表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/378

最初の違和感

朝は、昨日と同じように始まった。


鐘の音。

巡回の足音。

決められた時間に開く店。


完璧な日常。


だが――

三人の視点では、すでに違って見えていた。


「……今日も、

 何も起きませんね」


ミリアが言う。


「ええ」


レインは、

通りの奥を見ながら答えた。


「……起きないように

 作られています」


広場では、

昨日と同じように人が集まっていた。


能力者も、

非能力者も、

区別なく働いている。


だが。


「……あ」


リュカが、

小さく声を上げる。


視線の先。


昨日の女性とは別の男。


荷物を持ち上げる際、

ほんの一瞬だけ能力を使った。


《筋力補助》。


ほんの補助程度。

誰も困らない。


だが――

許可時間外。


「……来ます」


リュカが、

息を詰める。


案の定。


「――能力使用確認」


監査員が、

姿を現す。


男は、

慌てて頭を下げた。


「……すみません」


「……少し、

 無意識で……」


監査員は、

淡々と端末を見る。


「軽度違反」


「対応を――」


その瞬間。


レインが、

一歩前に出た。


「……少し、

 待ってください」


周囲の空気が、

ぴたりと止まる。


監査員が、

初めてレインを見る。


「……関係者ですか?」


「いいえ」


即答。


「通行人です」


「……では、

 干渉は――」


「質問です」


レインは、

静かに言葉を重ねた。


「この違反で、

 具体的な被害は?」


監査員は、

一瞬だけ黙る。


「……規程違反です」


「被害の有無は、

 判断基準ではありません」


「では」


レインは、

首を傾げる。


「この行為で、

 誰が守られましたか?」


ざわり。


周囲の人々が、

初めて“見る”。


監査員の視線が、

鋭くなる。


「……質問は、

 許可されていません」


「……では、

 もう一つ」


レインは、

引かない。


「この方は、

 今後、

 能力を使うことを

 怖がります」


「それは――

 街の安全に

 寄与しますか?」


沈黙。


それは、

マニュアルにない問いだった。


「……監査官」


ミリアが、

一歩前に出る。


剣は抜かない。


だが――

前線に立つ姿勢。


「この人は、

 逃げません」


「……逃げなくていい

 街なんでしょう?」


監査官は、

周囲を見渡す。


人々の視線。


昨日まで、

なかったもの。


「……今回は」


一拍。


「口頭注意とする」


男が、

目を見開く。


「……え?」


「次は、

 規程に従います」


そう言い残し、

監査官は去った。


広場に、

ざわめきが広がる。


小さい。

だが――

確実な波紋。


「……今の」


リュカが、

呆然と呟く。


「……壊した?」


レインは、

小さく首を振った。


「……いいえ」


「揺らしただけです」


ミリアが、

静かに言う。


「……でも」


「前線、

 できましたね」


レインは、

頷いた。


「ええ」


「この街に、

 初めて」


一拍。


「立った人が、

 生まれました」


遠くで、

鐘が鳴る。


だがその音は、

昨日より少しだけ

違って聞こえた。


街は、

まだ平和だ。


だが――

完成形に、

 ひびが入った。


噂は、音もなく広がった。


広場での出来事は、

誰も大声で語らない。


だが――

人は、誰かに話す。


「……あれ、

 見た?」


「監査官が、

 引いたって」


「……初めてじゃない?」


小さな声。

確かめるような視線。


それだけで、

十分だった。


市場の端。


昨日まで、

能力使用を極端に避けていた男が、

今日は少しだけ背筋を伸ばしている。


《火花点灯》。


指先に、

小さな火。


調理用だ。

規程範囲内。


だが――

周囲を見る目が、違う。


「……使っていいんだよな?」


隣の女が、

小さく頷く。


「……昨日、

 止められなかったって」


「……あの人たち、

 いたでしょ」


三人の姿は、

目立たない。


だが――

見られている。


宿に戻った三人。


リュカは、

落ち着かない様子で

窓の外を見ていた。


「……レイン」


「……なんか」


「……揺れてる」


「ええ」


レインは、

静かに答える。


「街全体の位相が、

 微妙にズレています」


「……いいズレですか?」


ミリアが聞く。


「……制御されていた

 “均一”が、

 崩れ始めています」


それは、

不安定さでもある。


だが。


「……選択が、

 生まれました」


リュカは、

胸に手を当てる。


《位相同調【フェイズ・シンク】》が、

以前ほど暴れない。


むしろ――

街の揺れに、

 引っ張られなくなっている。


「……ぼく」


「……ここに来てから、

 初めてだ」


「……息、

 楽」


ミリアは、

少し驚いた顔をした。


「……それは」


「この街が、

 変わってきてる

