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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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象徴を消す世界に、名前を置く

世界は、確かに動いていた。


橋は直り、倉庫は整い、物資は巡っている。

それなのに——

誰がそれを決めたのか、誰も言えない。


「……気味が悪いな」


ミリアが、小さく吐き捨てた。

怒りでも恐怖でもない。ただ、胸の奥に残る違和感。


「助かってるのに、助けられた感じがしない」


「うん」


レインは、町の外れを見つめたまま答える。


「“結果だけが残る世界”だ」


選択はした。

だが、その選択は記憶から削られ、責任も、称賛も、物語も残らない。


それは——

英雄が存在できない世界だった。


「……だから、英雄を消すって言ったのか」


リュカが、低く唸る。


「結果だけで進むなら、名前はいらない」


「誰がやったか分からないなら、称号も要らない」


「……剣も、正義も、無駄になる」


エルドが、盾を少しだけ地面に預けた。


「だが逆に言えば」


静かな声で続ける。


「名前が残る行為は、敷設者にとって“ノイズ”だ」


その言葉に、レインはゆっくり頷いた。


「敷設者は、現象だ」


「意思も人格もない」


「だから——」


一拍。


「誰かに紐づく行為を、最後まで管理できない」


ミリアが、はっと顔を上げる。


「……英雄は、“現象”になれない」


「うん」


レインは答える。


「英雄は、常に“誰か”だ」


「名前があり、顔があり、物語を背負う」


「それ自体が、敷設者にとっては——」


「最悪の効率」


その瞬間。


遠くで、世界機関の伝令結界が震えた。


《緊急共有——英雄枠に対する異常干渉、複数確認》


映し出されたのは、簡易な地図。

だが、印が打たれている場所には共通点があった。


「……英雄が、滞在している場所だ」


ミリアの声が、少し硬くなる。


「しかも、どこも戦闘は起きてない」


「成果だけが出てる」


「なのに——」


リュカが歯を鳴らす。


「英雄本人の“手柄”が、記録から消えてる」


エルドが、低く呟いた。


「……象徴の剥離」


「名前を使わず、結果だけ使う」


「これは——」


レインは、はっきりと言った。


「敷設者じゃない」


一瞬、空気が張り詰める。


「敷設者は、現象を敷く」


「でもこれは——」


視線を、結界に映る地図へ。


「誰かが“意図して”英雄を利用してる」


ミリアの喉が、小さく鳴った。


「……じゃあ」


「敷設者の“向こう側”?」


「あるいは——」


レインは、言葉を切る。


「敷設者を作った側だ」


沈黙。


そして、エルドが静かに言った。


「……宝珠」


その一言で、全てが繋がった。


願いを叶える宝珠。

安価に流通し、人を魔物に変え、討伐で魔力を回収する循環。


「選ばせる世界が必要だった存在」


「でも——」


レインの声が、低くなる。


「今の敷設者は、“選ばせない”方向に振り切れてる」


「それはつまり」


一拍。


「回収効率が落ち始めてる」


ミリアが、目を見開く。


「……魔力が、集まらない?」


「そう」


レインは、確信を持って頷いた。


「選択が消えれば、願いも消える」


「願いが消えれば、宝珠は意味を失う」


「敷設者は、便利だけど——」


「長く使うと、餌が枯れる」


その瞬間。


レインの脳裏に、はっきりとした像が浮かんだ。


世界の外側。

玉座でも、神座でもない。


ただ、回収効率だけを見ている存在。


「……アバンドン=エンドロア」


ミリアが、息を呑む。


「魔王……?」


「いや」


レインは、静かに首を振った。


「商人だ」


「世界を相手にした、最低最悪の卸売業者」


宝珠を流し、

願いを集め、

英雄を消費する。


敷設者は、アバンドンが作った自動化装置にすぎない。


「だから——」


レインは、拳をゆっくり握った。


「敷設者だけ相手にしても、終わらない」


