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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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選ばせる世界

異変は、同時に起きた。


一か所ではない。

二か所でもない。


七か所。


それぞれが、離れた地域。

繋がりのない街。

共通点のない人々。


ただ一つを除いて。


――どこも、切られた後だった。


「……冗談だろ」


世界機関の観測室で、

誰かが呟いた。


魔力波形。

歪曲指数。

因果変動。


すべてが、

“危険域未満”。


つまり――

今すぐ切る理由がない。


だが、確実に“始まっている”。


「選択誘導型現象……」


観測官が、声を震わせる。


「対象地域ごとに、

 “二択”が提示されています」


「二択?」


「はい」


記録が、空間に投影される。


ある街では――

橋を落とすか、住宅街を呑ませるか。


別の村では――

治療資源を子供に回すか、兵に回すか。


さらに別の場所では――

一人を隔離するか、十人を危険に晒すか。


どれも、

正解があるようで、ない。


「……原初の飢餓だ」


レインは、静かに言った。


非裁定ノーリトリート》の仲間たちが、

即座に理解する。


「一か所だけなら」


ミリアが、歯を噛みしめる。


「立てた」


「二か所でも、

 間に合ったかもしれない」


「でも……」


リュカが、言葉を継ぐ。


「七か所同時は、

 “選ばせに来てる”」


エルドが、盾を握り直す。


「立てない場所が、

 必ず出る」


それが、

この現象の核心だった。


原初の飢餓は、

もう一つも選ばない。


代わりに、

世界そのものに選ばせる。


蒼衡(そうこう/アズール・バランス)から、

即座に通信が入る。


「現象を確認した」


「部隊を分割し、

 対応に当たる」


「切る判断も、

 現場裁量で許可する」


合理的。

正しい。


だが。


「……それでも」


レインは、拳を握る。


「必ず、

 “立てない場所”が出る」


原初の飢餓は、

それを理解している。


だから、

数を増やした。


だから、

同時に来た。


七つの場所で、

七つの選択。


どれも、

誰かの正しさを要求する。


どれも、

誰かの後悔を生む。


「……行くぞ」


レインは、仲間を見る。


「全部は無理だ」


「でも」


一瞬、間を置く。


「一つでも、

 “選ばせない場所”を作る」


それが、

非裁定ノーリトリート》の答えだった。


世界は今、

静かに問いを突きつけている。


――選べ。


原初の飢餓は、

その問いが投げ返されるのを、

初めて待っていた。


七つすべては、描かない。


描くのは――

三つだけ。


それで、十分だった。



第一現場:石橋の街


橋は、街の生命線だった。


崩れかけた石橋の下で、

歪みが膨らんでいる。


選択は単純だ。


――橋を落とせば、歪みは止まる。

――落とさなければ、住宅街が呑まれる。


蒼衡(そうこう/アズール・バランス)の部隊が、

即座に展開する。


「判断」


指揮官の声に、迷いはない。


「橋を切る」


刃が振るわれる。


石橋は、崩れ落ちる。


歪みは、止まった。


街は救われた。

だが、橋は失われた。


「……復旧には、

 十年はかかるな」


誰かが呟く。


その声は、

誰にも責められなかった。



第二現場:治療村


治療薬は、

十人分しかない。


だが、

患者は二十人。


半数は子供。

半数は、戦える成人。


原初の飢餓が、

“条件”を提示している。


蒼衡の判断は、即座だった。


「成人を優先」


「防衛力を残す」


子供の一人が、

小さく咳をする。


誰も、目を逸らさない。


誰も、

間違っていない。


治療は行われ、

村は守られた。


だが。


子供の一人は、

夜を越えられなかった。



第三現場:隔離区画


ここに、

非裁定ノーリトリート》が立った。


歪みは、

一人の住民を中心に広がっている。


選択は、提示されていた。


――その一人を隔離すれば、

 他は助かる。