 ってことですね」


その頃。


街の中央監査塔。


白い室内。


「……報告」


端末を操作する監査官が、

淡々と読み上げる。


「広場にて、

 規程軽度違反を

 現場判断で保留」


「周囲住民の

 反応、

 通常より活性」


上席監査官が、

目を細める。


「……誰が

 干渉した?」


「……部外者三名」


「……能力使用、

 未確認」


沈黙。


「……思想介入か」


上席は、

低く呟く。


「危険度が、

 測れん」


「……均衡は、

 静かに壊れるのが

 一番厄介だ」


端末に、

新たな指示が表示される。


【監視強化】

【接触優先】

【強制回収、保留】


「……まだ、

 潰す段階じゃない」


「……観察する」


夜。


宿の部屋。


三人は、

簡単な夕食を取っていた。


「……今日は、

 戦ってませんね」


ミリアが、

少し笑う。


「ええ」


レインも、

同意する。


「……ですが」


「一番、

 疲れるやつです」


リュカが、

小さく頷く。


「……でも」


「……怖くない」


その言葉に、

二人は何も言わなかった。


それで、

十分だった。


街は、

まだ静かだ。


だが――

完成形は、

 もう戻らない。


ひびは、

確かに広がっている。


夜半。


宿の扉が、

叩かれた。


強くもなく、

急かすでもない。


だが――

逃げ場を与えない音だった。


「……来ましたね」


ミリアが、

小さく言う。


「ええ」


レインは、

すでに立ち上がっている。


扉を開けると、

そこにいたのは二人。


昼間の監査官とは違う。

装備も、立ち姿も、明らかに上位。


「――失礼」


穏やかな声。


「均衡監査庁、

 対話担当官です」


名乗りは、

あくまで“対話”。


「少し、

 お時間をいただけますか」


ミリアが、

一歩前に出る。


「……拒否したら?」


担当官は、

微笑んだ。


「記録が残ります」


「それだけです」


拒否権は、

あるようでない。


三人は、

部屋に通した。


椅子に腰掛けた担当官は、

すぐに本題に入った。


「……昨日から」


「この街の均衡に、

 わずかな変動が

 観測されています」


レインは、

黙って聞いている。


「原因は、

 “能力”ではありません」


「……言動です」


ミリアの眉が、

わずかに動く。


「……言葉が、

 問題ですか?」


「ええ」


担当官は、

頷く。


「この街は、

 選択を減らすことで

 安全を保っています」


「それは、

 多くの人にとって

 最善です」


リュカが、

小さく呟いた。


「……ぼくには、

 違った」


担当官は、

一瞬だけ視線を向ける。


「……君は、

 例外です」


その一言で、

空気が冷えた。


「例外は、

 統計を乱します」


「乱れは、

 恐怖を生みます」


「恐怖は――

 暴力を呼びます」


ミリアの声が、

低くなる。


「……だから、

 選ばせない?」


「ええ」


担当官は、

迷いなく答える。


「選択は、

 強い者だけに

 許されるべきです」


沈黙。


レインが、

静かに口を開いた。


「……では」


「あなた方は、

 強いと?」


担当官は、

少しだけ笑った。


「……我々は」


「強さを、

 定義する側です」


その言葉で、

すべてが揃った。


レインは、

椅子から立つ。


「……警告ですね」


「ええ」


担当官も、

立ち上がる。


「この街では」


「これ以上の

 “揺らぎ”を

 許容できません」


「――今夜をもって」


「介入を、

 お控えください」


ミリアが、

即答する。


「……できません」


担当官は、

驚かない。


「理由を」


ミリアは、

剣に触れない。


だが――

立ち位置は、

 完全に前線。


「……人は」


「選ばなくなると、

 立てなくなります」


「それは――」


一拍。


「守ってるんじゃない。

 縛ってる」


担当官は、

深く息を吐いた。


「……残念です」


「では」


扉へ向かいながら、

振り返る。


「次は、

 対話ではありません」


「――記録に

 残します」


扉が、

静かに閉まる。


しばらく、

誰も動かなかった。


「……宣戦布告、

 ですよね」


リュカが、

小さく言う。


「ええ」


レインは、

即答する。


「……でも」


ミリアが、

窓の外を見る。


「もう、

 戻れませんね」


レインは、

頷いた。


「最初から、

 戻る気は

 ありませんでした」


リュカは、

二人を見る。


怖さは、

ある。


だが――

逃げたいとは、思わない。


「……ぼく」


「……間違ってないよね?」


ミリアは、

はっきり言った。


「間違ってません」


レインも、

続ける。


「……選ばせない仕組みは、

 壊されるべきです」


外で、

鐘が鳴る。


だがその音は、

もはや“安心”ではない。


管理が、

敵になった瞬間だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