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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第2章

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前線が狙われる日

異変は、静かすぎる形で始まった。


結界の外縁。

見張り役の冒険者が、ふと首を傾げる。


「……静かだな」


魔物の気配はない。

魔力の乱れも、ない。


それなのに――

嫌な感じだけが、消えない。


ミリアは、街門前に立っていた。


結界の再設計が始まってから、

ここが彼女の定位置になっている。


前に立つ。

人の流れを止める。

異変があれば、最初に受ける。


(……今日は、何もなければいい)


そう思った瞬間だった。


結界の“内側”で、

空気が、きしむ。


「……っ」


背中が、ぞわりとする。


(内側?)


本来、

異変は外から来る。


だが今回は――

違う。


街の中。

人の気配があるはずの場所。


そこに、

“戦う意思”だけが浮かび上がった。


「……下がってください!」


ミリアは、即座に叫んだ。


「一般人は、後方へ!」


冒険者たちが、

反射的に動く。


その瞬間。


「――正解だ」


声がした。


すぐ後ろ。


「……っ!?」


振り向く暇もない。


ミリアは、

身体をひねり、

反射的にレイピアを構える。


金属音。


剣と剣が、ぶつかった。


火花が散る。


「……へぇ」


相手は、

人型。


フードを被り、

顔は見えない。


だが――

動きが、異様に“分かっている”。


「反応、早いな」


距離を取る。


ミリアは、息を整える。


(……この人)


魔物じゃない。

人だ。


「……あなた、誰ですか」


問いかける。


相手は、軽く肩をすくめた。


「名乗るほどのものじゃない」


だが、と続ける。


「君が、

 この街の“前線”だろ?」


ミリアの瞳が、細くなる。


「……それが、どうした」


「いや」


相手は、剣を構え直す。


「確認しに来ただけだ」


確認?


「前に立つ人間が、

 どれくらい“成立してるか”を」


一瞬。


ミリアの中で、

何かが噛み合った。


(……狙われてる)


街じゃない。

結界じゃない。


自分だ。


「……残念です」


ミリアは、足を踏み出した。


「ここは、

 通行止めです」


相手が、笑った気がした。


「いいね」


次の瞬間。


踏み込み。


速度が、

一段階上がる。


(……速い)


だが――

逃げない。


《零距離踏み(ゼロ・ステップ)》。


間合いを潰す。


剣が、交錯する。


衝撃が、腕に走る。


(……重い)


相手は、

力で押してこない。


だが、

判断が、すべて一手早い。


「……なるほど」


相手が、呟く。


「前線を張れる理由は、

 分かる」


ミリアは、歯を食いしばる。


(……レイン)


通信石は、

使えない。


結界の内側。

干渉されている。


――つまり。


(……一人だ)


それでも。


「……それでも、

 前には立つ」


剣を、構え直す。


背後には、

街がある。


「――ここは、

 通さない」


相手は、

楽しそうに息を吐いた。


「いい」


「じゃあ――

 一人で、証明してみろ」


剣が、再びぶつかる。


夜の街で、

火花が散った。


刃が、かすめた。


肩口。

浅いが、確実に当ててきた一撃。


「……っ」


ミリアは、距離を取る。


呼吸を整えるが、

胸の奥がざわつく。


(……当ててきてる)


相手は、強引に攻めてこない。

ただ――

こちらの動きを“知っている”ように対応してくる。


《零距離踏み》を使えば、

その一歩先に動かれる。


《直線穿ち》を狙えば、

“突く前”に剣が置かれる。


「……学習が、早い」


相手が、楽しそうに言う。


「いや……

 正確には――」


一瞬、視線がミリアの足運びに向く。


「再現が、早い」


ミリアの背筋が、冷たくなる。


(……コピー)


レインが言っていた。


“理解せずに真似る”コピーは、雑で危険だと。


だが、この相手は――

戦闘の“型”だけを抜き取って再現している。


「……っ」


次の一撃。


受け止めきれず、

地面を滑る。


距離が、開く。


背後には、

街の建物。


これ以上下がれない。


「……いいね」


相手が、剣を軽く振る。


「君は、

 “正しい前線”だ」


その言葉に、

ミリアの胸が、きゅっと締まる。


「だから――」


一歩、踏み出す。


「壊す価値がある」


空気が、張り詰める。


(……通じない)


頭の中で、

焦りが広がる。


今まで通用していた判断が、

一手ずつ潰されていく。


(……私は)


一瞬だけ、

過去がよぎる。


紅鷹にいた頃。

「前に出るな」と言われた日々。


(……違う)


歯を食いしばる。


(……今は)


背後には、

逃げ遅れた人影。


(……守る人がいる)


ミリアは、深く息を吸った。


(……勝たなくていい)


その考えに、

自分で驚く。


(……“通さなければ”いい)


