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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第3章

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世界の設計図

夜明け前。


街は、まだ眠っている。


だが――

世界は眠っていなかった。


宿の一室。

簡素な机の上に、魔導書が開かれている。


古代魔導書。

だが、内容は「魔法」ではない。


式。

構造。

分岐。


「……なるほど」


レインは、低く呟いた。


模写理解アナライズ・コピー》が、

静かに回り続けている。


だが今回は――

何かをコピーしていない。


(……見ているだけでいい)


(……理解すれば、

 勝手に“写る”)


ページに書かれているのは、

魔力循環の基礎図。


どこにでもある。

初歩中の初歩。


だが。


(……違う)


(……これは、

 “人”のための設計じゃない)


線と線のつながり。

余白の意味。

意図的に省かれた分岐。


すべてが、

一つの思想に収束している。


(……選択肢を、

 減らす)


(……迷わせない)


(……間違わせない)


レインは、

ゆっくりとページを閉じた。


そして、

目を閉じる。


《模写理解》が、

対象を切り替える。


――街。


石畳。

魔力導線。

監査塔。


結界。

規程。

許可時間。


それらが、

一枚の設計図として

頭の中に展開される。


「……そういうことか」


この街は、

偶然こうなったのではない。


誰かが、

こうなるように組んだ。


安全。

秩序。

最適化。


だがその前提は――

人は、

 選ばせると壊れる

という思想。


「……逆だ」


レインは、

小さく笑った。


「選ばせないから、

 壊れる」


その瞬間。


《模写理解》が、

一段階深く沈む。


――理解対象、更新。


【管理魔導体系】

【因果固定術式】

【均衡演算フレーム】


コピーではない。

盗用でもない。


分解だ。


(……魔法じゃない)


(……これは、

 “社会構造を

 魔術化したもの”)


レインは、

ようやく気づく。


なぜ、

この世界で

「管理」が

魔法より強いのか。


なぜ、

英雄ですら

歯車になるのか。


「……世界そのものが」


「……巨大な

 術式だ」


その理解が、

完成した瞬間。


魔導書の文字が、

静かに変わった。


いや――

読めるようになった。


今まで、

意味を持たなかった章。


《核心章》。


そこに、

こう書かれている。


――術式とは、

望まれる未来を

先に決める行為である。


レインは、

息を吐いた。


「……なら」


「壊す方法も、

 一つだ」


視線を、

窓の外へ。


まだ静かな街。


だが――

もう、設計図は

完全に見えている。


(……管理は、

 万能じゃない)


(……選択を

 “許可制”にした時点で)


(……必ず、

 例外が生まれる)


レインは、

小さく呟いた。


「……次は」


「街を壊さないで、

 均衡だけを

 止める」


背後で、

小さな音。


「……レイン?」


ミリアが、

目を擦りながら立っていた。


「……寝てませんよね」


「ええ」


レインは、

振り返る。


「……でも」


微笑む。


「勝ち筋が、

 全部見えました」


ミリアは、

一瞬きょとんとしてから、

苦笑した。


「……それ、

 一番怖いやつじゃ

 ないですか」


レインは、

否定しない。


「ええ」


「……世界にとっては」


夜明けの光が、

差し込む。


静かな街。


だが――

世界の設計図は、

 もう彼の手の中にある。


変更は、

あまりにも小さかった。


誰も、

“攻撃”だとは思わない。


だからこそ――

致命的だった。


朝。


街は、いつも通りに動き出す。


鐘が鳴り、

市場が開き、

巡回が始まる。


何一つ、

壊れていない。


だが。


「……あれ?」


露店の男が、

首を傾げた。


「……今、

 許可時間だよな?」


端末を確認する。


間違いない。

能力使用、許可内。


《微風操作》。


火を煽るための、

ごく小さな魔法。


……発動しない。


「……おかしいな」


再試行。


今度は、

少し強めに。


――発動する。


「……?」


周囲の誰も、

気にしない。


ただの不調。

よくある話。


同じ頃。


別の通り。


治癒魔法を使う女が、

一瞬だけ手を止めた。


「……今の」


「……効きが、

 遅れた?」


致命傷ではない。

問題はない。


でも――

“即時”ではなかった。


宿の部屋。


レインは、

机に指を置いたまま

動かない。


模写理解アナライズ・コピー》が、

“街”を見ている。


(……管理術式は、

 即応性を前提にしている)


(……だから)


(……“遅延”に、

 極端に弱い)


