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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第2章

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英雄たちは、踏み込めなかった

最初に足を踏み入れたのは、ヴァルハルト=レオンだった。


大剣を肩に担ぎ、迷いなく結界の内側へ進む。


「……ほう」


街の空気を吸った瞬間、彼は笑った。


「重いな」


圧迫感ではない。

敵意でもない。


戦場として、成立しすぎている。


「守りに特化した街、って感じじゃねぇ」


一歩、踏み出す。


足取りは重くない。

だが――


「……?」


剣を構えようとして、止まった。


(……遅い)


身体が、わずかに“考えてから”動く。


「チッ」


舌打ち。


「俺の反応を、

 街が測ってやがる」


強く踏み込めば、どうなるか。

容易に想像できた。


――壊れる。


だがそれは、

「敵を壊す」のではない。


街そのものを、戦場にしてしまう。


「……やめだ」


ヴァルハルトは剣を下ろした。


「ここは、

 俺の出番じゃねぇ」


少し離れた路地。


ライザ=クロウデルは、屋根の上で身を低くしていた。


「……最悪」


小さく呟く。


「選択肢が、

 減り続けてる」


逃げ道。

奇襲。

撤退ルート。


一秒ごとに、

“最適解”が消えていく。


「……これ」


(……生き残るための街じゃない)


(……戦う覚悟を持った奴だけが、

 立っていられる場所)


