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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第2章

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未完成のまま、戦場へ

街の中心部に近づくにつれ、空気が変質していく。


重い。

だが、押し潰すような圧ではない。


――測られている。


「……嫌な感じですね」


ミリアが低く呟く。


「ええ」


レインは周囲を見渡しながら歩いていた。


建物の配置。

路地の幅。

視界の抜け。


すべてが、微妙に“戦いやすい”。


(……敵が、街を使っている)


自分がやろうとしていたことを、

すでに先回りされている感覚。


「……来ます」


ミリアが、足を止めた。


前方の広場。

何もいないはずの空間。


だが――

影が重なっている。


一つではない。

三つ。

いや、四つ。


それぞれが、微妙にズレた動きをしている。


「……分身?」


「いいえ」


レインは、即座に否定した。


「同時成立です」


同じ存在が、

異なる行動を“同時に成立させている”。


「……コピー能力者ですね」


ミリアの声が、少し硬くなる。


影の一つが、前に出た。


輪郭が揺れ、

人型に近づく。


「――遅かったな」


声が、重なる。


一人分なのに、

複数人が同時に喋っているような違和感。


「英雄が来る前に、

 街を完成させる予定だったが……」


首が、わずかに傾く。


「まさか、

 未完成のまま出てくるとは」


影の視線が、ミリアに向いた。


「前線役……

 成立しかけてるな」


次に、レインを見る。


「後衛……

 街の制御者か」


低く笑う気配。


「なるほど」


「役割は、揃っている」


ミリアが、一歩前に出た。


「……前線は、私です」


剣を構える。


脚は、まだ重い。

感覚も、完全じゃない。


それでも――

退かない。


「後ろは、

 私が守ります」


レインは、静かに頷いた。


「……《成立破棄》」


小さく呟く。


敵の一体が踏み込もうとした瞬間、

地面の魔力回路が――途切れた。


「……?」


影の動きが、一瞬だけ止まる。


だが――

完全には消えない。


「……浅いな」


声が、重なる。


「未完成だ」


次の瞬間。


別の影が、

横合いから踏み込んできた。


ミリアが反応する。


《踏越位》。


距離を詰める――

はずだった。


「……っ!」


半歩、足りない。


剣が、

影の肩を掠めるだけに終わる。


身体に、

一気に負荷が来る。


(……まだ、足りない)


敵は、笑った。


「いい前線だ」


「だが――」


複数の影が、同時に動く。


「まだ“一人分”だ」


レインは、歯を食いしばった。


(……街を、使う)


未完成でもいい。

代償が来てもいい。


「……《因果遮断》」


今度は、

街全体の流れに触れる。


影の動きが、

ほんの一瞬だけ――ズレた。


「……ミリア!」


「はい!」


噛み合ったのは、

ほんの刹那。


だが――

それで十分だった。


噛み合った時間は、ほんの一瞬だった。


影の動きが再び揃う。

ズレていた輪郭が、ぴたりと重なった。


「……修正完了」


声が、今度は一つに聞こえる。


「街の流れを読んだな。だが――」


一歩、前へ。


「俺の方が早い」


次の瞬間、影が“増えた”。


一体が三体に、

三体が六体に。


だが、それは分身ではない。

同時に成立している“可能性”の束。


「……っ!」


ミリアが歯を噛みしめる。


《踏越位》。


今度は、届いた。

だが――


「……浅い」


剣先が影を裂いた瞬間、

裂かれたはずの影が、そのまま“残る”。


「な……っ」


「コピーは、能力だけじゃない」


影が、淡々と言う。


「“失敗した結果”も、複製できる」


次の瞬間、ミリアの身体が軋んだ。


脚に、

先ほどの踏み込みの“疲労”が、もう一度重なる。


「……ぐっ」


膝が、落ちかける。


だが――

退かない。


「……前線、維持……!」


レインが、即座に反応する。


「……《認識剥離》!」


敵の一体が、わずかに揺れる。


「……視界が……?」


ほんの刹那。

だが、敵はすぐに理解した。


「……認識を剥がすか」


低く、笑う。


「だが――」


街の空気が、変わった。


地面。

建物。

魔力の流れ。


すべてが、敵の“型”に寄っていく。


「街の制御権、上書き」


レインの背筋に、冷たいものが走る。


(……奪われる)


