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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第2章

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強くなるということは、削られるということ

修行は、

「始めます」と言って始まるものじゃなかった。


拠点の一室。

机の上に置かれた二冊の古代書。


それだけ。


道具も、

指導者も、

時間制限もない。


「……やっぱり」


ミリアが、剣術書を見下ろして言う。


「これ、

 優しく教える気ないですよね」


「ええ」


レインは、魔導書から目を離さず答えた。


「むしろ――

 振り落とす気です」


ページをめくるたび、

思考が削られる感覚がある。


理解しようとすればするほど、

「足りない部分」が浮き彫りになる。


(……知識じゃない)


(……姿勢だ)


魔導書は、

“覚える者”を求めていない。


“耐える者”を選んでいる。


ミリアは、剣を持ったまま立っていた。


構えは、

これまで何度も取ってきた基本の型。


だが――

剣術書に描かれているのは、

**「動かない人間」**だった。


「……なんで」


一歩も踏み込まず、

一切の攻撃を想定しない立ち方。


「……これが、

 修行?」


違和感。


身体が、

勝手に“楽な逃げ道”を探す。


後ろに下がれば、

すぐに解消できる圧迫感。


「……ダメだ」


ミリアは、歯を食いしばる。


「退くな」


誰に言うでもなく、

自分に言い聞かせる。


すると――

足が、震え始めた。


「……っ」


剣術書のページが、

静かにめくられる。


風もないのに。


まるで、

“それでいい”と言われたように。


一方、レイン。


魔導書の一節に、

完全に足を止めていた。


――「因果は、結果より先に折れる」


「……因果遮断」


小さく、口に出す。


だが、

読んだだけでは意味がない。


(……やってみろ、ってことか)


レインは、

机の上の小石を一つ、指で弾いた。


飛ぶ。


それだけのはずだった。


だが、

途中で――

消えた。


「……」


成功した、とは思えない。


むしろ、

“何かを失った”感覚が強い。


(……今の一瞬)


(……俺、

 何を切った?)


背中に、

冷たい汗が流れる。


夜が、深まる。


二人とも、

ほとんど言葉を交わさない。


だが、

やめようとはしない。


「……レイン」


ミリアが、ぽつりと呼ぶ。


「はい」


「これ……

 楽になりませんよね」


レインは、正直に答えた。


「……なりません」


一拍。


「多分、

 強くなればなるほど――

 余裕が消えます」


ミリアは、

少しだけ笑った。


「……そういうの、

 嫌いじゃないです」


レインも、

小さく笑った。


修行は、

もう始まっている。


強くなるとは、

何かを足すことじゃない。


削られることだ。


そして――

それを受け入れた者だけが、

次に進める。


最初に異変が出たのは、

レインの方だった。


「……来るな」


小さく、だが確かな声。


ミリアが顔を上げる。


「何か、ありました?」


「……ええ」


レインは、魔導書から目を離さない。


だが――

ページを見ているのに、

文字が、理解できない。


「……?」


さっきまで読めていた一節が、

ただの記号の塊に見える。


(……視界が、ズレてる)


《因果遮断》。


さっき、

“軽く”使ったはずの技。


その反動が、

じわじわと現れていた。


「……理解が、

 一部抜け落ちてる」


ミリアが、眉をひそめる。


「抜け落ちてる……?」


「はい」


レインは、額を押さえた。


「魔導書の構造が……

 “連続していない”」


まるで、

文章の途中を

ハサミで切り取られたような感覚。


(……代償か)


因果を断った代わりに、

自分の理解の連続性が削られている。


「……危険ですね」


ミリアが、静かに言う。


「ええ」


レインは、苦笑した。


「想定より、

 ずっと」


ミリアの方も、

無事ではなかった。


立つ。


ただ、

立ち続ける。


それだけの修行。


だが――

時間が経つほど、

足元の感覚が曖昧になる。


(……あれ?)


