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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第2章

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偽物は、本物に触れられない

結界の外縁。


月明かりの下、

空間が、わずかに歪んだ。


「……やっぱり、完成してないな」


声がする。


人影が、

結界の内側へ“自然に”歩み出てきた。


結界は、反応しない。


「……っ」


ミリアが、即座に前に出る。


「止まりなさい」


レイピアを構える。


相手は、フードを外した。


年齢不詳。

表情は薄く、興味だけが浮かんでいる。


「へぇ……」


視線が、ミリアの足元から剣先へと動く。


「それが、前線か」


次に、

背後を見る。


「……で、君が後衛だな」


レイン。


「コピー能力者」


その呼び方に、

レインの目が細くなる。


「君も、だろう」


相手は、口角を上げた。


「そう」


軽く手を広げる。


「俺は《反射模倣ミラージュ・コピー》」


空気が、揺れた。


「見た技、見た動き、

 全部その場で再現する」


「剣も、魔法も、

 能力もな」


実際――

相手の構えは、

ミリアと酷似していた。


足運び。

重心。

剣の角度。


「……っ」


ミリアが、踏み込む。


《零距離踏み》。


相手も、

同時に踏み込む。


《零距離踏み》。


剣が、ぶつかる。


火花。


「ほら」


相手が、笑う。


「全部、写せる」


連撃。


《直線穿ち》。

《弧返し》。


すべて、

同じタイミング、同じ精度。


ミリアが、歯を食いしばる。


(……通じない)


「どうした?」


相手は、余裕を崩さない。


「君の前線、

 綺麗だけど浅い」


次の瞬間。


「――じゃあ、これも」


相手の剣が、

わずかに歪んだ軌道を描く。


擬似不退斬フェイク・ノーリトリート》。


「……っ!」


ミリアが、後ろに跳ぶ。


地面が、裂けた。


(……真似してる)


だが――

軽い。


「……レイン」


ミリアが、息を整えながら言う。


「こいつ……

 “立つ理由”までは、

 分かってない」


「ええ」


レインは、一歩前に出た。


「技を写してるだけだ」


相手が、眉をひそめる。


「……何?」


「コピー能力者同士なら、

 分かるだろ」


レインは、静かに言った。


「それは、

 戦いを真似してるだけだ」


「世界を、

 見ていない」


「……うるさい」


相手が、手を振り上げる。


「なら――

 まとめて写してやる!」


戦場重複バトル・オーバーレイ》。


空間が、歪む。


攻撃。

能力。

動き。


すべてが、

重なって襲いかかる。


「……ここまでだ」


レインが、

一歩、踏み出した。


「《絶対無効圏アブソリュート・ゼロ》」


音が、消えた。


色が、薄れる。


相手の攻撃が――

途中で、消えた。


「……え?」


相手が、目を見開く。


「な……

 何を――」


「ここは」


レインの声は、低い。


「何も起きない」


相手が、剣を振ろうとする。


だが――

動かない。


能力も、

技も、

思考すら、噛み合わない。


「……まさか」


相手が、理解しかけた瞬間。


「――終わりです」


ミリアが、前に出た。


足を止める。


迷いは、ない。


「《不退一閃ノー・リトリート》」


一歩。


一振り。


それだけ。


次の瞬間、

相手は崩れ落ちた。


音も、抵抗もない。


静寂。


ミリアは、剣を下ろした。


「……勝ちましたね」


「ええ」


レインは、息を吐く。


だが――

表情は、晴れない。


「……でも」


ミリアも、同じことを感じていた。


「……はい」


「今のは」


レインが、静かに言う。


「完成形じゃない」


相手は弱かった。

だが――

“写し方”は、確実に進化している。


「……もっと、

 理解される前に」


ミリアが、剣を握り直す。


「私たちも……

 理解しないと」


レインは、頷いた。


視線は、

古代剣術書と、

古代魔導書へ向く。


「次は――

 踏み台じゃ済まない」


夜風が、結界を撫でた。


世界は、

まだ甘くなかった。


戦闘の後は、驚くほど静かだった。


結界は安定し、

街に混乱はない。


倒れた敵の身体は、

すでに霧のように崩れ始めている。


「……消えるんですね」


ミリアが、ぽつりと言った。


「ええ」


レインは視線を外さず答える。


「長く存在できるタイプじゃない。

 能力も、本人も……

 “借り物”だった」


ミリアは、少しだけ眉をひそめた。


「……強かった、ですよね」


「強い“ふり”はしていました」


レインは、静かに訂正する。


「でも――

 危険だったのは、

 精度が上がり始めていたことです」


地面に残る、

薄い魔力の痕跡。


レインは、その上にしゃがみ込んだ。


(……雑じゃない)


コピー能力の使い方が、

以前より一段、洗練されている。


(……でも)