「……選ばせる気だ」


ミリアが、低く言う。


レインは、前に出た。


「隔離しない」


「……無茶だ」


リュカが、即座に判断する。


「ここで広がれば、

 被害は出る」


「それでも」


レインは、その住民の前に立つ。


「ここに、立つ」


《存在係留》が、

ぎりぎりまで引き上げられる。


歪みが、

一瞬だけ迷う。


「……効いてる」


エルドが、盾を突き立てる。


「まだ、選ばせてない」


時間を稼ぐ。


選択肢を、

宙吊りにする。


だが。


通信が、割り込んだ。


「……第四現場」


「第五現場で、

 被害発生」


誰も、

それ以上聞かなかった。


分かっていた。


立てなかった場所が、

 必ず出る。


歪みは、

第三現場では収まった。


だが、

別の場所で、

家が崩れ、人が傷ついた。


「……全部は、無理だ」


ミリアの声が、震える。


レインは、歯を噛みしめた。


それでも。


「……それでも」


「ここでは、

 選ばせなかった」


原初の飢餓は、

この結果を見ていた。


切られた場所。

切られなかった場所。


立たれた場所。

立てなかった場所。


すべてを、

同列に記録している。


七つの問いのうち、

三つに答えが出た。


残り四つは、

まだ“保留”のままだ。


だが、

世界はもう理解してしまった。


――選ばされている、と。


報告は、時間差で届いた。


七つの現場。

七つの判断。

七つの結果。


死者数。

損壊区域。

回復可能性。


数字は、整っていた。


「……致命的な被害は、回避されています」


世界機関の報告官が、静かに告げる。


「最悪の事態は、避けられたと判断できます」


誰も、反論しなかった。


事実だからだ。


橋は落ちたが、街は残った。

子供は死んだが、村は守られた。

隔離しなかった場所では、被害が抑えられた。


どれも、

“正しい判断”の範囲内だった。


だからこそ。


「……これは」


評議官の一人が、言葉を選ぶ。


「偶発的な多発ではありません」


「原初の飢餓が、

 同時に問いを投げたと考えるべきです」


沈黙。


「つまり」


別の評議官が、続ける。


「我々は、

 “全問に回答してしまった”」


その一言が、

重く落ちた。


レインは、拳を強く握る。


「……違う」


「俺たちは、

 選ばせない場所も作った」


「作ったが」


評議官は、否定しない。


「それでも、

 他では選んだ」


「原初の飢餓にとっては、

 十分なデータです」


蒼衡(そうこう/アズール・バランス)の代表が、

低く息を吐いた。


「……成功だと思っていた」


「被害は、

 抑えられている」


「だが」


視線を、レインに向ける。


「これは、

 “次の段階”を呼んだ」


レインは、頷いた。


「……選択の傾向を、

 学習された」


七つの問い。

七つの答え。


切る判断。

切らない判断。

立った場所。

立てなかった場所。


それらはすべて、

条件として整理された。


遠く。


原初の飢餓が、

静かに“満腹”を終える。


もう、

無差別に問いを投げる必要はない。


次は——

より少なく、より鋭く。


「……次は」


ミリアが、震える声で言う。


「もっと、

 選べない形で来るよね」


「来る」


レインは、即答した。


「今度は、

 “同時”じゃない」


「“連鎖”だ」


一つを選べば、

次が起きる。


立てば、

別の場所が崩れる。


切れば、

戻れない場所が増える。


世界は今、

正しく動きすぎた。


その結果、

敵に“攻略法”を渡した。


評議官が、静かに宣言する。


「……この現象を」


「国家レベルの危機として、

 再定義します」


「対応指針の見直しが必要です」


それは、

世界機関が“迷い始めた”証拠だった。


原初の飢餓は、

それを待っていた。


選ばせた世界。

答えてしまった秩序。


もう一度、問いを投げる準備は整った。


今度は、

逃げ場のない問いを。


レインは、静かに息を吸う。


「……次は」


「俺たちが、

 選ばせる番だ」


その言葉が、

戦いの段階が変わったことを告げていた。


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