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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第24章 古代種編

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止まったあとに残るもの

世界は、

静かだった。


嵐のあと、

ではない。


火事のあと、

でもない。


ただ、

止まったあとの静けさ。


街では、

作業が続いている。


瓦礫をどかし、

名簿を照合し、

報告書が積まれていく。


「……思ったより

 混乱してないな」


ミリアが、

遠景を見ながら言う。


「人は

 慣れるからな」


リュカが答える。


「異常にも、

 悲劇にも」


エルドは、

言葉を挟まない。


代わりに、

足元の地面を

確かめるように踏む。


「……軽い」


その一言が、

すべてを表していた。


「世界が、

 一段

 軽くなってる」


レインは、

街全体を見渡す。


解析は、

していない。


だが、

前提の変化は

肌で分かる。


「古代種が

 止まった」


「それだけで」


一拍。


「判断の重さが

 均されました」


遠くで、

蒼衡が動いている。


整然と、

効率的に。


「……切ってるね」


ミリアが、

小さく言う。


「必要なところだけ」


「うん」


レインは、

否定しない。


「彼らは

 間違っていません」


「この状況では

 最善です」


さらに奥、

英雄たちが

別の現場に向かう。


光が走り、

衝撃が遅れて届く。


「……救ってる」


ミリアの声は、

少しだけ

羨望を含んでいた。


「うん」


レインは、

頷く。


「英雄は

 正しい」


沈黙。


それでも。


「……じゃあ」


ミリアが、

こちらを見る。


「私たちは?」


レインは、

すぐには答えない。


街の音を、

聞く。


報告。

指示。

感謝。


そして、

見えないところで

積み上がるもの。


「……歪みは」


レインは、

静かに言う。


「消えていません」


リュカが、

視線を鋭くする。


「形を

 変えただけ、か」


「はい」


「判断が

 減ったぶん」


「責任が

 遅れて

 溜まっています」


エルドが、

低く唸る。


「……後払い、

 というやつじゃな」


「ええ」


レインは、

肯定する。


「世界は

 今」


一拍。


「“楽になった”

 ふりを

 しているだけです」


風が、

吹き抜ける。


空は、

よく晴れている。


だが。


「……来るね」


ミリアが、

呟く。


「うん」


レインは、

目を細める。


「大きな

 事件では

 ありません」


「でも」


言葉を選ぶ。


「選ばなかった

 結果が

 形になる」


それは、

爆発ではない。


革命でも、

侵略でもない。


もっと、

日常に近いもの。


「……面倒だな」


リュカが、

笑う。


「一番」


レインも、

小さく笑った。


非裁定ノーリトリート》は、

まだ動かない。


だが、

目は逸らさない。


止まったあとに

残るものを、


拾う準備だけは

 している。


通達は、

簡潔だった。


「古代種関連事案は

 すべて収束した」


「世界の安定は

 確認された」


「今後の復旧は

 各自治体に

 委ねられる」


掲示板に貼られ、

魔導通信で流れ、

記録として保存される。


「……終わった、

 ってこと?」


誰かが、

小さく言った。


「終わったらしいぞ」


別の声。


安堵と、

戸惑いが混じる。


非裁定ノーリトリート》は、

少し離れた場所で

それを見ていた。


「……言い切ったな」


ミリアが、

眉をひそめる。


「世界機関らしい」


リュカは、

淡々としている。


「責任を

 確定させるための

 言葉だ」


「でも」


ミリアは、

視線を逸らさない。


「助かってない人も

 いる」


レインは、

掲示板から

少し外れた場所を見る。


瓦礫の陰。

仮設の壁。

名前の書かれていない

白い布。


「……終わったと

 言われると」


小さな声が、

聞こえた。


「悲しむのが

 遅れた気が

 する」


レインは、

その言葉を

胸に留める。


近づかない。

声をかけない。


だが、

見逃さない。


「世界機関は

 間違っていません」


レインは、

小さく言う。


「収束した、

 という判断は

 正しい」


エルドが、

低く問う。


「……それでも?」


「それでも」


レインは、

続ける。


「回収されていない

 感情が

 残っています」


リュカが、

視線を巡らせる。


「数は?」


「少数です」


「でも」


一拍。


「消えません」


ミリアが、

腕を組む。


「英雄も

 蒼衡も」


「世界機関も」


「ちゃんと

 やってるのにね」


「はい」


レインは、

否定しない。


「だからこそ」


「私たちが

 やることは

 増えます」


遠くで、

拍手が起こる。


復旧作業が

一区切りついた

らしい。


「……行く?」


ミリアが、

レインを見る。


レインは、

首を横に振る。


「今は、

 まだです」


「今触ると」


「終わった、

 という言葉を

 壊してしまう」


エルドが、

頷く。


「……壊さん役、

 じゃな」


「はい」


「壊さずに

 残るものを

 受け止める」


レインは、

静かに言う。


掲示板の文字は、

剥がされない。


公式見解は、

撤回されない。


だが。


その隙間に、

言葉にならない

ものが残る。


非裁定ノーリトリート》は、

それを見ている。


選ばず、

切らず、

忘れない。


夜は、

静かに降りてきた。


昼のざわめきが

嘘のように、

街は落ち着いている。


非裁定ノーリトリート》は、

建物の屋上に立っていた。


誰も、

座らない。


「……ねえ」


ミリアが、

手すりに肘をついて言う。


「私たちって」


「いつ動くの?」


その問いは、

責めでも焦りでもなかった。


ただ、

知りたかっただけだ。


レインは、

街の灯りを見る。


一つ一つは、

弱い。


だが、

集まると

十分に明るい。


「……条件があります」


リュカが、

視線を向ける。


「どんな?」


「“困っている”

 だけでは

 動きません」


ミリアが、

少し意外そうな顔をする。


「……冷たい?」


レインは、

首を横に振る。


「違います」


「困っている人は

 常にいます」


「それに

 全部応えたら」


一拍。


「世界の代わりに

 選ぶことになる」


エルドが、

低く頷く。


「……線を引いとる、

 ということか」


「はい」


レインは、

続ける。


「英雄が

 動ける」


「蒼衡が

 切れる」


「世界機関が

 宣言できる」


「その間は」


「私たちは

 動きません」


ミリアが、

少し考える。


「……じゃあ」


「全部が

 壊れたら?」


レインは、

即答しなかった。


しばらく、

夜風を感じてから

言う。


「全部が

 壊れたら」


一拍。


「もう、

 選択が

 残っていません」


その言葉は、

重かった。


「……その時は」


リュカが、

静かに聞く。


「動く?」


「はい」


レインは、

はっきり言う。


「その時は」


「切らない」


「選ばない」


「でも」


目を閉じる。


「受け止めます」


それは、

行動ではない。


役割だ。


ミリアが、

小さく笑う。


「……重たいね」


「ええ」


レインも、

笑う。


「一番」


エルドが、

盾を背負い直す。


「だが」


「嫌いではない」


誰も、

否定しなかった。


街の灯りが、

ゆっくりと揺れる。


世界は、

まだ回っている。


正義も、

秩序も、

選択も。


非裁定ノーリトリート》は、

その少し外側に立ち、

線を引いたまま

見ている。


動かないために。

壊さないために。


そして――

忘れないために。

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