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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第2章

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英雄たちは、評価を改める

街の外縁。


戦闘の余波が完全に収まった頃、

英雄たちは静かに集まっていた。


誰も、すぐには口を開かない。


「……終わった、な」


最初に言葉を発したのは、

ヴァルハルト=レオンだった。


腕を組み、

街の中心を見据えたまま、低く笑う。


「街は壊れてねぇ。

 敵も、消えた」


「……つまり」


一拍。


「あの二人が、

 やり切ったってことだ」


ライザ=クロウデルは、

屋根の上から軽く跳び降りる。


「……やーめた」


ため息混じりに、

両手を上げた。


「勝てるとか勝てないとか、

 そういう話じゃないね、これ」


「入った時点で、

 “役割が違う”って

 分からされる」


視線を、

街の内部へ向ける。


「……ああいう戦場は、

 私の居場所じゃない」


イリス=アークライトは、

しばらく目を閉じていた。


光の魔力が、

わずかに揺れる。


「……討伐対象」


小さく呟く。


「そんな言葉で

 片付けられるものじゃ、

 ありませんでした」


ゆっくりと、目を開く。


「街は、

 誰かを支配するために

 作られたのではない」


「……守るために、

 成立していた」


その事実を、

認めざるを得なかった。


ノイン=フェルツは、

地面に落ちていた紙を拾い上げる。


破かれた召喚陣。


「……契約不能」


淡々と、

しかし確かに言った。


「だが――」


視線が、

街の中心へ向く。


「不要でもない」


彼にとって、

それは最大級の評価だった。


沈黙が、落ちる。


誰もが、

同じ結論に辿り着いている。


「……誰が、

 やったんだ?」


ヴァルハルトが、

問いかける。


答えは、

分かっている。


だが――

あえて、口にする。


「……後衛だ」


ライザが、

即答した。


「前線を成立させた剣士と、

 それを前提に街を動かした後衛」


「あれは、

 英雄の戦い方じゃない」


イリスが、

静かに続ける。


「……でも」


一拍。


「英雄でなくては

 できない戦いでも、

 ありませんでした」


つまり。


「立ち位置を理解した者にしか、

 できない戦いだった」


風が、

街を撫でる。


結界は、

もう軋んでいない。


英雄たちは、

一歩引いた。


それは、

敗北ではない。


評価の更新だった。


街の中央。


瓦礫はほとんど残っていない。

戦場だった痕跡だけが、空気に薄く残っている。


ミリアとレインは、

まだ完全には回復していなかった。


二人並んで、

石段に腰を下ろしている。


「……来ます」


ミリアが、顔を上げた。


足音は、重くない。

敵意もない。


それでも――

存在感がある。


最初に姿を見せたのは、

ヴァルハルト=レオンだった。


大剣を肩に担いだまま、

堂々と歩いてくる。


「……よう」


視線が、二人を順に捉える。


「立派な戦場だったな」


それだけ言って、

それ以上は踏み込まない。


続いて、

屋根の上から軽く飛び降りる影。


ライザ=クロウデル。


「いやぁ……」


肩をすくめて笑う。


「正直、

 近づかなくて正解だったわ」


「入ってたら、

 完全に足引っ張ってた」


それは、

冗談めいているが――

本心だった。


イリス=アークライトは、

一歩遅れて現れた。


視線は、

二人をまっすぐに見ている。


「……改めて、

 お礼を言います」


その言葉に、

ミリアが少し驚いた顔をする。


「街を、

 守ってくれました」


「……私の判断は、

 早すぎました」


レインは、

すぐに答えなかった。


少しだけ、

間を置いてから言う。


「……正しかったと思います」


イリスが、

わずかに目を見開く。


「放置していれば、

 被害は広がっていました」


「警告は、

 必要でした」


それは、

拒絶ではない。


対等な評価だった。


イリスは、

小さく息を吐いた。


「……ありがとうございます」


最後に、

ノイン=フェルツが前に出る。


相変わらず、

表情は動かない。


「……質問だ」


視線が、

レインに向く。


「この街は、

 お前の能力がなければ

 成立しないか?」


レインは、

即答しなかった。


ミリアを、

一瞬だけ見る。


それから――

首を振った。


「……いいえ」


「前線が、

 成立していれば」


