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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第2章

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不完全な成功

成功は、

拍子抜けするほど静かに訪れた。


派手な光も、

轟音もない。


ただ――

**“通った”**という感覚だけが残った。


レインは、立っていた。


だが、

感覚が少しおかしい。


視界が、

わずかに遅れる。


(……世界が、

 一拍遅れて追いつく)


それでも。


(……成立している)


机の上。

小さな魔力結晶。


外部から与えられた刺激――

本来なら反応するはずの簡易魔法陣。


レインは、

そこに手をかざした。


「……《成立破棄》」


声は、低く。


次の瞬間。


魔法陣は、

最初から存在しなかったかのように消えた。


爆発も、

暴走もない。


ただ、

“なかった”。


「……」


レインは、

一歩、後ろに下がる。


膝が、

少し震えた。


(……重い)


成功だ。

確かに。


だが――

思考の端が、

削られている。


今、

何を考えていたか。


一瞬、

分からなくなる。


「……レイン」


ミリアが、

すぐに気づいた。


「大丈夫ですか」


「……はい」


一拍遅れて、

答える。


「ただ……

 長くは、無理です」


(……一戦、

 一度か)


ミリアの方も、

同時に掴んでいた。


剣を構え、

一歩、前に出る。


相手はいない。

だが――

線は、ある。


踏み越えてはいけない線。

越えた瞬間に、

斬るべき位置。


(……来る)


(……ここ)


呼吸が、

極端に静かになる。


身体が、

勝手に前に出る。


「……《踏越位》」


一歩。


世界が、

縮んだ。


「……っ」


次の瞬間。


剣先が、

“そこにあるはずの敵”を

正確に貫いた感覚。


何もない空間なのに、

手応えだけがある。


「……」


ミリアは、

剣を下ろす。


足が、

少しふらつく。


(……抜けた)


