……次も、呼ばれるな」


「ええ」


 ノインは資料端末を閉じる。


「同様の案件が、すでに二件」


 一瞬の沈黙。


「でも」


 ライザが軽く笑って言う。


「まだ、勝ってる」


 誰も否定しなかった。


 英雄は勝った。

 正義は間に合った。


 だからこの戦いは、

**“処理済み”**として記録される。


 ただ一人、イリスだけが、戦場の痕を見つめていた。


 ――壊せたはずだ。

 ――それでも、壊さなかった。


 その理由を、

今はまだ、言葉にしなかった。


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