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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第24章 古代種編

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忘れられなかった者の声

空間は、

静かだった。


広いわけでも、

狭いわけでもない。


ただ――

長い時間が沈殿した場所だった。


非裁定ノーリトリート》は、

足を止める。


誰も、

武器を構えない。


ここでは、

それが意味を持たないと

直感していた。


「……ここが」


ミリアが、

小さく息を吸う。


「古代種の……」


言葉は、

続かなかった。


前方に、

“いる”。


それは、

巨大ではない。


威圧もしない。


ただ、

在り続けたものの重さだけがあった。


「若者よ」


声は、

老いていた。


だが、

弱くはない。


「おおいに

 悩め」


レインは、

一歩も動かない。


解析も、

しない。


ただ、

聞く。


「選択とはな」


一拍。


「正しさの競争では

 ない」


「後悔は、

 先には立たん」


言葉は、

ゆっくり落ちる。


「もしお主が」


「自分の意に

 反することをして」


「その先で

 後悔するくらいなら」


静かな、

断定。


「その選択は、

 最初から

 せんでよい」


ミリアが、

小さく目を見開く。


リュカは、

何も言わない。


エルドは、

ただ立つ。


「世界は」


始祖は、

続ける。


「選ばせることに

 慣れすぎた」


「だが」


「選ばぬことも

 また」


一拍。


「一つの

 在り方じゃ」


レインの、

胸の奥が

微かに揺れる。


「……あなたは」


レインは、

初めて口を開いた。


「後悔している

 のですか」


始祖は、

すぐには答えない。


長い沈黙。


それから。


「しておる」


即答だった。


「わしには

 もう、あとがない」


「長く生きたい者の

 言葉じゃ」


「だからこそ」


声が、

少しだけ

柔らぐ。


「お主は

 自分が

 後悔せん選択を

 せよ」


「世界のため、

 ではない」


「正義のため、

 でもない」


「お主自身のために」


そして。


最後の言葉。


「……一つだけ

 頼みがある」


空気が、

張り詰める。


「わしたちが」


「ここにいたことを

 忘れんでほしい」


その瞬間。


世界が、

反転した。


視界が、

割れる。


時間が、

流れ込む。


模写理解アナライズ・コピー》が、

意志とは無関係に

 起動した。


それは、

技ではない。


命令でも、

選択でもない。


――理解だ。


古代の空。

初めて刻まれた記録。

世界を守るために

切られた未来。


繰り返された判断。

繰り返された後悔。

忘れられていく存在。


レインは、

見る。


壊れた歴史ではない。


使われ切った歴史を。


走馬灯のように、

だが、

逃げ場なく。


そして、

戻る。


膝は、

つかない。


震えも、

ない。


「……分かりました」


レインは、

静かに言う。


「私は」


一拍。


「これからも

 《非裁定ノーリトリート》として

 生きます」


「選ばない」


「切らない」


「それで

 後悔するなら」


目を上げる。


「それも、

 私のものです」


始祖は、

微かに笑った。


それが、

最後だった。


空間は、

静かに

終わりを迎える。


だが、

忘却は

始まらない。


音が、

消えていった。


爆発でも、

崩壊でもない。


ただ、

続いていたものが

 終わった音だった。


空間は、

元の形を保っている。


だが、

何かが

確実に抜け落ちている。


「……終わった?」


ミリアが、

小さく聞く。


「正確には」


リュカが、

周囲を見渡す。


「終わり続けてる」


エルドは、

盾に手を添えたまま

動かない。


「壊れとらん」


「消えてもおらん」


「ただ……

 役目を降りた」


その表現が、

一番近かった。


遠くで、

何かが落ちる音。


街の方角だ。


だが、

悲鳴はない。


混乱も、

怒号もない。


「……古代種」


ミリアが、

呟く。


「暴れてた

 はずなのに」


