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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第2章

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世界は、待ってくれない

異変は、

誰かが声を上げるより先に起きていた。


街の外縁。

結界に触れた空気が、

わずかに“重い”。


「……妙だな」


ライザ=クロウデルは、

屋根の上で足を止めた。


双短剣を腰に下げ、

軽い身のこなしで街を見下ろす。


「風の流れが……

 逃げ場を探してる」


彼女は、

“嫌な予感”にだけは敏感だった。


「結界、

 こんな張り方じゃなかったはずだろ」


同じ頃。


街の正門前。


ヴァルハルト=レオンが、

巨大な剣を肩に担いだまま立ち尽くしていた。


「……ほう」


一歩、前に出る。


結界が、

反応しない。


「通すつもりは、

 ない……か」


笑みが浮かぶ。


「気に入った」


彼は、

力で押し破ることもできた。


だが――

しなかった。


「守る気だな、

 この街は」


光の魔力が、

空に淡く広がる。


イリス=アークライトは、

その揺らぎを見逃さなかった。


「……歪み」


指先に光を灯し、

結界の“理”を読む。


「……これは」


眉をひそめる。


「結界というより……

 制御領域?」


「誰が、

 こんなものを」


街の酒場。


ノイン=フェルツは、

椅子に座ったまま、

召喚陣を紙に描いていた。


途中で、

ペンが止まる。


「……成立しない」


魔力の流れが、

途中で“消える”。


「……遮断されている?」


無感情な目が、

窓の外に向く。


「……街そのものが、

 拒絶している」


それぞれが、

同じ結論に辿り着く。


――この街は、

今までとは違う。


その頃。


拠点の一室。


レインとミリアは、

まだ修行を続けていた。


外の変化を、

知らない。


だが――

古代書は、知っている。


魔導書のページが、

一枚、自然にめくれた。


そこに書かれていたのは、

短い一文。


――「間に合わぬ者は、残らぬ」


レインは、

思わず顔を上げた。


「……ミリア」


「はい」


「……外が、

 動き始めています」


ミリアは、

一瞬だけ目を閉じ、

それから剣を握り直した。


「……なら」


「急ぎましょう」


退路はない。


世界は、

修行が終わるまで

待ってはくれない。


街の外周に、

人が集まり始めていた。


冒険者。

行商。

情報屋。


理由は一つ。


――この街、

近づくと落ち着かない。


「……長居は、

 しない方がいいな」


ライザ=クロウデルは、

屋根の縁に腰を下ろしながら言った。


視線は、結界の内側。


「逃げ道が、

 計算しづらい」


それは、

彼女にとって致命的だった。


「守られてる街ってのは、

 大体“中は安全”なんだけどさ」


肩をすくめる。


「ここは逆だ」


「中に入った瞬間、

 選択肢が減る」


正門前。


ヴァルハルト=レオンは、

結界に手を伸ばしかけて、

止めた。


「……なるほど」


彼の直感が、

警鐘を鳴らしている。


「俺が入れば、

 街は壊れる」


「だが――」


口元が、歪む。


「壊れないように

 作られている」


つまり。


「中の連中、

 俺を想定してるな」


それが、

気に入らなかった。


そして――

少しだけ、

面白かった。


結界の外れ。


光を纏ったイリス=アークライトが、

魔力探査を続けていた。


「……危険」


はっきりと、そう判断する。


「この街の結界は、

 外敵を弾くためのものではない」


同行していた聖騎士が、

怪訝な顔をする。


「では、何のために?」


イリスは、

一瞬、言葉に詰まった。


「……中にいる者を、

 成立させるため」


「成立?」


「ええ」


イリスの声は、

少し硬い。


「人の意思、

 戦う覚悟、

 役割分担」


「それらが、

 曖昧な者ほど――

 居心地が悪くなる」


「……そんな結界」


「聞いたことがない」


だからこそ。


「危険です」


「正義の名の下に、

 介入すべきかもしれない」


酒場の二階。


ノイン=フェルツは、

紙を畳み、立ち上がった。


「……契約不能領域」


ぼそりと呟く。


「召喚、

 強化、

 一時的な力の借用」


すべてが、

