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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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進めたはずの場所が、消える

最初に異変が起きたのは、

整備されたはずの街道だった。


切られていない。

壊されてもいない。


だが——

昨日まで“進んでいた工程”だけが、抜け落ちていた。


「……あれ?」


朝番の警吏が、首を傾げる。


道はある。

門も立っている。

補修した蝶番も、確かにそこにある。


だが。


「……通った、よな?」


昨日、荷車が通ったはずの轍が、ない。

整えたはずの敷石が、“未整備だった状態”に戻っている。


破壊ではない。

巻き戻しでもない。


——工程が、存在しなかったことにされている。



同時刻。


別の街。


倉庫の前で、管理者が立ち尽くしていた。


「……確認は、終わっている」


「数も合ってる」


「配置も……」


言葉が、止まる。


「……あれ?」


帳簿はある。

数字も書かれている。


だが——

“確認した”という行為だけが、どこにも残っていない。


誰が見たのか。

いつ終わったのか。

その工程が、最初から存在しなかった。


「……やってない?」


「いや、やったはずだ……」


管理者は、汗をかく。


責任ではない。

判断でもない。


進めたはずの途中段階が、丸ごと消えている。



報告は、連鎖した。


・整備した道が“未整備扱い”に戻る

・仕分けた物資が“未分類”になる

・準備した配置が“未着手”に書き換わる


共通点は一つ。


決断を伴わない工程だけが、喰われている。



世界機関。


調整官が、珍しく言葉を詰まらせた。


「……これは」


「選択の停止ではありません」


「意思の固定でもない」


記録官が、低く言う。


「工程の抹消です」


「“進めた事実”そのものが、

 世界に認識されなくなっている」


「まるで——」


言葉を探す。


「……飢餓だ」


「意味を、喰っている」



蒼衡そうこうの前線指揮室。


戦域図に、

不可解な空白が浮かび上がる。


「……切れていない」


「だが——」


副官が、歯を食いしばる。


「切る前の準備が、消えています」


蒼衡の指揮官は、即座に理解した。


「……工程を、喰う存在」


「切れない理由を、

 先に消している」


これは、

蒼衡への対策でもあった。



そして、《非裁定ノーリトリート》。


レインは、報告を聞き終え、

静かに目を閉じた。


「……来たな」


ミリアが、声を強める。


「これって……」


「うん」


レインは、はっきり言う。


「原初の飢餓だ」


「選択を喰い」


「代理を喰い」


「今度は——」


拳を、ゆっくり握る。


「進む途中そのものを、喰い始めた」


リュカが、低く呟く。


「……俺たちの“次”を、

 潰しに来てる」


「そうだ」


レインは、前を見る。


「だから——」


「これはもう、

 思想だけじゃ止まらない」


遠く、誰にも見えない場所で、

“満腹度”が更新される。


「工程、良好」


「抵抗、観測」


「次は——

 現場ごと喰う」


レインは、小さく息を吐いた。


「……行くぞ」


「今度は」


「喰われる前に、殴る」


世界は、再び動き出す。


だがそれは——

飢餓との、正面衝突の始まりだった。


異変の中心は、

街道都市の外れにある臨時集積所だった。


本来なら、

ここは「決めなくても進む場所」だった。


物資は一時的に置かれ、

分類され、

次の行き先が“後で”決められる。


判断を先送りするための、

緩衝地帯。


——だが。


「……動かない」


倉庫番の男が、呟いた。


荷はある。

人もいる。


だが、

誰も“次の作業”に入れない。


「整理は終わってる」


「でも……」


「終わった“あと”が、無い」


整理したはずの箱が、

再び混ざっている。


だがそれは、

混乱ではなかった。


“整理済み”という工程が、

初めから存在しなかったことにされている。


「……っ」


男は、頭を押さえる。


怒りでも、恐怖でもない。


ただ、

自分の中から“やったはずの時間”が抜け落ちている。



その時。


男の影が、

わずかに揺れた。


光源は、変わっていない。

太陽も、雲も、同じだ。


だが影だけが——

一拍遅れて、動いた。


「……?」


次の瞬間。


影が、

“立ち上がった”。


人の形をしている。

だが、輪郭が曖昧だ。


顔はない。

手足も、完全ではない。


ただ——

“途中でやめられた何か”の集合体。


影が、口を開く。


音はない。

だが、意味だけが流れ込む。


『——足りない』


『進行が、足りない』


『積まれたが、完了していない』


『——喰える』


男は、後ずさる。


「……な、なんだ……」


影は、

男に触れなかった。


ただ——

彼の“役割”に、手を伸ばした。


次の瞬間。


男の体から、力が抜ける。


倒れはしない。

だが——

立っている理由だけが、消えた。


「……俺……」


「何を……してた……?」



そこへ。


風を裂く音。


ミリアが、即座に間に入る。


「下がって!」


剣は、抜かない。


前線確定ぜんせんかくてい》——最小。


“ここから先は戦場だ”

