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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第1章

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前提が通じない? ――なら終わらせる

依頼内容は、少しだけ妙だった。


――魔物の個体は単数。

――だが、討伐失敗報告が複数。

――攻撃が通らないとの証言あり。


「……通らない、ですか」


ミリアが、首を傾げる。


「硬い、とかじゃなくて……?」


「“当たらない”ですね」


レインは、依頼書を畳む。


「正確には、

 当たったという結果が残らない」


ミリアは、一瞬だけ考えてから――


「あ、面倒なやつですね」


即答だった。


レインは、少しだけ笑った。


「ええ。

 でも……」


歩き出しながら、続ける。


「今日は、確認作業です」


現地は、岩場だった。


空気が、張り付くように重い。

魔力が、滞留している。


「……います」


ミリアが、前に出る。


レインは、後ろで立ち止まった。


(……前提が、自己完結型)


魔物は、姿を現した。


人型に近いが、輪郭が曖昧。

攻撃を受けると、

“当たったはずの場所”が、ずれる。


「……やっぱり」


ミリアが、小さく息を吐く。


「前にいた場所に、もういない」


「ええ」


レインは、魔導書を開かない。


必要ない。


「この個体は、

 成立前提を内部で完結させている」


ミリアは、構えを解かない。


「……つまり?」


「外部の前提を、

 ほとんど借りていない」


ミリアは、すぐに理解した。


「……だから、

 ずらしても戻る」


「正解です」


魔物が、動く。


一瞬で距離を詰め、

腕を振り下ろす。


ミリアは、踏み込まない。


待つ。


(……今)


空気が、微かに歪む。


レインが、指を鳴らした。


「――前提遮断」


前提遮断プリミス・ブレイク》。


派手な光はない。

音もない。


ただ――

“成立しようとした動き”が、起こらない。


魔物の腕が、途中で止まる。


「……え?」


ミリアが、目を見開く。


「内部前提でも、

 “行動に移る瞬間”は外部を使う」


レインの声は、淡々としている。


「そこを、切りました」


魔物が、理解できないものを見るように、

自分の腕を見下ろす。


その瞬間。


「――行きます」


ミリアが、踏み込んだ。


《零距離踏み(ゼロ・ステップ)》。


間合いが、消える。


《直線穿ち(リネア・スラスト)》。


突きは、身体ではなく――

**“存在が成立している唯一の線”**を貫いた。


音もなく。


魔物の輪郭が、

すっと薄れる。


崩壊ですらない。

完了だった。


沈黙。


風が、岩肌を撫でる。


「……終わりましたね」


ミリアが、剣を下ろす。


「ええ」


レインは、魔力もほとんど使っていない。


「想定どおりです」


ミリアは、少しだけ肩を落とした。


「……あの、

 もっと苦戦すると思ってました」


レインは、正直に答えた。


「観客的には、

 ここは気持ちよく終わる場面です」


「……?」


「いえ、独り言です」


二人は顔を見合わせ――

小さく笑った。


(……強い)


ミリアは、改めて思う。


この人は、

世界のルールを

“説明できる強さ”を持っている。


(……でも)


前に立つのは、

自分だ。


その役割が、

自然になってきている。


「帰ったら、

 ご飯、どうします?」


ミリアが、少し照れながら言う。


「……近くに、

 美味しい店があるって聞きました」


レインは、少し考えてから頷いた。


「……行きましょう」


距離は、まだ少しある。


でも――

確実に、縮まっていた。


ギルドに戻ると、空気が一瞬で変わった。


受付の女性が、依頼報告書に目を通し――

そのまま、固まる。


「……え?」


視線を上げ、ミリアとレインを交互に見る。


「……確認、取りますね」


奥へ走る。

周囲の冒険者たちが、自然と耳を澄ませ始める。


「さっきの依頼って……」

「“攻撃が通らない”ってやつだろ?」

「また失敗したって聞いたけど……」


ざわめきの中、

ミリアは少し居心地悪そうに立っていた。


(……そんなに、すごいことだったのかな)