「……《成立破棄》!」


即座に発動。


一部の魔力回路が、消える。


だが――

全部は消えない。


「……遅い」


影が、指を鳴らした。


「未完成だ」


次の瞬間、

ミリアの足元が崩れた。


街路が“戦線として不成立”になる。


「……っ!」


体勢が、崩れる。


初めて――

前線が、揺らいだ。


「……ミリア!」


レインの声が、焦りを含む。


影が、距離を詰める。


六体が、同時に。


「終わりだ」


その瞬間。


ミリアは、剣を地面に突き立てた。


「……まだ」


震える声。


だが――

視線は、前を向いている。


「……退いてません」


《不退一閃》。


未完成。

条件は、未達。


だが――

“退かなかった”という一点だけは、成立している。


世界が、わずかに“引っかかった”。


影の動きが、

一瞬だけ、鈍る。


「……っ?」


その隙を、

レインは見逃さなかった。


「……《因果遮断》――限定」


切るのは、結果ではない。


“この瞬間に動く理由”だけ。


影の踏み込みが、止まる。


「……なるほど」


敵は、初めて感心した声を出した。


「未完成でも……

 役割が成立していれば、通る」


だが。


次の言葉は、冷酷だった。


「――だが、それは一度きりだ」


影が、再び動き出す。


今度は、

完全に本気。


レインの視界が、

一段、暗くなった。


(……来る)


(……次で、

 どちらかが落ちる)


未完成のまま、

本気の敵。


ここからが、

本当の勝負だった。


世界が、うるさかった。


影が重なり、音が増え、

街そのものが敵の呼吸で動いている。


その中心で、

ミリアは片膝をついていた。


脚が、言うことをきかない。

視界が、狭い。


(……まだ、足りない)


自分が未完成だということは、

誰よりも分かっている。


剣を支えに、立ち上がろうとする。


だが、

足が震えて、力が抜ける。


「……前線が、崩れたな」


影の声が、重なる。


「お前は、

 “立っているだけ”で成立する器じゃない」


「――退け」


その言葉に。


ミリアの胸の奥で、

何かがはっきりと反発した。


(……退く?)


誰に?


何のために?


後ろには、

レインがいる。


街がある。


逃げ場は、

最初から用意していない。


(……だったら)


(……私は)


ミリアは、剣を握り直した。


震える手で、

だが、確かに。


「……退きません」


声は、かすれている。


だが、

はっきりと届いた。


「……私は、

 ここに立つと決めました」


影が、わずかに首を傾ける。


「決意か」


「それだけで、

 前線が成立すると?」


ミリアは、

一歩も下がらなかった。


代わりに――

重心を、前に置いた。


「……いいえ」


息を吸う。


深く、

深く。


「――退かないから、

 成立するんです」


その瞬間。


ミリアの足元に、

一本の線が引かれた。


誰が描いたわけでもない。


だが、

確かに“そこ”にある。


《踏越位【オーバー・ライン】》。


今までとは違う。


距離を詰める技ではない。


「ここから先は、私の戦線だ」と

 宣言するための一歩。


影の動きが、

初めて“止まった”。


「……?」


ミリアは、剣を構える。


背筋が、伸びる。


恐怖は、ある。

痛みも、ある。


だが――

退く理由が、消えた。


「……《不退一閃【ノー・リトリート】》」


まだ完成していない。

それでも。


今回は、

条件が揃っていた。


退いていない。

立ち続けている。

前線を、譲っていない。


世界が、

静かに応えた。


剣が、

一直線に走る。


影の一体が、

初めて“完全に断たれた”。


「……な」


重なっていた存在が、

一つ、消える。


「前線が……

 固定された?」


ミリアは、

その場から動かなかった。


動く必要が、

なくなったからだ。


「……レイン!」


声を張る。


「今です!」


レインは、

その背中を見ていた。


揺れていない。

退いていない。


(……成立した)


前線が、

個人ではなく“概念”になった。


「……了解」


レインの声が、

静かに響く。


「――ここからは、

 俺の仕事です」


街の空気が、

再び動き始めた。


だが今度は。


ミリアを起点に、

 レインの制御が通る。


未完成だった歯車が、

初めて噛み合う。


影は、

後退という概念を知らない。


だが――

前に出ることも、

できなくなっていた。


「……なるほど」


敵の声が、低くなる。


「前線を、

 “人”が成立させたか」


ミリアは、

一歩も動かず、答える。


「ええ」


「――ここは、

 私の場所です」


戦場が、

二人のものになった。


未完成のまま。

代償を抱えたまま。


それでも。


勝負は、

 ここからだった。


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