「俺がいなくても、

 “戦場”にはなります」


ノインは、

数秒沈黙した。


「……理解した」


それは、

彼なりの最大の納得だった。


ヴァルハルトが、

腕を組んだまま言う。


「つまり――」


「お前たちは、

 英雄になりたいわけじゃない」


ミリアが、

静かに答える。


「……必要なことを、

 しただけです」


ヴァルハルトは、

歯を見せて笑った。


「いい」


「それでいい」


一歩、後ろに下がる。


「俺たちは――

 ここに口を出さない」


「次に動くなら、

 呼べ」


命令ではない。

選択肢の提示だ。


英雄たちは、

それ以上何も言わなかった。


称号も、

約束も、

報酬もない。


だが――

立ち去る背中は、

確かに軽かった。


ミリアが、

小さく息を吐く。


「……なんだか」


「思ってたより、

 普通でしたね」


レインは、

少しだけ笑った。


「ええ」


「……でも」


街を見渡す。


「これで、

 余計な干渉は

 しばらく来ません」


ミリアは、

その言葉に頷いた。


「……じゃあ」


一拍。


「少し、

 休みましょうか」


レインは、

石段にもたれかかる。


「賛成です」


戦いは、終わった。


だが――

物語は、

次の段階に進んでいる。


英雄たちが去ったあと、

街はいつもより静かだった。


騒がしさが消えたわけではない。

人の声も、生活の音も戻っている。


だが――

どこか、落ち着いている。


「……変な感じですね」


ミリアが、街路を見下ろしながら言った。


「ええ」


レインも同意する。


「戦場だったはずなのに、

 もう“日常”に戻ろうとしている」


それは、

この街が「壊れなかった」証拠だった。


しばらく歩くと、

街の代表格である初老の男性が、

おずおずと近づいてきた。


「……あの」


言葉を探すように、

何度か口を開いてから、頭を下げる。


「英雄の方々から、

 お話は聞きました」


「街は……

 あなた方のおかげで、

 守られたと」


ミリアが、

慌てて手を振る。


「いえ、そんな……」


レインは、

一歩前に出た。


「俺たちは、

 この街を支配するつもりはありません」


「ただ――」


少しだけ、言葉を選ぶ。


「必要なときに、

 “立つ場所”を使っただけです」


男性は、

ゆっくりと頷いた。


「……分かりました」


「では」


一拍。


「あなた方は、

 この街に“属する”のですか?」


ミリアとレインは、

思わず顔を見合わせた。


属する。

守護者。

管理者。


どれも、

少し違う。


「……いいえ」


レインが、

静かに答える。


「俺たちは、

 ここに“居着く”わけではありません」


「ですが」


ミリアが、

続けた。


「この街が、

 誰かに踏みにじられそうになったら」


剣の柄に、

軽く手を置く。


「……そのときは、

 また前に立ちます」


男性は、

その言葉を噛みしめるように聞いた。


「……それで、十分です」


二人は、

街の外れまで歩いた。


夕暮れの光が、

石畳を赤く染めている。


「……英雄にもならず、

 街にも縛られず」


ミリアが、

ぽつりと言う。


「……中途半端ですかね」


レインは、

少し考えてから首を振った。


「いいえ」


「……一番、

 動きやすい立ち位置です」


ミリアは、

少しだけ驚いた顔をして、

それから笑った。


「……確かに」


「前線も、

 固定しなくていいですし」


「ええ」


レインも、

小さく笑う。


「必要な場所で、

 必要なだけ立つ」


「……それで、

 十分です」


風が、

二人の間を通り抜けた。


街は、

もう背後にある。


だが――

切り捨てたわけではない。


「……次は」


ミリアが、

前を向いたまま言う。


「もう少し、

 完成度を上げたいですね」


レインは、

ゆっくり頷いた。


「ええ」


「未完成で勝てたのは、

 運もありました」


「次は――

 もっと厄介なのが来ます」


ミリアは、

剣を軽く鳴らす。


「……じゃあ」


一拍。


「また一緒に、

 前に立ちましょう」


レインは、

その言葉を否定しなかった。


「ええ」


夕暮れの中、

二人は並んで歩き出す。


肩が触れるほど、

近い距離で。


英雄ではない。

支配者でもない。


だが――

必要なとき、

 必ずそこに立つ二人。


それが、

今の彼らの立ち位置だった。


※ここまで読んで面白いと感じた方は、

ブックマークで続きを追ってもらえると嬉しいです。

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