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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第1章

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前に立つ理由

依頼書を見た瞬間、ミリアは小さく息を吸った。


――複数魔物同時発生

――連携行動あり

――前衛被害多数


「……前に立つ人が、足りてない」


自然に出た言葉だった。


レインは、横から依頼書を見て頷く。


「ええ。

 だから、あなたが立つ」


迷いはなかった。


以前なら、

この言葉だけで胸がざわついていたはずだ。


でも今は――


「……はい」


即答できた。


現地は、開けた谷間だった。


岩陰。

視界の悪さ。

挟撃が成立しやすい地形。


「……来ます」


ミリアは、一歩前に出る。


レインは、その背中を見て立ち止まった。


(……もう、準備は要らない)


彼女は、もう“立てる”。


魔物が現れる。


三体。

連携型。

一体が囮になり、二体が左右から詰める。


(……前と同じ)


でも、今は違う。


ミリアは、深く息を吸った。


「――行きます」


踏み込み。


《零距離踏み(ゼロ・ステップ)》。


距離が、消える。


囮役の魔物が、

「攻撃を受ける前提」で動いた瞬間。


「――今」


レインの声は、必要最小限だった。


線上固定ライン・ロック》。


逃げ場が、消える。


ミリアは、迷わない。


《直線穿ち(リネア・スラスト)》。


一体目が、沈む。


「……っ」


二体目が、同時に動く。


挟撃。

以前なら、判断が遅れていた。


だが――


(……見える)


軌道。

重心。

次の一歩。


ミリアは、身体をひねる。


《弧返し(アーク・リバース)》。


相手の動きを“なぞって”ずらす。


三体目の攻撃が、空を切る。


その瞬間。


「――私が、前に立つ理由は」


ミリアの声は、震えていない。


「考えて、決めて、守るため」


《存在線断ち(エグジスト・ライン)》――

未完成の奥義。


だが、

今は十分だった。


切っ先が、

“成立していた線”を断つ。


魔物は、音もなく崩れ落ちた。


静寂。


風が、谷を抜ける。


ミリアは、剣を下ろした。


呼吸は、乱れていない。


(……立てた)


後ろから、レインが歩み寄る。


「……完全に、前衛でした」


その言葉に、

胸の奥が、熱くなる。


「……はい」


ミリアは、小さく笑った。


「もう、逃げません」


レインは、少しだけ目を細める。


「それなら……」


一拍置いて。


「これからは、

 あなたが前線の基準です」


ミリアは、驚いて――

そして、少し照れた。


「……それ、

 責任、重いですね」


「でも」


視線を合わせる。


「悪くないです」


二人は、同時に笑った。


前に立つ人。

後ろで支える人。


役割は、もう揺るがない。


世界の前提が、

静かに書き換わっていく。


最初に異変に気づいたのは、後続の冒険者たちだった。


谷の入口で足を止め、

倒れ伏す魔物の数を数える。


「……三体?」


「しかも、

 ほとんど傷が残ってないぞ」


一人が、喉を鳴らす。


「あの連携型だろ……?

 前衛が二人でも、

 普通は一人は持ってかれる」


視線が、谷の中央に向く。


そこに立っていたのは、

一人の少女だった。


細身の体。

レイピアを軽く構え、

すでに剣を収めようとしている。


「……あの子が、

 やったのか?」


「後ろにいるのは……」


視線がずれる。


少し離れた場所に、

黒髪の男が立っている。


魔力の発光もない。

詠唱もない。


ただ、

何もしていないように見える。


「……前衛が全部処理してる?」


「いや……

 動きが、変だ」


冒険者の一人が、眉をひそめる。


「攻撃が、

 当たってるっていうより……」


言葉を探す。


「……“通ってる”?」


その表現に、

周囲が黙る。


少し離れた場所。


別パーティの前衛が、

ミリアに声をかけた。


「……あの」


ミリアは、少し驚いて振り向く。


「はい?」


「さっきの戦い……

 あれ、

 どこの流派だ?」


ミリアは、少し考える。


「……古代剣術、です」


正確には、

二人で再構築した剣術だが。


「古代……?」


前衛は、目を丸くする。


「……見たこと、ないな」


「力で押してない。

 でも、

 全部“決まってた”」


ミリアは、少しだけ照れた。


「……後ろが、

 しっかりしてるので」


自然に出た言葉だった。


その瞬間。


周囲の冒険者たちが、

一斉に後ろを見る。


そこには、

相変わらず静かに立つレイン。


「……後衛?」


「いや……

 あれは……」


誰かが、言いかけて止まる。


適切な言葉が、

見つからない。


ギルドへの帰路。


レインとミリアは、

並んで歩いていた。


「……さっき、

 ちょっと見られてましたね」


ミリアが、小さく言う。


「ええ」


レインは、気にしていない様子だ。


「でも、

 気づいてる人は少ないです」


「……何に?」


「あなたが、

 戦場の基準になり始めていることに」


ミリアは、思わず足を止めた。


「……え?」


レインは、振り返る。


「前に立つ人の動きが、

 他の人の判断基準になります」


「あなたの立ち位置、

 踏み込み、間合い……」


淡々と続ける。


「それを見て、

 周囲が動き始めていました」


ミリアは、言葉を失う。


(……そんな)


自分は、

ただ必死に立っていただけなのに。


「……それって」


「はい」


レインは、はっきり言った。


「一人前の前衛です」


その言葉に、

ミリアの胸が、静かに満たされていく。


「……ありがとうございます」


小さく、でも確かな声。


谷を抜ける風が、

二人の間を通り過ぎた。


世界は、

まだ何も知らない。


だが――


前線の形は、

確実に変わり始めていた。


※ここまで読んで面白いと感じた方は、

ブックマークで続きを追ってもらえると嬉しいです。

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