「元を、叩く必要がある」


ミリアが、強く頷く。


「……今回は」


「ちゃんと、殴れる敵だね」


「ああ」


レインは、目を細めた。


「哲学でも、現象でもない」


「倒せば終わる相手だ」


遠くで。


蒼衡そうこう/《蒼衡そうこう・アズール・バランス》の観測盤が、新しい警告色に変わる。


《魔力回収効率:低下》

《宝珠流通圏:再活性兆候》


世界機関の上層に、同時に通知が走った。


《魔王級存在:再定義》

《名称:アバンドン=エンドロア》


そして——

英雄たちの名が、初めて“狙われる対象”として並び始める。


レインは、静かに宣言した。


「次は——」


「英雄を、守る戦いだ」


非裁定ノーリトリート》は、進む。


敷設者の裏。

宝珠の流通。

そして——魔王アバンドン=エンドロアへ。


戦争は、

“倒せる形”を、ようやく得た。


異変は、拡大していなかった。

だが——収束もしなかった。


世界機関の記録室では、同じ報告が並び続けている。


・暴動なし

・死者なし

・意思消失なし

・決断ログ欠落

・結果のみ進行


「……整理して言えば」


上級監査官が、低く呟いた。


「“問題が起きていないのに、正常に戻らない”」


誰も反論しなかった。


止まっていた世界は、確かに動き出した。

だがそれは——誰の判断でもない進行だった。


「原因は?」


調査官が問う。


「敷設者による現象の残滓、でほぼ確定です」


「ただし……」


記録官は、言葉を選ぶ。


「敷設者本人の干渉ログは、ありません」


「現象だけが、自己更新している」


世界機関は、沈黙した。


それはつまり——

敵が“今はいない”状態で、戦場だけが残っているということだ。



一方、蒼衡そうこう/アズール・バランス。


前線観測室では、盤面が奇妙な色を帯びていた。


「……切れない」


観測士が、何度目か分からない報告をする。


「危険度、上昇なし」


「だが、統制不能域が増加しています」


「判断が発生しないため、切断条件が成立しません」


統括官は、静かに頷いた。


「分かっている」


蒼衡そうこうは、切る組織だ。

だが今、切るべき対象が存在しない。


あるのは——

「選択を経由しない進行」。


「……これは」


副官が、慎重に言う。


「ノーリトリートの影響では?」


「違う」


統括官は、即座に否定した。


「彼らは“操作”していない」


「現象に、穴を開けただけだ」


盤面を指差す。


「問題は——」


一拍。


「この進行が、“誰の思想にも属していない”ことだ」


蒼衡そうこうは、切る基準を更新した。

だが——管理する枠組みは、まだ無い。


「……敵が、戻ってくる前に」


統括官は、低く言う。


「“敵でないもの”への対応を、決めねばならん」



英雄たちは、動けずにいた。


剣を振るう理由がない。

守るべき“悪”がいない。


それでも、各地で英雄の名は呼ばれている。


「助けてくれ」と。

ではなく——

「どうしたらいい」と。


だが、答えを出せば

それは“選ばせた者”になる。


英雄は、象徴だ。

だが今、象徴であること自体が

進行を歪める可能性を持ってしまった。


「……厄介だな」


誰かが、そう呟いた。



そして、《非裁定ノーリトリート》。


レインは、報告を聞き終えてから、静かに言った。


「敷設者は、もう前に出てこない」


ミリアが、眉をひそめる。


「……逃げた?」


「違う」


リュカが、即座に理解する。


「“完成した”」


エルドが、低く補足した。


「現象が、自走している」


レインは、頷いた。


「敷設者は、もう管理していない」


「管理しなくても——」


一拍。


「世界が“そう動く”ところまで、持っていった」


沈黙。


それは、最悪の状態だった。


敵がいるなら、殴れる。

思想があるなら、壊せる。


だが——

**ただ“仕組みだけが残った世界”**は、倒しようがない。


「……じゃあ」


ミリアが、絞り出すように言う。


「これ、どうやって終わらせるの」


レインは、即答しなかった。


戦場演算バトル・カリキュレーター》は回っている。

だが、答えを出さない。


