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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第12章 願いは、小さくていい

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安全な檻

世界機関・中央会議室。


臨時招集。

だが、空気は張り詰めていなかった。


むしろ――

整えられすぎている。


机上に並ぶ資料は、

どれも読みやすく、

どれも“納得できる”数字ばかりだ。


「宝珠関連事案について、

新たな対応指針を協議します」


議長の声は穏やかで、

角がない。


誰かを責める場ではない。

問題を“処理”する場だ。


《勇者》を名乗る剣士が、

迷いなく立ち上がる。


「現状を共有します」


落ち着いた声。

慣れた立ち振る舞い。


「宝珠は、

すでに各地域に流通しています」


「全面禁止は、

現実的ではありません」


官僚の何人かが、

即座に頷く。


事実だ。

止められないものを止めると宣言するのは、

無責任に聞こえる。


「よって――

我々は“管理”に舵を切るべきです」


資料がめくられる。


《宝珠使用者 登録制度(試案)》


「使用者を登録」

「危険度を事前評価」

「暴走時は、

即時対応」


「これにより、

被害は抑えられます」


ヴァルハルト=レオンが、

腕を組んだまま低く言う。


「……抑える、か」


「救うとは、

書いてないな」


剣士は、

一瞬も詰まらない。


「現実的な表現です」


「全員を救うことは、

できません」


「ですが――

多くは救えます」


その言葉に、

空気が揺れる。


反論しづらい。

あまりにも、正しい。


イリス=アークライトが、

慎重に続ける。


「登録制度は、

濫用の危険性があります」


「誰が、

判断を下すのですか?」


剣士は、

静かに答えた。


「現地判断です」


「実績のある対応者が、

責任を持つ」


“実績”。


その単語が、

会議室を支配する。


英雄たちは確かに多くを救っている。

だが――

数字だけを見れば、

《勇者》たちの“迅速な鎮圧”は、

評価されやすかった。


ライザ=クロウデルが、

小さく息を吐く。


(……殴れないな、これ)


理屈が通っている。

支持もある。


ここで声を荒げれば、

“英雄の感情論”にされる。


会議室の隅で、

レインは黙って立っていた。


非裁定ノーリトリート》として、

発言権はある。


だが――

言葉が、

喉の奥で止まる。


(裁けば、楽だ)


(でも、それは――

俺たちの立つ場所じゃない)