レインは、いつも通り落ち着いている。


数分後。


今度は、ギルド責任者が出てきた。


「……お二人が、討伐を?」


「はい」


ミリアが、前に一歩出て答える。


「前衛を、務めました」


その一言に、周囲が静まる。


責任者は、報告書を読み返し、深く息を吐いた。


「……この魔物は、

 成立前提を内部完結させる希少個体です」


「通常は、

 長期戦か、撤退判断になる案件でした」


視線が、ミリアに向く。


「それを……

 無傷で?」


ミリアは、少し照れながら頷いた。


「……はい」


責任者は、レインを見る。


「あなたは?」


「後衛です」


短い答え。


「……なるほど」


何かを察したように、頷く。


「本件は、

 特別成功案件として記録します」


その瞬間。


空気が、はっきりと変わった。


「特別成功……?」

「一気に処理したってことか……」

「また、あの二人か……」


視線が集まる。


ミリアは、思わず背筋を伸ばした。


(……私が、前衛)


そう名乗ったことを、

否定されなかった。


むしろ――

評価された。


ギルドを出た後。


街の通りは、夕方の色に染まっていた。


「……すごかったですね」


ミリアが、ぽつりと言う。


「評価も……

 ちょっと、実感なくて」


「慣れます」


レインは、淡々と答える。


「実力は、

 後からついてきます」


ミリアは、少し考えてから――

くすっと笑った。


「……前は、

 評価されるの、怖かったです」


「でも今は……」


言葉を切る。


「……悪くないな、って」


レインは、歩きながら言った。


「それは、

 正しい感覚です」


「前に立つ人は、

 評価されていい」


ミリアは、顔を赤くしながら頷いた。


しばらく歩いてから、

ふと、思い出したように言う。


「……さっきの、ご飯の話」


レインが、視線を向ける。


「……行きますか」


一瞬の沈黙。


「……はい」


返事は、少し早かった。


二人は並んで、店の灯りが見える通りへ向かう。


戦いは、もう終わった。

でも――


一緒に進む時間は、

これからが本番だった。


店は、落ち着いた雰囲気だった。


派手ではないが、清潔で、客層も穏やか。

冒険者向けというより、地元の人間が通う店だ。


「……ここ、いいですね」


ミリアが、席に着きながら言う。


「静かで」


「ええ」


レインも、同意する。


「話しやすい」


ミリアは、その言葉に少しだけ頬を赤くした。


料理が運ばれてくる。


湯気。

香り。

空腹を、ようやく実感する。


「……いただきます」


二人で、同時に手を合わせる。


しばらくは、無言。

だが、気まずさはない。


ミリアが、ふと顔を上げる。


「……あの」


「はい?」


「今日の戦い……

 すごく、落ち着いてましたよね」


レインは、少し考える。


「想定内でしたから」


「それも、すごいですけど……」


ミリアは、スプーンを持ったまま、少し視線を泳がせる。


「……私、前だったのに、

 怖くなりすぎなかったんです」


レインは、食事の手を止めた。


「それは……

 あなたが、前に立つ準備を

 ちゃんとしてきたからです」


ミリアは、小さく笑った。


「……前は、

 “怖い=向いてない”って思ってました」


「でも……

 今は、怖くても……

 立っていいんだって」


言葉を切る。


「……あなたが後ろにいると、

 そう思えるんです」


また、少し沈黙。


箸の音だけが、静かに響く。


レインは、視線を逸らしながら言った。


「……それは」


一拍置く。


「信頼です」


ミリアは、一瞬目を瞬かせて――

次の瞬間、顔が赤くなる。


「……っ」


「そ、そうですね……

 信頼、です」


言いながら、

自分でも納得していないのが分かる。


(……それだけ、かな)


料理を口に運ぶが、

味が少しだけ遠い。


食事が終わり、

店を出る。


夜風が、火照った頬に心地いい。


「……今日は、

 ありがとうございました」


ミリアが、立ち止まって言う。


「戦いも……

 その……

 ご飯も」


「こちらこそ」


レインは、少しだけ微笑んだ。


一瞬、沈黙。


近い。

でも、触れない。


「……また、

 一緒に行きませんか」


ミリアが、勇気を出して言う。


「依頼……でも」


言葉を選び、付け足す。


「……ご飯でも」


レインは、迷わなかった。


「はい」


短く、はっきりと。


その答えに、

ミリアの胸が、ふっと軽くなる。


「……じゃあ」


名残惜しそうに、一歩下がる。


「……また、明日」


「ええ。

 また、明日」


背を向けて、歩き出す。


数歩進んでから、

ミリアは小さく呟いた。


(……今日は、いい日だった)


前に立って、

評価されて、

一緒にご飯を食べて。


まだ、名前はついていない。

でも――


確かに、始まっているものがあった。


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