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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第12章 願いは、小さくていい

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正しい人ほど、黙る

世界機関の会議室は、いつもより明るかった。


窓が多く、天井も高い。

民衆に開かれた組織であることを示すための造りだ。


だが今日は――

その“開放感”が、やけに息苦しい。


「では、次の議題に移ります」


議長が淡々と告げる。


「宝珠関連事案における、

現地対応方針の見直しについて」


その言葉を合図に、

視線が一斉に動いた。


会議卓の端。

世界機関の正式職員に混じって、

場違いなほど目立つ存在が座っている。


――《勇者》と呼ばれる者たち。


胸元には、

臨時協力員の徽章。


だがその扱いは、

“臨時”とは思えないほどだった。


「現場では、

宝珠使用者の暴走を想定した

迅速な鎮圧が最優先です」


剣士が、

自信満々に言い切る。


「我々は、

すでに複数件を解決しています」


資料が配られる。


討伐報告。

被害軽減率。

民衆の感謝の声。


数字は、整っていた。


「……迅速、ね」


低く呟いたのは、

ヴァルハルト=レオンだった。


腕を組み、

視線は資料に落としたまま。


「その“迅速さ”で、

何人救えなかった?」


空気が、一瞬だけ張る。


だが剣士は、

動じない。


「結果的に、

街は守られています」


「被害は最小限です」


「民衆も、

それを理解しています」


――民衆。


その言葉が出た瞬間、

何人かの職員が、

無意識に頷いた。


「確かに……」

「支持率は高い」

「今、

彼らを無視するのは危険だ」


ライザ=クロウデルは、

椅子に深く腰掛けたまま、

黙っていた。


拳を握りしめている。


言いたいことは、

山ほどある。


だが――

ここは戦場じゃない。


一言でも間違えれば、

“英雄が人気に嫉妬している”

そう受け取られる。


それが、

一番分かっているからこそ――

口を閉ざす。


イリス=アークライトが、

静かに口を開いた。


「宝珠そのものの危険性については、

まだ検証が不十分です」


「使用の拡大は、

慎重であるべきかと」


剣士は、

柔らかく笑った。


「ご安心ください」


「危険なのは、

使い方を誤った場合だけです」


「正しく管理すれば、

宝珠は――希望です」


その言葉に、

会議室の空気が緩む。


“安心できる答え”だった。


議長が、

まとめに入る。


「では当面、

《勇者》諸君の現地判断を

尊重する方向で――」


その瞬間。


ヴァルハルトの歯が、

ぎり、と鳴った。


(……くそ)


正しいことを言っても、

届かない。


正しくないことでも、

支持があれば通る。


ライザは、

視線を伏せたまま思う。


(殴れる敵の方が、

よほど楽だ)


会議は、

拍手もなく終わった。


だが決定事項だけは、

確かに残った。


《勇者》たちは、

世界機関の中で――

正式に、力を持ち始めた。


それを止められる者は、

まだいない。


会議室を出た廊下は、やけに長く感じた。


誰も、すぐには口を開かない。


足音だけが、

規則正しく響く。


「……クソが」


最初に声を漏らしたのは、

ヴァルハルト=レオンだった。


壁際で立ち止まり、

拳を柱に当てる。


叩きつけない。

壊さない。


ただ、押し付ける。


「何も間違ったことは、

言ってない」


「だが――

何も通らなかった」


ライザ=クロウデルは、

剣を外し、

椅子に深く腰を下ろす。


「民衆の支持」

「迅速な解決」

「現場判断の尊重」


一つ一つは、

正論に聞こえる。


「……だがな」


低く、吐き出す。


「“後から助けた”だけの連中が、

最初から救ってた顔をするな」


イリス=アークライトは、

静かに手袋を外す。


指先が、

わずかに震えている。


「彼らは、

宝珠の危険性を

分かっていません」


「分かろうとも、

していない」


「それでも――

“分かりやすい”」


その言葉が、

一番重かった。


分かりやすい英雄。

分かりやすい敵。

分かりやすい希望。


そして、

分かりにくい現実。


ヴァルハルトが、

苦々しく笑う。


「俺たちは、

分かりにくい」


「だから、

殴れない」


沈黙。


酒場の扉が、

軋む音を立てて閉まる。


外では、

《勇者》の名を讃える声が、

まだ聞こえていた。


「……手を出せば、

俺たちが悪者だ」


ライザが言う。


「黙れば、

世界が歪む」


「どっちを選んでも、

気分は最悪だな」


イリスが、

小さく息を吐く。


「“正しい人ほど、

黙る”」


その言葉に、

全員が黙った。


正しさが、

武器にならない場所。


英雄たちは、

その現実を

噛みしめるしかなかった。


その頃――


別室。


《勇者》の剣士は、

机に足を乗せて笑っていた。


「見ただろ?」


「世界は、

俺たちを必要としてる」


胸元の徽章が、

光を反射する。


世界機関臨時協力員。


それはもう、

“仮”の肩書きではなかった。


影の中で、

老人が静かに頷く。


「ほっほ……」


「よい顔じゃ」

「だんだん、

“中の人間”になってきとる」


剣士は、

疑いもなく言った。


「当然だろ」


「俺たちは、

役に立ってる」


その言葉を、

誰も否定しない。


否定できる者は、

今の世界には――

まだ、いなかった。


違和感は、音ではなかった。


噂でも、報告でもない。

もっと曖昧で、

もっと生活に近いものだった。


レインは、街の外れで立ち止まる。


人の流れ。

視線の向き。

言葉の選び方。


(……寄ってる)


誰か一人に、ではない。

一つの“物語”に、だ。


「勇者がいれば大丈夫」

「宝珠は危険じゃない」

「ちゃんと管理されてる」


その言葉たちは、

誰かが命令したわけでも、

強制したわけでもない。


自然に、

そう“なっている”。


ミリアが、隣で言った。


「前に出なくていい人が、

前に出てる感じがする」


「うん」


レインは頷く。


「前に出すぎない人が、

下がらされてる」


それは、

立ち位置の違和感だった。


リュカが、

通りの先を見ながら呟く。


「判断が、

一箇所に集まり始めてる」


「最適解っぽいものが、

共有されすぎてる」


エルドは、

いつも通り静かだ。


だが、

人の流れが彼を避ける。


――基点が、

ずれている。


「まだ、

“事件”じゃない」


レインは、

自分に言い聞かせるように言った。


「でも……」


言葉を探して、

少しだけ黙る。


「“選ばれてる”」


何が、ではない。

誰が、でもない。


“考え方”が。


ミリアが、

拳を軽く握る。


「じゃあ、

止める?」


「止めない」


即答だった。


「今止めたら、

俺たちが“正しさを押し付ける側”になる」


「それは、

裁定と同じだ」


沈黙。


それでも、

誰も異を唱えない。


非裁定は、

踏み込まない。


踏み込まない代わりに――

見失わない。


その夜。


宿の窓から、

遠くの灯りが見えた。


新しい露店。

淡く光る珠。


数は、

確実に増えている。


レインは、

小さく息を吐いた。


「……まだ、

結論は出ない」


「でも」


仲間を見る。


「このまま進んだら、

どこかで“戻れなくなる”」


それだけを、

胸に留める。


非裁定は、

まだ立たない。


だが――

立つ場所を、

探し始めていた。


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