ミリアが、

小さく肩をすくめる。


「前に出すぎだね」


「うん」


レインは、

それだけ答えた。


議長が、

まとめに入る。


「では――

試験的に導入を検討しましょう」


誰も拍手しない。

誰も反対しない。


それで、

決まってしまう。


会議が終わり、

人々が立ち上がる。


ヴァルハルトは、

椅子を強く押した。


音が、少しだけ大きかった。


それだけが、

彼の怒りだった。


会議室を出た廊下は、やけに静かだった。


足音が反響するたび、

誰かの苛立ちを踏みつけている気がする。


ヴァルハルト=レオンは、

壁際で立ち止まり、

拳を強く握った。


「……クソ」


低い声。

だが、誰も咎めない。


ライザ=クロウデルは、

剣を外しながら言った。


「正しいことしか、

言われなかったな」


「だから、

何も言えなかった」


その言葉に、

ヴァルハルトが苦く笑う。


「殴れる相手なら、

まだ楽だった」


「だがあれは――

“正論”だ」


イリス=アークライトが、

歩きながら小さく息を吐く。


「管理」

「登録」

「即時対応」


「どれも、

“安全”を装っている」


「でも……」


言葉を選ぶ。


「誰も、

“使わない選択”を

残していませんでした」


沈黙。


その沈黙が、

答えだった。


少し離れた場所で、

レインたちは立っていた。


非裁定ノーリトリート》。


裁かない。

退かない。

選ばせない。


だが――

選ばせないためには、

黙るしかない場面もある。


ミリアが、

苛立ちを隠さず言う。


「前に出すぎだよ」

「あれは、

“判断を一箇所に集める”やり方だ」


「うん」


レインは頷く。


「安全そうに見える分、

一番危ない」


リュカが、

遠くを見る。


「未来が……

細くなってる」


「一本じゃない」

「でも、

選択肢が削られてる」


エルドは、

黙ったまま立っていた。


だが――

人の流れが、

彼の周囲を避けている。


基点が、

ずれ始めている。


「……俺たちは、

間違ってない」


レインが、

自分に言い聞かせるように言う。


「裁かなかった」

「だから、

裁定にはならなかった」


ミリアが、

少しだけ声を荒げる。


「でもさ」


「このまま行ったら、

“裁定される側”が

増えるだけじゃない?」


言い返せなかった。


それが、

一番きつい。


その頃――

別の通路。


《勇者》を名乗る剣士は、

軽く肩を回していた。


「思ったより、

すんなり行ったな」


魔術師が、

疲れた顔で笑う。


「英雄たち、

何も言わなかった」


「言えないんだよ」


剣士は、

当然のように言う。


「民衆の支持がある」

「結果も出してる」


「それを否定したら、

“世界を混乱させる側”だ」


胸元の徽章が、

光る。


世界機関協力員。


もう、

彼らは外側ではない。


剣士は、

小さく呟いた。


「……これでいい」


だがその声は、

わずかに震えていた。


限界が、

近づいている。


それを誤魔化すために、

彼は前に出続ける。


止まれない。


止まった瞬間、

“役に立っていない”と

気づいてしまうから。


廊下の影で、

誰かが静かに笑った。


その笑いが、

誰のものかを

確かめる者はいなかった。


制度は、静かに始まった。


大々的な発表はない。

号外も、演説もない。


ただ――

書類が一つ、通っただけだ。


《宝珠使用者 登録開始》

《試験運用》


それだけで、

世界は少しだけ形を変えた。


最初の現場は、

小さな街だった。


宝珠使用者。

登録済み。


危険度評価――

《低》。


「問題ありません」


世界機関の担当官が、

淡々と告げる。


「暴走の兆候は見られません」

「経過観察で十分でしょう」


《勇者》を名乗る剣士も、

頷いた。


「問題ない」

「もし何かあれば、

すぐ対応できます」


その言葉で、

全員が安心した。


――その夜までは。


警報は、

突然鳴った。


魔物化。


街の中心。

登録済み使用者。


「……聞いてないぞ!」


現場は混乱する。


だが、

“手順”は決まっていた。


「登録番号を確認しろ!」

「危険度評価を――!」


その間にも、

被害は広がる。


駆けつけたのは、

英雄たちだった。


ヴァルハルトが、

魔物を押し止める。


ライザが、

住民を逃がす。


蒼衡そうこうの部隊が、

封鎖線を敷く。


非裁定ノーリトリート》は、

立つ場所を探しながら動いた。


エルドが、

崩れた街路に盾を突き立てる。


ミリアは、

前に出すぎない。


レインは、

状況を見渡す。


(……遅い)


対応は、

間違っていない。


だが――

間に合っていない。


魔物は倒された。

街は守られた。


だが、

犠牲は出た。


翌日。


報告書には、

こう記された。


《登録制度下での

初の暴走事案》


《対応は迅速》

《制度に致命的欠陥なし》


誰も、

嘘を書いていない。


原因は、

「想定外」。


責任の所在は、

「不明」。


世界機関では、

淡々と次の対策が話し合われる。


「評価基準を見直そう」

「登録を、

もう少し厳密に」


《勇者》たちは、

席に座ったまま頷く。


「次は、

もっと上手くやります」


誰も疑わない。


なぜなら――

彼らは、確かに現場にいたからだ。


その夜。


レインは、

街外れで立ち止まった。


瓦礫。

血の跡。

泣き声の残響。


「……裁定じゃない」


自分に言い聞かせる。


「でも」


ミリアが、

小さく呟く。


「安全な檻だね」


中にいる者は、

守られている“つもり”になる。


外に出る選択肢は、

いつの間にか消えている。


リュカが、

遠くを見つめる。


「未来が……

また細くなった」


エルドは、

何も言わず立っていた。


その背中が、

少しだけ重い。


遠くで、

また宝珠が光る。


登録済み。

安全評価済み。


安心、という名の灯り。


レインは、

その光から目を逸らさなかった。


「……まだ、立たない」


「でも」


非裁定ノーリトリート》は、

もう分かっていた。


このままでは、

立たされる。


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