それだけを、世界に示す。


だが。


影は、止まらない。


剣も、威圧も、意味を持たない。


「……効かない!」


ミリアが歯を食いしばる。


「いや!」


レインが、即座に叫ぶ。


「効かせる対象が違う!」


影は、人を喰っていない。


命も、意思も、恐怖も。


——工程だ。


「リュカ!」


「把握しろ!」


リュカの《戦域把握せんいきはあく》が展開される。


だが、

未来は見えない。


いや——

“途中”が存在しない。


「……ダメだ」


リュカが、唇を噛む。


「完了か、未着手しか無い!」


「“途中”が、全部消えてる!」


レインは、理解した。


これは、

原初の飢餓の新しい形。


進めることで生まれる“余白”そのものを、

栄養にする存在。


「……来る」


レインは、前に出る。


「これは——」


「並べただけじゃ、止まらない」


影が、レインを見る。


いや——

見ていない。


レインの背後。


ノーリトリートが、

“次に進もうとしている構造”を、

正確に嗅ぎ取っている。


『——それを、喰う』


影が、初めて形を強める。


戦闘ではない。

だが——

接触すれば、確実に奪われる。


ミリアが、声を張る。


「レイン!」


「殴れる!?」


レインは、静かに答えた。


「……殴れる」


「でも——」


拳を、握る。


「今までのやり方じゃ、勝てない」


影が、一歩、踏み出す。


その瞬間。


蒼衡そうこうの警告が、

通信に割り込んだ。


「——切断準備」


「対象:未定義現象」


「初の実戦投入になる」


レインは、即答した。


「待て」


「切るな」


「——俺が、先に行く」


影と、ノーリトリート。


初めて、

明確な衝突点が定まる。


これは、逃げ場のない戦いだ。


原初の飢餓は、

ついに——

殴られる位置まで、出てきた。


影は、踏み出した。


それは攻撃ではない。

踏み込みでも、突進でもない。


——工程が喰われる“瞬間”。


空気が、薄くなる。

いや、違う。


“次に進むための途中”だけが、抜け落ちる。


「……っ!」


ミリアが、思わず一歩下がる。


足場はある。

距離もある。


だが——

“踏み出す理由”が、消えかけている。


「来る!」


リュカが叫ぶ。


戦域把握せんいきはあく》が、

初めて“欠損”を捉えた。


未来が消えるのではない。

未来に至る途中が、存在しない。


「レイン!」


ミリアが、歯を食いしばる。


「このままじゃ——」


「分かってる」


レインは、前に出た。


非裁定ノーリトリート》の名の通り、

裁かない。

選ばせない。


だが——

止めもしない。


「ミリア」


「前線は——」


「分かってる!」


ミリアは、剣を抜かない。


前線確定ぜんせんかくてい》——最小。


“ここから先は、戦場だ”

それだけを、世界に刻む。


影は、止まらない。


前線を、

“喰える工程”として認識している。


その瞬間。


通信が、割り込んだ。


『——切断、実行』


蒼衡そうこうの声。


次の瞬間、

空間が“鳴った”。


斬撃ではない。

爆発でもない。


“繋がり”が、断ち切られる音。


影の一部が、

はっきりと削げ落ちた。


『——欠損……?』


初めて、

意味の揺らぎが生じる。


「効いてる!」


リュカが、即座に叫ぶ。


「工程じゃない!」


「工程を喰う“通路”を切ってる!」


蒼衡は、

“影”を切っていない。


影が工程へ至る構造を、切った。


だが——

それだけでは、足りない。


影は、即座に別の経路を探す。


「——来る!」


その瞬間。


レインが、踏み出した。


選ばない。

決めない。


代わりに——

並べる。


「ここに」


「人を戻す」


レインは、声を張る。


「倉庫番は、倉庫へ」


「見張りは、門へ」


「医師は、医師の場所へ」


命令ではない。

判断でもない。


“元の配置”を、並べ直すだけ。


影が、軋む。


『——喰えない』


『工程が——固定されていない』


「そうだ」


レインは、静かに言う。


「工程じゃない」


「配置だ」


「喰う前に、

 “途中”を作らせない」


影が、後退する。


初めて——

逃げる、という動きを見せた。


蒼衡の指揮官が、即断する。


『——第二切断』


今度は、

影の“再構築点”が断たれた。


影が、悲鳴のようなノイズを発する。


『——不足』


『——未達』


『——学習……』


影は、完全には消えない。


だが——

喰えなくなった。


現場の空気が、戻る。


人々が、息を吸う。


「……あれ?」


「今……何を……」


誰も、何が起きたか分からない。


だが——

立っている理由は、戻った。


ミリアが、肩で息をする。


「……やった?」


「いや」


レインは、首を振る。


「追い返しただけだ」


蒼衡の指揮官が、通信越しに言う。


『理解した』


『切るのは、“存在”ではない』


『接続だ』


レインは、短く頷く。


「守るのは、

 “判断”じゃない」


「配置だ」


見えない場所で、

評価が更新される。


「損耗、確認」


「工程捕食、非効率化」


「……再設計が必要」


原初の飢餓は、

初めて“満腹になれない現場”を経験した。


完全な勝利ではない。


だが——

確かな一撃だった。


非裁定ノーリトリート》は、

蒼衡と並んで立つ。


切る者と、守る者。


その間に、

世界が——かろうじて、残った。


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