そして、ぽつりと告げる。


「……この構造」


「誰かが、使える」


全員の視線が集まる。


「敷設者は消えた」


「でも——」


レインの声が、低くなる。


「この“選択を奪う世界”を」


「利用できる存在が、現れたら?」


沈黙が、重く落ちた。


それは——

新しい敵の条件だった。


思想でもない。

現象でもない。


“空いた玉座に、座れる存在”。


それは、戦場ではなかった。


剣も、魔法も、怒号もない。

ただ、結果だけが揃っている場所だった。


壊れていない。

止まってもいない。


——管理されていない。


その事実に、最初に“気づいた”者がいた。



世界機関、辺境監査局。


臨時会議室の片隅で、

一人の男が報告書を読み終え、静かに閉じた。


「……なるほど」


口調は穏やか。

声も、姿勢も、どこまでも事務的。


だが——

目だけが、異様に冷えていた。


「選択は発生していない」


「だが、進行は成立している」


「責任は誰にも帰属せず」


「結果だけが、確定する」


男は、軽く息を吐く。


「……実に、都合がいい」


隣にいた補佐官が、眉をひそめる。


「何が、です?」


男は答えず、立ち上がった。


「敷設者は、盤面を作っただけだ」


「だが——」


一拍。


「盤面は、使われるためにある」


補佐官は、嫌な予感を覚えた。


「……使う、とは?」


男は、初めて笑った。


それは、愉悦でも狂気でもない。

計算が合った時の、管理者の笑みだった。


「責任を取らずに進める世界」


「誰も選んでいないのに、結果が出る構造」


「——統治に、これほど向いた環境はない」


補佐官の喉が、鳴る。


「……あなたは」


男は、振り返らずに答えた。


「私は、世界を良くしたいだけだ」


「英雄の象徴も」


「蒼衡そうこうの“切断”も」


「ノーリトリートの“非裁定”も」


「——どれも、効率が悪い」


彼は、扉の前で立ち止まる。


「だが、この構造なら」


「世界は、勝手に最適化される」


扉が、静かに閉まった。



同時刻。


非裁定ノーリトリート》の簡易拠点。


レインは、唐突に顔を上げた。


「……来た」


ミリアが、即座に身構える。


「敷設者?」


「違う」


リュカが、即答する。


「敷設者より——近い」


エルドが、低く呟いた。


「……人だな」


レインは、拳を握った。


戦場演算バトル・カリキュレーター》が、

今までにない警告を返してくる。


敵意:未確認

殺意:未確認

悪意:未確定


——利用意思:確定


(……やっぱり、そうなる)


レインは、苦く息を吐いた。


敷設者が敷いた“選ばせない世界”。

それは、解放でも救済でもない。


空席だ。


そこに座るのは——

いつだって、人間だ。


「……敵だね」


ミリアが、静かに言う。


「うん」


レインは、頷く。


「でも——」


視線を上げる。


「敷設者より、ずっと分かりやすい」


「殴れる」


リュカが、口角を上げた。


「久しぶりだな、その条件」


エルドは、盾を持ち直す。


「受け止められる」


その時。


蒼衡そうこう/アズール・バランスから、緊急通信が入った。


『——こちら蒼衡』


『世界機関内部で、異常行動を確認』


『現象の“管理”を試みている個体がいる』


『……敵対の可能性、高』


レインは、短く答えた。


「了解」


通信を切り、仲間を見る。


「次は——」


一拍。


「“世界を使う奴”との戦いだ」


それは、敷設者の戦争ではない。


思想でも、現象でもない。


権力と管理の戦争。


英雄は、象徴として立たされる。

蒼衡そうこうは、切るべきか迷う。

世界機関は、内部から揺らぐ。


そして——

非裁定ノーリトリート》だけが、

“選ばせないまま、止めない”という矛盾を武器に、前へ出る。


レインは、静かに言った。


「……今度は」


「相手の名前を、聞いてから殴ろう」


戦争は、顔のある敵を得た。


——ここから先は、逃げ場のない物語だ。


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