床に、

足がついているはずなのに。


(……軽い)


踏ん張っている感覚が、

薄れていく。


「……っ」


一瞬、

重心がズレた。


本来なら、

すぐに修正できる。


だが――

修正できない。


「……!」


ミリアは、

思わず一歩、後ろに下がった。


その瞬間。


剣術書のページが、

バンッと閉じた。


風もないのに。


「……あ」


ミリアは、

息を詰める。


(……今、

 退いた)


ほんの半歩。


だが――

剣術書は、

それを見逃さなかった。


胸の奥に、

ズンと重いものが落ちる。


(……これ)


(……許されないやつだ)


沈黙。


二人とも、

何も言わない。


だが、

空気は張り詰めている。


「……続けますか」


レインが、先に口を開いた。


ミリアは、

即答しなかった。


一度、

深く息を吸う。


「……続けます」


声は、

揺れていない。


「……ただし」


剣を、

しっかりと握る。


「次は、

 退かない前提で」


レインは、

ゆっくり頷いた。


「俺も……

 使い方を変えます」


「切るんじゃない」


「削られる覚悟で、

 触る」


二人は、

視線を合わせた。


修行は、

「うまくやる」ものじゃない。


耐えるものだ。


夜明け前。


部屋の空気が、

ひどく重い。


だが――

どちらも、

本を閉じない。


「……レイン」


ミリアが、

かすれた声で言う。


「これ……

 最後まで行ったら」


「……どうなると

 思います?」


レインは、

少し考えてから答えた。


「……多分」


「今までの自分では、

 いられません」


ミリアは、

小さく笑った。


「……それでも、

 いいですね」


「ええ」


レインも、

同じように笑った。


強くなるということは、

何かを得ることじゃない。


削られた後に、

 何が残るかを

 確かめることだ。


修行は、

まだ始まったばかりだった。


夜が、完全に明ける前。


部屋の空気は、

一晩中張り詰めたままだった。


二人とも、

ほとんど動いていない。


だが――

確実に、変わっていた。


ミリアは、立っていた。


相変わらず、

ただ立っているだけ。


だが、

前とは違う。


(……逃げ道を、

 探してない)


身体が、

“下がる可能性”を計算しなくなっている。


怖さは、ある。

足も、重い。


それでも――

退くという選択肢が、

 思考に浮かばない。


「……」


剣術書のページが、

今度は閉じない。


風も、起きない。


ただ、

静かに開いたまま。


「……これ」


ミリアは、

小さく息を吐く。


(……立ててる)


勝っていない。

斬っていない。


でも――

成立している。


その瞬間。


視界が、

ほんの一瞬だけ研ぎ澄まされた。


敵が来る方向。

剣を振るべき線。


(……見えた)


だが、

次の瞬間には消える。


「……まだ、

 一瞬だけ」


それでも。


「……いい」


ミリアは、

自分に言い聞かせる。


一方、レイン。


彼は、

魔導書を“読んでいなかった”。


ただ、

ページに手を置いている。


理解しようとしない。

切ろうともしない。


(……触れる)


因果を、

断ち切るのではなく。


“触れて、流す”。


小石を、

そっと指で転がす。


飛ばさない。


動くかどうかも、

気にしない。


すると――

石が、途中で止まった。


消えない。


壊れない。


ただ、

「次に進まなかった」。


「……」


レインは、

ゆっくり息を吐いた。


(……これか)


切るから、

削られる。


触れて、

受け流すから――

残る。


「……因果遮断」


小さく呟く。


だが、

先ほどとは違う。


今回は、

頭が欠けていない。


理解の連続性も、

保たれている。


(……範囲も、

 精度も低い)


(……でも)


「……生きてる」


二人は、

同時に顔を上げた。


目が、合う。


言葉は、いらない。


「……今の」


ミリアが、

先に言う。


「ほんの一瞬でしたけど……

 分かりました」


「俺もです」


レインは、頷く。


「使えた、

 とは言えません」


「でも」


一拍。


「方向は、

 間違っていない」


沈黙。


それは、

重くない。


むしろ、

確かな手応えを含んでいる。


朝日が、

窓から差し込む。


古代書は、

何も語らない。


だが――

拒絶もしない。


「……続けましょう」


ミリアが、言う。


「ええ」


レインも、答える。


「今度は、

 “削られない使い方”を

 見つける」


二人は、

それぞれの位置に戻った。


修行は、

まだ終わらない。


だが――

進み方は、

 見えた。


強くなるとは、

壊れることじゃない。


削られながら、

 残るものを選ぶことだ。


そして二人は、

確かにそれを――

掴みかけていた。


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