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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第3章

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立ち位置を知らぬ者たち

街を出るのは、朝だった。


特別な見送りはない。

英雄も、街の代表も、そこにはいない。


あるのは、

普段通りの朝の音だけ。


「……静かですね」


ミリアが、荷を背負いながら言った。


「ええ」


レインは、街の門を一度だけ振り返る。


結界は、もう落ち着いている。

街は、再び「街」に戻った。


「……あのまま居ても、

 問題はなかったと思いますけど」


ミリアが、少しだけ首を傾げる。


「ええ」


レインは、否定しない。


「ですが――

 あそこに留まる理由も、

 ありません」


ミリアは、

少し考えてから笑った。


「……確かに」


「前線も、

 固定しすぎると

 鈍りますし」


「ええ」


二人は、並んで歩き出す。


舗装の甘い街道。

人の往来。


だが――

空気が、どこか違う。


(……見られている)


レインは、

はっきりとそう感じた。


視線ではない。

魔力でもない。


“評価”。


「……ミリア」


「はい」


「……この先」


一拍。


「少し、

 面倒なことになります」


ミリアは、

即答した。


「……それ、

 今までずっとじゃないですか」


レインは、

小さく笑った。


「……確かに」


だが。


街道の先、

丘の向こう。


風に混じって、

微かな声が届く。


――「確認対象、二名」


――「能力者、確定」


――「保護か、

 排除か」


ミリアの足が、

止まる。


「……来てますね」


「ええ」


レインは、

魔導書に手を置いた。


だが――

開かない。


(……今は、

 読まなくていい)


「……行きましょう」


ミリアは、

剣に手をかける。


「前線は、

 私が立ちます」


レインは、

その背中を見る。


もう、

迷いはなかった。


英雄でもない。

街の守護者でもない。


それでも――

立ち位置を理解している者は、

 どこに行っても、

 戦場を作る。


新しい章は、

すでに動き始めていた。


丘を越えた先で、彼らは足を止めた。


街道の脇。

簡易的に整えられた野営地。


だが――

隙がない。


配置、視線、立ち位置。

偶然集まった旅人のそれではなかった。


「……組織ですね」


ミリアが、低く言う。


「ええ」


レインも、同意する。


「しかも――

 能力者慣れしています」


三人。


中央に立つ男。

白と灰を基調とした外套。

装飾は少ないが、どこか宗教的な意匠がある。


その男が、一歩前に出た。


「――失礼」


声は穏やかだ。


だが、

距離の取り方が、すでに“命令”だった。


「旅の方々。

 少し、お話をよろしいでしょうか」


ミリアが、剣から手を離さないまま答える。


「……内容によります」


男は、微笑んだ。


「ご安心を」


「争いに来たわけではありません」


その言葉を、

レインは信じなかった。


(……“今は”だ)


「我々は、

 均衡監査庁バランス・オーディット


名乗りは、

あまりにも堂々としていた。


「能力者による

 過剰な干渉を防ぐための組織です」


ミリアが、

わずかに眉を寄せる。


「……監査?」


「ええ」


男は、頷く。


「世界は、

 能力者によって

 何度も歪められてきました」


「だからこそ――

 “力を持つ者”には

 相応の管理が必要なのです」


レインは、

一歩前に出た。


「……管理、とは?」


男は、

躊躇なく答える。


「登録」


「監督」


「必要であれば――

 制限」


ミリアの指が、

無意識に剣の柄を握る。


「……それに、

 従わなかったら?」


男の笑みは、

崩れなかった。


「残念ですが」


一拍。


「世界の安定のために、

 排除対象となります」


沈黙。


鳥の鳴き声だけが、

間を埋める。


「……質問いいですか」


ミリアが、

静かに言う。


「“均衡”って、

 誰が決めるんですか?」


男は、

即答した。


「我々です」


迷いはない。


それが、

彼らの“正義”だった。


レインは、

小さく息を吐いた。


(……コピーできないな)