レインがやったことは、

破壊ではない。


均衡演算に、

0.3秒の揺らぎを

入れただけ。


結果は、

変わらない。


ただ――

結果に至るまでの

 保証が消えた。


監査塔。


端末に、

警告が灯る。


【軽微誤差】

【演算遅延:0.27秒】


「……誤差?」


監査官が、

眉をひそめる。


「……環境要因か?」


「……様子見だな」


報告は、

上に上がらない。


“想定範囲内”だからだ。


昼。


街は、

まだ平和だ。


だが――

空気が、違う。


能力者たちが、

自分の感覚を

 確認するようになる。


「……今の、

 俺の判断だよな?」


「……待てば、

 通ったか?」


初めて、

人が考える。


規程ではなく。

端末でもなく。


自分で。


夕方。


リュカが、

小さく言った。


「……レイン」


「……揺れ、

 変わった」


「……管理の揺れが、

 “人”に戻ってきてる」


レインは、

頷いた。


「ええ」


「均衡は、

 まだ動いています」


「……でも」


一拍。


「主導権が、

 街に戻り始めました」


ミリアが、

腕を組む。


「……つまり」


「もう、

 戻れない?」


レインは、

即答した。


「戻りません」


「均衡は、

 “完璧であること”が

 前提です」


「……一度でも

 完璧じゃなくなれば」


視線を、

窓の外へ。


人々が、

少しだけ考えながら

歩いている。


「もう、

 管理だけでは

 支えられません」


その夜。


監査塔に、

赤い警告が灯る。


【誤差累積】

【因果保証低下】


初めての、

想定外。


レインは、

静かに息を吐いた。


「……第一段階、

 完了」


戦争は、

まだ始まっていない。


だが――

世界は、

 仕様通りに

 動かなくなった。


最初に選んだのは、

勇者でも、英雄でもなかった。


市場の隅。

小さな露店の老婆だった。


「……あら」


老婆は、鍋をかき混ぜながら首を傾げる。


「今日は、

 火が弱いねぇ」


端末を見る。

許可時間内。

問題なし。


なら――

自分で火を足す。


ほんの少しだけ、

魔力を込める。


《火花点灯》。


一拍遅れて、

火が灯る。


「……遅いけど」


老婆は、

それ以上気にしなかった。


「まぁ、

 いいかね」


それだけ。


誰も咎めない。

監査官も来ない。


ただ、

老婆は確認した。


「……私が、

 やったんだね」


その事実を。


昼。


別の通り。


若い男が、

荷運びをしていた。


以前なら、

能力を使うかどうか

端末を確認してから決めていた。


だが今日は。


「……今、

 いける気がする」


自分の身体感覚を、

信じる。


《筋力補助》。


少し遅れて、

力が乗る。


荷は、

無事に運ばれた。


「……おお」


男は、

思わず笑った。


「……俺、

 ちゃんと判断したな」


それは、

小さな達成感。


だが――

管理では与えられない感覚。


その頃。


宿の窓から、

ミリアが街を見下ろしていた。


「……ねぇ、レイン」


「見て」


通りを行く人々。


歩き方が、

ほんの少し違う。


速さではない。

向きでもない。


迷いと、決断がある。


レインは、

静かに答える。


「……ええ」


「始まりました」


監査塔。


警告音が、

止まらない。


【誤差累積】

【自主判断率 上昇】

【規程依存度 低下】


「……おかしい」


監査官が、

額に汗を浮かべる。


「違反は、

 増えていない」


「犯罪も、

 増えていない」


「……なのに」


端末の表示が、

赤く点滅する。


【均衡予測精度 低下】


「……人が、

 勝手に判断している」


それは、

この街にとって

最悪の兆候だった。


夕方。


リュカが、

ぽつりと言った。


「……ぼく」


「……ここ、

 少しだけ

 息できる」


ミリアが、

微笑む。


「よかったですね」


「……でも」


リュカは、

続けた。


「……怖い」


「……みんな、

 まだ慣れてない」


レインは、

否定しない。


「ええ」


「選択は、

 常に不安を

 伴います」


「……それでも」


一拍。


「戻らない方が、

 いい」


ミリアが、

小さく笑う。


「……前線ですね」


「ええ」


レインも、

同意する。


「今回は、

 街全体が」


夜。


鐘が鳴る。


だがその音は、

昨日までと同じではない。


規程を告げる音ではなく――

時を知らせるだけの音。


人々は、

立ち止まらない。


自分の判断で、

歩き続ける。


街は、

まだ管理されている。


だが――

管理だけでは、

 成立しなくなった。


レインは、

小さく呟いた。


「……第二段階、

 完了」


世界は、

確実に変わり始めていた。


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