「……致命的に、浅い」


ミリアが顔を上げる。


「浅い?」


「ええ」


レインは、立ち上がった。


「技を写して、

 動きをなぞって、

 結果だけを欲しがっている」


一拍。


「自分が、

 どこに立っているかを見ていない」


ミリアは、

自分の足元を見る。


「……前線、ですね」


「そう」


レインは頷く。


「あなたは、

 “前に立つ理由”を理解している」


「だから、

 《不退一閃》は成立した」


ミリアは、剣を見つめた。


「……でも」


ゆっくりと、言葉を選ぶ。


「正直……

 ギリギリでした」


「分かっています」


レインの声は、柔らかい。


「俺の《絶対無効圏》も、

 完璧じゃない」


ミリアが、驚いたように見る。


「え?」


「今回は、

 相手が“世界を見ていなかった”」


「だから、

 無効にできた」


だが――

一拍、間を置く。


「もし、

 理解した上で踏み込まれたら」


答えは、言わない。


ミリアも、察した。


(……止めきれない)


拠点へ戻る。


部屋の中央に、

古代剣術書と古代魔導書を広げる。


紙は古く、

文字は歪み、

読むだけで集中力を削られる。


「……前から、

 思ってたんですけど」


ミリアが、剣術書をめくりながら言う。


「この本……

 技の説明、

 少なくないですか?」


「ええ」


レインは、魔導書から視線を上げる。


「意図的です」


ミリアが首を傾げる。


「意図的?」


「この本は、

 “教える”ためのものじゃない」


ページを指でなぞる。


「考えさせるための本です」


ミリアは、ページを閉じた。


「……つまり」


「ええ」


レインは、静かに言う。


「俺たちは、

 まだ入口に立っただけ」


沈黙。


だが、

重くはない。


むしろ――

胸の奥が、少し熱い。


「……なら」


ミリアが、顔を上げる。


「ちゃんと、

 読み込みましょう」


「中途半端じゃなく」


「前線として、

 後衛として」


レインは、微笑んだ。


「ええ」


「次は――」


魔導書を、開き直す。


「理解された上で、

 勝つ」


夜が、深まっていく。


机の上で、

二冊の古代書が、

静かに待っていた。


夜は、深くなっていた。


拠点の灯りは落とされ、

机の上には二冊の本だけが残る。


古代魔導書。

古代剣術書。


どちらも、

“読めば強くなる”類のものではない。


レインは、魔導書のページをめくった。


文字が、微かに揺れる。


(……拒絶している)


理解しようとすると、

思考が押し返される。


(……いや)


「……選別している」


小さく、呟く。


ミリアが顔を上げる。


「何か……

 分かりましたか?」


「ええ」


レインは、ページの一節を指す。


「ここ」


「“力とは、

 発動した結果ではなく、

 耐えた前提の総量である”」


ミリアは、

ゆっくりとその言葉を噛みしめた。


「……耐えた、前提」


「この本は」


レインは、目を閉じる。


「無理をさせる」


「理解できる者に、

 理解できるだけの負荷をかける」


「……優しくないですね」


「ええ」


レインは、苦笑した。


「でも……

 正直です」


一方、ミリアは剣術書を開いていた。


そこに描かれているのは、

簡単な構え。


拍子抜けするほど、

地味な図。


「……これ」


ミリアは、首を傾げる。


「新しい技……

 じゃないですよね?」


「違います」


レインが、即答する。


「それは――

 立ち方です」


ミリアは、

無意識にその構えを取った。


足を開き、

体重を乗せ、

剣を前に置く。


一瞬。


身体の感覚が、変わった。


(……逃げられない)


自然と、

後ろに下がれない位置に立っている。


「……これ」


声が、少し震える。


「《不退一閃》の……

 前提、ですね」


「ええ」


レインは、静かに頷いた。


「技じゃない」


「退かない状態を、

 作ること」


ミリアは、

剣を強く握る。


「……だから」


「コピーできなかったんですね」


「理由は、

 “覚悟”です」


レインは、再び魔導書に向き直る。


ページの奥。


薄く、

ほとんど消えかけた文字。


――「零」。


(……アブソリュート・ゼロ)


だが、

そこに書かれているのは――

“無効”ではない。


「……なるほど」


レインの背中に、

冷たい汗が流れる。


(……これは)


《絶対無効圏》は、

完成技ではない。


これは――

入口だ。


真の意味は、


「自分も、

 その圏域の一部になる」


つまり。


(……俺自身も、

 “何も起きない”側に

 立つ必要がある)


力を使うほど、

自分も削られる。


理解するほど、

余地がなくなる。


「……危ないですね」


レインが、正直に言う。


ミリアは、

迷わず答えた。


「……はい」


それでも。


「やめませんよね」


レインは、

小さく笑った。


「ええ」


「やめたら、

 次は街が削られる」


ミリアは、

構えを解いた。


「……なら」


一歩、前に出る。


「前線は、

 もっと強くなります」


レインも、

本を閉じる。


「後衛も、

 逃げ場を減らします」


二人は、視線を交わした。


恐怖はある。

代償も、見えた。


それでも――

進む理由は、消えない。


古代書は、

静かにページを閉じた。


まるで。


「それでいい」と、

言うように。


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