能力でも、

技でもない。


思想そのものだ。


「……我々は」


レインは、

落ち着いた声で言った。


「世界を歪めるために

 力を使ってはいません」


男は、

静かに頷く。


「存じています」


「だからこそ――」


視線が、

鋭くなる。


「今は、

 “保護対象”です」


ミリアが、

思わず言った。


「……保護?」


「ええ」


男は、

穏やかに微笑む。


「世界は、

 あなた方を

 まだ必要としていません」


その言葉に、

空気が冷えた。


「……つまり」


ミリアが、

一歩前に出る。


「必要になったら、

 使うってことですか?」


男は、

否定しなかった。


「いずれ――

 理解していただけます」


それ以上、

会話は続かなかった。


均衡監査庁の三人は、

静かに一礼し、

街道の反対側へ去っていく。


「……感じ悪いですね」


ミリアが、

ぽつりと言う。


「ええ」


レインも、

同意した。


「能力者を

 守ると言いながら――」


「立ち位置を

 奪おうとしています」


ミリアは、

剣から手を離した。


「……次に会うときは」


「話し合い、

 じゃなさそうですね」


レインは、

魔導書を開いた。


ページが、

静かにめくれる。


「ええ」


「ですが――」


視線を上げる。


「彼らは、

 まだ“敵”ではありません」


ミリアは、

少しだけ笑った。


「……じゃあ」


「敵になる前に、

 強くなりましょうか」


レインは、

その言葉を否定しなかった。


新しい敵は、

力を振るう前に、

“正しさ”を振りかざす。


だからこそ。


この章は、

一筋縄ではいかない。


次の街は、小さかった。


交易路の分岐点にあるだけの、

ありふれた中継地。


石造りの建物。

低い城壁。

人の数も、多くはない。


「……普通ですね」


ミリアが、周囲を見回して言う。


「ええ」


レインも、頷く。


「少なくとも、

 戦場には見えません」


二人は、

宿を取ることにした。


特別な理由はない。

疲れていたし、

街の様子も落ち着いている。


――はずだった。


宿の一階。

簡素な食堂。


ミリアが、

椅子に腰を下ろした瞬間。


「……?」


視線が、

一人の少年に向く。


十歳前後。

痩せていて、

顔色が悪い。


何より――

視線が、合わない。


「……レイン」


ミリアが、

小さく呼びかける。


「……気づきました」


レインも、

すでに察していた。


少年の周囲だけ、

魔力の流れが不自然だ。


だが――

暴走していない。


抑え込まれている。


「……能力者、

 ですね」


その言葉に、

宿の空気が一瞬、凍った。


「……やめてくれ」


宿主が、

慌てて割って入る。


「その子は……

 ただの厄介者だ」


「何もしてない。

 何も壊してない」


「……ただ」


一拍。


「“管理対象”なんだ」


ミリアの表情が、

一気に険しくなる。


「……管理?」


宿主は、

視線を逸らした。


「均衡監査庁が、

 来る」


「能力が不安定な子は、

 “保護”される」


「……戻ってきた子は、

 いない」


沈黙。


少年は、

それを聞いても反応しない。


慣れているのだ。


(……慣れすぎてる)


レインは、

魔導書に触れた。


だが――

読む必要はない。


これは、

能力の問題じゃない。


「……ミリア」


「はい」


「……この街、

 今日中に

 動きます」


ミリアは、

少年を見る。


震えている。

だが、

泣いていない。


「……放っておけませんね」


「ええ」


二人の意見は、

最初から一致していた。


夜。


街の外れ。


均衡監査庁の灯が、

遠くに見える。


静かで、

規律正しい光。


「……もう来た」


ミリアが、

剣を握る。


「ええ」


レインは、

少年の肩に

そっと手を置いた。


「……大丈夫です」


少年が、

初めて顔を上げる。


「……ほんと?」


「ええ」


レインは、

静かに答えた。


「――

 立ち位置は、

 奪わせません」


遠くで、

足音が揃う。


この章の敵は、

強さだけじゃない。


「正しさ」を掲げ、

管理を名乗る者たち。


だが――

二人は、もう知っている。


力とは、

管理されるものじゃない。


立つ場所を、

自分で選ぶためのものだ。


新章は、

ここから本格的に

動き出す。


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