剣を、構え直す。


姿勢が、少し変わる。


相手は、眉を上げた。


「……?」


ミリアは、前に出ない。


踏み込まない。


代わりに――

“立ち続ける”。


《零距離踏み》を、

使わない。


《直線穿ち》も、

狙わない。


相手が、

“学習する価値のある動き”を、

しない。


「……なるほど」


相手が、低く笑った。


「攻めを、捨てたか」


「いいえ」


ミリアの声は、落ち着いている。


「前線に、なっただけです」


次の瞬間。


相手が、踏み込む。


だが――

ミリアは、動かない。


剣を、

“ここから先は通さない”位置に置くだけ。


剣と剣が、噛み合う。


火花が散る。


「……っ」


相手の動きが、

初めて止まった。


「……それは」


驚いた声。


「……学習できないな」


ミリアは、息を吐く。


(……これでいい)


勝てなくてもいい。

理解されなくてもいい。


前に立ち、止める。


それが、

自分の役割だ。


相手は、

一歩、距離を取った。


「……十分だ」


剣を下ろす。


「今日は、

 ここまでにしておこう」


ミリアは、剣を下ろさない。


「……逃げるんですか」


相手は、肩をすくめた。


「違う」


「確認が終わった」


その言葉だけ残し、

闇に溶ける。


夜が、戻ってくる。


ミリアは、

その場に立ち尽くした。


足が、少し震える。


(……守れた)


勝ってはいない。

でも――

通さなかった。


それだけで、

胸の奥が、少し温かい。


少し遅れて、

足音が近づく。


「……ミリア!」


レインだった。


「……無事で、よかった」


ミリアは、

小さく笑った。


「……はい」


剣を収める。


「前線は……

 守れました」


レインは、

その言葉を、深く受け取った。


夜明け前の街は、静かだった。


戦闘の痕跡は最小限。

倒壊した建物も、焼け跡もない。


だが――

レインには、それが逆に重く感じられた。


(……間に合わなかった)


通信石が復旧した時には、

すでに戦闘は終わっていた。


「……敵は?」


レインの問いに、

周囲の冒険者が首を振る。


「撤退しました」

「追撃は、できませんでした」


当然だ。

これは討伐戦じゃない。


確認。

試験。

そして――

撤収。


「……ミリアは?」


「無事です」


その一言に、

胸の奥の緊張が、ようやく緩む。


街門近く。


ミリアは、壁にもたれて座っていた。


怪我は、軽い。

だが、疲労は隠せない。


「……ミリア」


レインが、歩み寄る。


ミリアは顔を上げ、

少しだけ驚いたように目を瞬かせてから――

笑った。


「……すみません」


最初に出た言葉が、それだった。


レインは、即座に首を振る。


「謝る必要はありません」


一拍。


「……俺が、

 そばにいなかった」


ミリアは、その言葉に目を伏せた。


「……いえ」


ゆっくりと、立ち上がる。


「今回は……

 私が前線でした」


はっきりと。


「レインが後ろにいなくても、

 立つ番でした」


その言葉は、

強がりではなかった。


事実だった。


レインは、

何も言えなくなる。


(……そうか)


ずっと、

“守る側と守られる側”だと思っていた。


だが――

前線は、引き継がれるものだった。


「……怖く、ありませんでしたか」


正直な問いだった。


ミリアは、少し考えてから答える。


「……怖かったです」


「でも」


一度、言葉を切る。


「逃げたいより、

 通したくない方が、

 強かったです」


その理由を、

もう説明する必要はない。


背後に、街があった。

人がいた。


「……それで、十分です」


レインは、静かに言った。


「あなたは、

 もう“一人で前線になれる”」


ミリアは、少し照れたように笑う。


「……一人、ですけど」


視線を、レインに向ける。


「それでも、

 後ろにレインがいるって、

 分かってましたから」


その言葉に、

レインの胸が、きゅっと締まる。


(……支え合ってる)


守る、守られる、ではない。


役割が違うだけ。


少し離れた屋根の上。


フードの人物が、

街を見下ろしていた。


「……面白い」


低い声。


「前線が、

 “壊れなかった”」


想定では、

もっと動揺するはずだった。


もっと、

判断が乱れるはずだった。


「……コピーできる動きは、

 全部再現した」


だが――

立ち続ける理由までは、

写せなかった。


「……次は」


フードの人物は、踵を返す。


「“一人で立つ前線”を、

 どう壊すかだ」


夜に、溶ける。


街は、まだ眠っている。


だが――

前線は、確かに生まれた。


レインは、結界の光を見上げた。


(……俺も、

 変わらないといけない)


守るだけでは、足りない。

支えるだけでも、足りない。


“間に合わない時”を、

 前提に組み込む必要がある。


「……次は」


ミリアと並んで、

歩き出す。


「次は、

 もっと厄介になりますね」


ミリアは、

小さく笑った。


「……はい」


「でも」


一歩、前に出る。


「前線は、

 まだ空いてます」


レインは、

その背中を見て、頷いた。


戦いは、

もう個人のものじゃない。


世界は、

確実に次の段階へ進んでいた。


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