成功だ。

確かに。


だが――

脚が、

自分のものじゃない。


「……はぁ」


息を吐く。


「……これ、

 何回も使えませんね」


二人は、

椅子に腰を下ろした。


しばらく、

言葉が出ない。


「……成功、

 ですね」


ミリアが、

先に言う。


「ええ」


レインは、

頷く。


「でも――

 完成じゃない」


「はい」


ミリアも、

即答した。


「今のままじゃ、

 本番で使ったら……」


「倒した後に、

 動けなくなります」


沈黙。


だが、

失望はない。


むしろ――

方向が、はっきりした。


「……でも」


ミリアが、

小さく笑う。


「“使える”って、

 分かっただけでも」


「十分ですね」


レインも、

同じように笑った。


修行は、

間違っていなかった。


代償は、

想定内だ。


問題は――

どうやって、

 それを背負ったまま戦うか。


外の世界は、

待ってくれない。


だからこそ。


不完全でも、

前に進むしかない。


扉がノックされた。

それだけで、部屋の空気が変わる。


ミリアが反射的に立ち上がり、剣に手をかけた。だが――間に合わない。ノックの直後、扉は静かに開いた。


「……失礼」


低く落ち着いた声。遠慮はない。

入ってきたのは一人の女性だった。


白を基調とした装束に、淡く光を帯びた魔力。

イリス=アークライト。


「……英雄」


ミリアが小さく呟く。


イリスは二人を一瞥した。その視線に感情はない。評価でも敵意でもなく、ただの“確認”。


「……やはり」


視線が、部屋の中央へ向く。

机の上に置かれた古代書。消えきらない魔力の残滓。


「この街で起きている異変の中心は、あなたたちですね」


断定だった。


「……違います」


即座に、レインが言葉を返す。


「この街を守っているだけです」


「同義です」


イリスは一歩、踏み込んだ。


「あなたたちは、街の“成立条件”を書き換えています」


空気が張り詰める。

ミリアの足が、半歩前に出た。


だが、レインが静かに手で制する。


「……英雄が、何の用で?」


「警告です」


イリスの声は冷静だった。


「この街は、すでに“管理外”に入っています。放置すれば――」


一拍。


「討伐対象になります」


言葉は静かだったが、意味は重い。

ミリアの喉が、無意識に鳴る。


街ごと、という意味だ。


「あなたたちが善意で動いていることは理解しています」


イリスは続ける。


「ですが、結果が世界に及ぶ以上……世界は、あなたたちを待ちません」


沈黙が落ちる。


レインは、ゆっくりと息を吐いた。


「……猶予は?」


「ありません」


即答だった。


「すでに複数の英雄が動いています」


脳裏に浮かぶ顔。

ヴァルハルト、ライザ、ノイン。


――来る。


「……今、修行の途中です」


レインは正直に言った。


「未完成です」


イリスは一瞬だけ目を伏せ、それから顔を上げた。


「……それでも」


わずかに感情の混じった声で言う。


「止められるなら、止めてください」


理想と現実の間で揺れる言葉。


「私は……無関係な人が巻き込まれるのが、一番嫌いです」


そう言い残し、イリスは踵を返した。


扉が閉まる。

再び、静寂。


ミリアが拳を握りしめる。


「……待ってくれない、んですね」


「ええ」


レインは椅子に腰を下ろした。

頭が、重い。


(……思考が削れている)


今の自分で英雄と対峙できるか。

答えは、否だ。


「……レイン」


ミリアが真っ直ぐに言う。


「出ますか」


レインは少しだけ考え、首を振った。


「……まだです」


「……でも」


「出るなら、“止められる状態”で出ます」


視線を古代書へ向ける。


「……あと一段だけ、踏み込みます」


ミリアは一瞬目を閉じ、それから開いた。


「……分かりました」


剣を強く握る。


「じゃあ――退路は、完全に消しましょう」


レインは小さく笑った。


「ええ。世界が待たないなら……こちらも、待たせません」


古代書が、再び軋んだ。


修行は、続行ではない。

強行だ。


部屋の灯りを落とした。


余計な刺激を、すべて断つためだ。


ミリアは壁際に立ち、剣を構える。

レインは机の前に座り、魔導書に両手を置いた。


会話は、ない。

今さら言葉で確認する段階は過ぎていた。


(……やる)


レインは、静かに呼吸を整える。


《因果遮断》を“使う”のではない。

《成立破棄》を“通す”のでもない。


――両方を、同時に成立させる。


未完成の技同士を噛み合わせる。

理屈では、やってはいけない。


だが、時間がない。


「……来ます」


ミリアが、低く言った。


敵はいない。

それでも、来ると分かる感覚がある。


レインは、目を閉じた。


世界が、薄くなる。


「……《因果遮断》」


断つ。

だが、完全には切らない。


“原因”を半分だけ削り、

“結果”が起きる余地を、わずかに残す。


頭が、ぐらりと揺れた。


(……重い)


視界の端が、欠ける。

時間感覚が、歪む。


だが――

魔導書の核心章が、初めて“繋がった”。


「……っ」


同時。


ミリアが、一歩踏み出した。


《踏越位》。


だが、いつもより浅い。

距離は詰まらない。


それでも――

“線”だけは、はっきり見えた。


(……今)


剣を振る。


《不退一閃》――未完成。


斬撃は、空を切る。

だが、世界が一瞬だけ止まった。


ほんの刹那。


その間に、

ミリアの剣先が“本来存在しないはずの位置”に到達する。


「……っ!」


足が、崩れた。


膝が床に着く。


だが――

退いていない。


レインも、限界だった。


魔導書から手を離し、

椅子に深くもたれかかる。


思考が、砂のように零れ落ちる。


(……何を、

 考えてた?)


一瞬、分からない。


それでも。


「……ミリア」


声は、出た。


「……はい」


息を荒くしながら、答える。


「……今の」


「ええ」


ミリアは、ゆっくり立ち上がった。


「……“通りました”」


完全ではない。

安定もしていない。


だが――

重ねて使える。


二人の技が、

初めて“噛み合った”。


古代書が、反応した。


魔導書のページに、新しい注釈が浮かぶ。


――「複合成立:可(不安定)」


剣術書の余白に、

淡い文字が刻まれる。


――「前線固定、条件未完」


「……評価、

 厳しいですね」


ミリアが苦笑する。


「ええ」


レインも、同じように笑った。


「でも――

 拒絶は、されていません」


沈黙。


二人とも、動けない。


だが、

後悔はなかった。


「……これで」


ミリアが、呟く。


「出られますね」


レインは、目を閉じたまま答える。


「……ええ」


「未完成でも、

 止めるためなら」


外の世界は、待っていない。


だからこそ。


完成していなくても、

踏み出す。


それが、

今の二人の選択だった。


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