途中で“成立しない”。


「……嫌いだ」


理由は、単純。


「使い捨てが、

 成立しない」


彼は、

外へ出た。


視線は、

結界の中心――

街の奥へ。


「……中にいるな」


「この街を

 “設計した者”が」


情報は、

自然と集まる。


「英雄が来てるらしい」

「結界がおかしい」

「街に入った奴、

 動きづらくなったって」


噂は、

形を持ち始める。


そして――

一つの判断に、

収束していく。


――この街は、

 放置できない。


その頃。


拠点の一室。


ミリアは、

剣を構えたまま、

汗を流していた。


脚が、

限界に近い。


だが、

退かない。


レインは、

魔導書の前で、

目を閉じている。


外の圧を、

感じ取っていた。


(……近い)


(……英雄クラスが、

 複数)


理解が、

追いついていない。


だが――

時間も、

足りない。


「……ミリア」


「はい」


「……次、

 無茶をします」


ミリアは、

即答した。


「……一緒に、

 やりましょう」


古代書が、

静かに軋んだ。


まるで。


「それでいい」

と、言うように。


部屋の空気が、変わった。


目に見えるわけじゃない。

音がしたわけでもない。


だが――

張り詰め方が、一段深くなった。


レインは、魔導書から手を離さなかった。


(……来てる)


外の圧。

英雄クラスの存在。


街が、

「観測され始めている」。


その事実が、

はっきりと分かる。


「……ミリア」


低い声。


「はい」


ミリアは、剣を構えたまま答える。


「……次の修行は」


一拍。


「戻れない可能性があります」


はっきりと、そう言った。


ミリアは、

一瞬だけ目を閉じた。


それから――

開く。


「……どんな?」


「……俺の場合」


レインは、言葉を選ぶ。


「《因果遮断》を、

 完全に使います」


ミリアの指が、

わずかに強く剣を握る。


「……それって」


「ええ」


レインは、頷いた。


「切り戻せない可能性がある」


理解の連続性。

判断の安全域。


それらが、

永久に欠けるかもしれない。


「……ミリアは」


視線を向ける。


「《不退一閃》を、

 “条件成立”まで持っていきます」


「……一人で?」


「ええ」


ミリアは、

一瞬、息を止めた。


条件は、分かっている。


退路を消す。

援護を考えない。

戻らない前提で立つ。


「……」


剣を、

床に突き立てる。


「……分かりました」


声は、

揺れていない。


「じゃあ――

 やりましょう」


古代書が、

静かに反応した。


魔導書の文字が、

一段濃くなる。


剣術書のページが、

自然にめくられる。


まるで――

待っていたかのように。


レインは、

深く息を吸った。


「……《因果遮断》」


今回は、

“触れる”ではない。


断つ。


瞬間。


視界が、

一部欠けた。


色が、

一段薄くなる。


「……っ」


膝が、

わずかに落ちる。


(……削れた)


だが――

成功している。


魔導書の一節が、

今までとは違う意味で

“読めた”。


「……なるほど」


これは、

力じゃない。


代償を払って、

立ち位置を固定する技だ。


同時。


ミリアは、

剣を構えたまま動かない。


足を、

一歩も引かない。


呼吸が、

荒くなる。


身体が、

悲鳴を上げる。


(……怖い)


だが。


(……下がらない)


背後に、

何も置かない。


希望も、

計算も。


ただ――

前に立つ自分だけ。


その瞬間。


世界が、

“静止したように”見えた。


一本の線。


敵が来る場所。

斬るべき位置。


(……これ)


(……これが)


「……不退一閃」


声は、

まだ小さい。


だが――

条件は、成立しかけている。


二人とも、

立っている。


だが――

余裕は、ない。


「……戻れませんね」


ミリアが、

小さく言う。


「ええ」


レインは、

同じように答える。


「でも――」


視線を、

外の世界へ向ける。


「間に合わないより、

 いい」


古代書は、

何も言わない。


ただ、

拒絶もしない。


修行は、

“試し”を越えた。


ここから先は――

選ばれた者だけが、

 進める領域。


世界は、

待ってくれない。


だから二人は、

止まらない。


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