レインは、

目を閉じる。


解析は、

しない。


だが、

分かる。


古代種は、

倒されたわけではない。


封じられた

わけでもない。


「動作条件が

 満たされなくなった」


「それだけです」


リュカが、

眉をひそめる。


「始祖が……」


「始祖が

 “続けない”と

 決めた」


レインは、

静かに言う。


「だから、

 もう続かない」


世界は、

すぐには変わらない。


瓦礫は

そのまま残り、

壊れた建物も

元には戻らない。


だが。


「……判断の音が」


ミリアが、

耳に手を当てる。


「減ってる」


レインも、

それを感じていた。


あちこちで

行われていた

即断・即裁定。


正義の速度。


それが、

一段階

 落ちた。


「世界が

 一息ついた」


エルドが、

低く言う。


「長く

 走らされ過ぎとった」


遠くで、

鐘が鳴る。


誰かが

鳴らしたわけではない。


仕組みが、

止まっただけだ。


「……戻ろうか」


ミリアが、

言う。


「うん」


レインは、

頷く。


「でも」


一拍。


「元の場所には

 戻りません」


リュカが、

笑う。


「知ってる」


「もう

 元なんて

 ない」


非裁定ノーリトリート》は、

歩き出す。


背後で、

長い時代が

静かに終わる。


忘れられないように

願われた存在は、

もう動かない。


だが。


記録は、

残った。


理解は、

刻まれた。


それだけで、

十分だった。


街は、

動き出していた。


復興、

調査、

再配置。


どれも、

正しい。


どれも、

急ぎすぎてはいない。


「……英雄が

 入ってる」


ミリアが、

遠くを指す。


瓦礫の向こう、

光が走る。


派手ではないが、

確実な制圧。


「蒼衡も

 動いてるな」


リュカが、

視線を細める。


判断は、

まだ生きている。


選択も、

止まってはいない。


「……行かなくて

 いいの?」


ミリアの声には、

責めはない。


ただの、

確認だ。


レインは、

首を横に振る。


「今は」


一拍。


「私たちが

 触ると

 歪みます」


エルドが、

低く息を吐く。


「力が

 ありすぎる、

 ということか」


「理解が、

 ですね」


レインは、

静かに答える。


「私は」


「世界が

 どう動くかを

 知ってしまった」


「だから」


言葉を、

選ぶ。


「今ここで

 手を出すと」


「“最適解”を

 置いてしまう」


リュカが、

苦笑する。


「……便利だが、

 最悪だな」


「はい」


レインも、

小さく笑う。


「選ばせない

 はずが」


「私が

 選んでしまう」


沈黙。


街の音が、

遠くで続く。


「……じゃあ」


ミリアが、

一歩前に出る。


「私たちは

 何をするの?」


レインは、

すぐには答えない。


だが、

迷ってはいない。


「立ちます」


「割り込まない場所に」


「切らない位置に」


「選択が

 重ならない距離で」


エルドが、

頷く。


「……受け止め役、

 じゃな」


「はい」


レインは、

肯定する。


「世界が

 選んだ結果を」


「良くも

 悪くも」


「回収しない

 役です」


ミリアが、

少しだけ

肩をすくめる。


「地味だね」


「ええ」


「でも」


レインは、

空を見上げる。


「忘れない

 ためには」


「誰かが

 黙って

 見ていないと

 いけない」


あの声が、

脳裏をよぎる。


――忘れないでほしい。


それは、

命令ではない。


願いだ。


「……私は」


レインは、

小さく言う。


「これからも

 《非裁定ノーリトリート》です」


「理解しても、

 壊さない」


「知っても、

 選ばない」


「後悔するなら」


一拍。


「それも

 私の責任です」


誰も、

異を唱えなかった。


街は、

今日も動いている。


英雄は、

戦い続ける。


蒼衡は、

裁定を続ける。


世界は、

止まらない。


だが。


その少し外側に、

静かに立つ者たちが

いる。


選ばず、

切らず、

それでも

前線に立つ者たち。


非裁定ノーリトリート》は、

今日もそこにいる。

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