「……無理」


ライザは、即断した。


「私がやる仕事じゃない」


結界の内縁。


イリス=アークライトは、光の魔力を展開していた。


探査。

解析。


「……理解できない」


結界は、破綻していない。

だが、秩序でもない。


「……制御されている」


それも、

魔法陣ではなく。


意思で。


「……人の意思で、

 ここまで空間を縛る?」


喉が、ひくりと鳴る。


「……正義では、

 触れない」


それが、

英雄としての結論だった。


街の外。


ノイン=フェルツは、紙を一枚、破いた。


召喚陣は完成していた。

だが――成立しない。


「……使い捨て不可」


「契約不可」

「代替不可」


「……面倒だ」


感情のない声。


だが、

彼は一つだけ確信していた。


「……中にいる」


「設計者が」


英雄たちは、

同じ答えに辿り着く。


この街は――

英雄が解決するための場所ではない。


力でも、

正義でも、

技量でもない。


必要なのは――

“立ち位置を捨てられる者”。


「……誰がやる?」


イリスが、静かに問う。


答えは、

出ている。


だが、

まだ名前は出ない。


英雄たちは、

一歩、退いた。


踏み込めなかったのではない。


踏み込む資格がないと、

 理解したのだ。


異変は、音もなく始まった。


街の外縁。

結界の向こう側で、空気が“沈む”。


イリス=アークライトが、ふと足を止めた。


「……来ます」


その声に、ヴァルハルトが笑う。


「だろうな」


だが、余裕はない。


「遅いな、反応が」


大剣を担ぎ直しながら、低く呟く。


「……こいつは、

 暴れる前に“位置”を決めるタイプだ」


最初に異変を受けたのは、街の外れの魔力灯だった。


一つ、また一つと、

光が“消える”。


壊れたわけではない。

魔力は、ある。


ただ――

供給されなくなった。


「……遮断?」


ノイン=フェルツが、目を細める。


「いや……違う」


紙に描いた即席の術式が、

途中で霧散する。


「……奪われている」


魔力そのものが、

別の“系”に引き込まれている。


次に起きたのは、音。


街の外、

見えない位置から――

**“重ねた足音”**が聞こえた。


一人分じゃない。

だが、多人数でもない。


「……嫌な数だな」


ライザが、屋根の上で舌打ちする。


「増えてるのに、

 個体が見えない」


逃げ場の計算が、

一気に崩れる。


「……来るよ、これ」


結界が、軋んだ。


破られたわけではない。

だが――

押されている。


外側からではない。


内側へ向かって。


「……っ」


イリスが、息を詰める。


「敵は……

 街の外にいない」


その瞬間。


街の中央方向で、

“影”が揺れた。


建物の影でも、

雲でもない。


重なった存在感。


「……複数、

 同時存在?」


ヴァルハルトが、

初めて表情を険しくする。


「……コピーか」


影が、動いた。


街の構造を“なぞる”ように、

配置を確かめる。


道。

広場。

交差点。


まるで――

戦場を設計する者の視線。


「……遅かったな」


低い声が、

どこからともなく響いた。


姿は、見えない。


だが――

確かに“いる”。


「英雄が退くのを、

 待っていた」


イリスが、

歯を噛みしめる。


「……あなたが」


「そうだ」


声が、重なる。


一つではない。

複数の音が、

同時に同じ言葉を発している。


「この街は――」


「もう、

 俺たちの戦場だ」


影が、街の中心へ向かって動き出す。


英雄たちは、

即座に判断した。


「……止められない」


イリスが、低く言う。


「……ここは、

 私たちの役割じゃない」


ヴァルハルトが、

歯を見せて笑った。


「チッ……

 完全に出遅れたな」


ライザは、

すでに撤退経路を確保している。


ノインは、

紙を一枚、地に落とした。


「……設計者と、

 設計者の戦いか」


街の奥。


そのさらに奥で、

修行を続ける二人は――

まだ、この事実を知らない。


だが。


時間は、

 もう残されていなかった。


最初に異変を感じたのは、ミリアだった。


剣を置いたまま、

呼吸を整えていた、その瞬間。


「……来てる」


はっきりとした声。


レインは顔を上げ、

魔導書に触れたまま目を閉じた。


(……早い)


想定よりも、

一段階。


いや――

二段階、早い。


街の内部に、

複数の“成立”が重なっている。


それも、

敵意を隠すつもりのない配置。


「……英雄が、

 退いたな」


レインは、

淡々と告げた。


ミリアは、

すぐに理解した。


「……じゃあ」


「ええ」


レインは、

魔導書から手を離す。


「……ここからは、

 俺たちの役目です」


沈黙。


ミリアは、

剣を取り上げる。


ゆっくりと、

しかし迷いなく。


「……正直」


一拍。


「今のままじゃ、

 足りないですよね」


「ええ」


即答。


「俺も、

 そう思います」


ミリアは、

苦笑した。


「……じゃあ、

 怖いですね」


「ええ」


レインも、

同じように答える。


「……でも」


視線が、

ぶつかる。


「出ない方が、

 もっと怖い」


ミリアは、

深く息を吸った。


そして――

一歩、前に出る。


「……前線は、

 私が張ります」


「ええ」


レインは、

小さく頷く。


「俺は――

 街を使います」


「……街を?」


「ええ」


レインの目が、

わずかに細くなる。


「この街は、

 もう“戦場”です」


「なら――

 成立条件ごと、

 使わせてもらいます」


ミリアは、

少しだけ目を見開いた。


それから、

静かに笑う。


「……無茶ですね」


「はい」


レインも、

否定しない。


「でも――

 ここまで来たら、

 それしかありません」


古代書が、

同時に軋んだ。


魔導書と剣術書。


まるで、

出撃命令を出すように。


街へ向かう途中。


扉を開ける直前、

ミリアが足を止めた。


「……レイン」


「はい」


「もし――

 途中で倒れたら」


「ええ」


「……迷わず、

 置いていってください」


レインは、

一瞬だけ沈黙した。


それから――

はっきりと首を振る。


「……それは、

 しません」


ミリアが、

少し驚いた顔をする。


「理由は?」


「……前線が、

 成立しなくなるからです」


理屈だ。

だが、

それだけではない。


ミリアは、

ふっと笑った。


「……了解です」


扉が、開く。


外の空気は、

重く、張り詰めていた。


街は、

もう待っていない。


だから二人は、

出る。


未完成のまま。

代償を抱えたまま。


だが――

逃げるつもりは、

 最初からなかった。


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