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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第10章 静けさは次への序章

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結論を壊す者たち(ノーリトリート

世界が、もう一段だけ静かになった。


音が消えたわけじゃない。

風は吹いている。

瓦礫も崩れ続けている。


だが――

「次が最後だ」と、誰もが理解できる静けさだった。


断絶裁定だんぜつさいていアポカリプス・ジャッジ》の輪郭が、わずかに変質する。


それは怒りでも、焦りでもない。

ましてや感情ではない。


《処理段階:最終》

《目的:結論確定》

《対象:非裁定・英雄・蒼衡》

《方式:全域同時》


「……来るぞ」


最初に気づいたのは、リュカだった。


戦域把握せんいきはあく》が、

“未来”を捉えなくなる。


「未来が……見えない」


それは遮断ではない。

未来そのものが、まとめて“確定されようとしている”。


イリスが、静かに息を呑む。


「世界が……選択をやめようとしてる」


選択肢を削るのではない。

分岐を消すのでもない。


――分岐そのものを、無かったことにする処理。


ヴァルハルトが大剣を地面に突き立てる。


「なるほど」


「強いな。だから厄介だ」


蒼衡のセイン=ヴァルクスが、即座に指示を飛ばす。


「全員、予定通りだ」


「思想は捨てろ。役割だけ残せ」


ガラン=ディオルが笑う。


「分かってる」


「今は切らねぇ。折れもしねぇ」


ミリアが一歩、前に出る。


だが――

前線を“取らない”。


前線確定ぜんせんかくてい》を、あえて最小で留める。


「前に立つんじゃない」


「“ここが戦場だ”って示すだけ」


エルドが、盾を地面に突き立てる。


存在係留そんざいけいりゅう》最大。


守らない。

受けない。


ただ、居る。


その中心で、レインは静かに息を整えていた。


戦場演算せんじょうえんざん》は回っている。

だが――

一切、答えを出さない。


(来る)


(でも、まだだ)


《断絶裁定》が、最後の処理を開始する。


《最終結論:必要》

《不要存在:選別》

《排除対象:未確定》


世界が、一斉に四人を拒絶し始めた。


拒絶は攻撃ではない。

存在の“前提”を外す処理。


その瞬間――


ジル爺が、岩に腰掛けたまま笑った。


「ほっほ……」


「ついに来おったか」


杖を軽く鳴らす。


「若いもん」


「ここからが――お主らの本番じゃ」


レインは、ゆっくりと頷いた。


「うん」


「ここからは――」


仲間を見る。


英雄を見る。

蒼衡を見る。


「誰も一人で勝たない」


無裁定連鎖むさいていれんさ》が、静かに脈動を始める。


世界が、最後の答えを出そうとする。


――それを、壊す準備は整っていた。


断絶裁定だんぜつさいていアポカリプス・ジャッジ》の“目”が、戦場全体を見下ろした。


英雄。

蒼衡そうこう

非裁定ノーリトリート》。


数の違いは意味を持たない。

技の派手さも無価値。

強さの誇示も不要。


この処理に必要なのは――


**「結論を先に確定すること」**だけ。


《最終処理:全域確定》

《方式:未確定の削除》

《結果:選択肢の蒸発》


瞬間。


空気が“軽く”なった。


重力が消えたわけじゃない。

風が止まったわけでもない。


ただ――

世界が「迷う余白」を捨てた。


誰もが理解する。


これは攻撃じゃない。

防御でもない。

魔法でも剣技でもない。


現実そのものの仕様変更だ。


「……っ」


最初に反応したのは、イリス=アークライトだった。


光が揺れる。

光域補正こういきほせい》が“維持できない”のではない。


維持する理由が削られていく。


「光を灯す理由が……薄れていく……!」


「違う!」


レインの声が即座に割り込む。


「理由は削られても、結果は残せる!」


「……ジル爺が言ってたやつだな!」


ミリアが歯を食いしばり、足を踏ん張る。


前線確定ぜんせんかくてい》――最小。


前に出ない。

押し返さない。


ただ、戦場の“基点”を一つだけ決める。


「ここだ」


「ここが、戦場だ」


その宣言が、世界の仕様変更をわずかに引っ掛けた。


だが《断絶裁定》は止まらない。


《処理:概念分解》

《対象:役割》

《対象:信条》

《対象:関係》


蒼衡そうこうのセインが、短く息を吐く。


「……やることが、露骨だな」


「俺たちの“言葉”から消す気だ」


ガラン=ディオルが、大剣を地面に突き立てる。


「言葉なんていらねぇ」


「立てりゃいいんだろ?」


だが――

その“立つ”という言葉すら、薄れていく。


立つ、守る、待つ。

前線、退路、判断。


世界が、それらの概念を“不要”として削除していく。


「……来るぞ」


リュカが呟いた。


戦域把握せんいきはあく》が、未来を見失う。


違う。

未来が見えないのではない。


未来が、一本に固定されようとしている。


「“配置”が……消される……!」


ノイン=フェルツが即座に召喚陣を展開する。


《召喚展開(しょうかんてんかい/サモン・セット)》

複数の召喚体が空間に重なり、戦場の“間”を埋める。


「距離を取らせるな!」


「距離が固定されたら、裁定が落ちる!」


ライザ=クロウデルが走る。


《生存最優先遊撃(せいぞんさいゆうせん/サバイブ・レイド)》

彼の動きは、戦いじゃない。


結論の落下地点をずらす走り。


「くそ……!」


「殴れねぇ相手ほど、ムカつくのはなんでだ!」


ヴァルハルト=レオンが、大剣を振り下ろす。


信奉撃しんぽうげき

地面が割れる。空気が震える。


だが斬撃は当たらない。

そもそも敵が“物体”としてそこにいない。


それでも、振り下ろす。


それは攻撃ではない。


世界に「重さ」を思い出させる行為。


《断絶裁定》の処理が、ほんの一瞬だけ遅れる。


――その“遅れ”の隙。


エルドが、盾を突き立てた。


存在係留そんざいけいりゅう》最大。


守るではない。

受けるでもない。


ただ、ここに居る。


盾の周囲に、見えない輪郭が生まれる。


「……効いてる」


リィネ=フォルテが、目を細めた。


「裁定が、“ここ”を避けてる」


「避けてるんじゃない」


レインが言った。


「避けられないんだ」


「“ここに居る結果”が、先に確定してるから」


ジル爺が岩に腰掛けたまま、満足げに頷く。


「ほっほ……」


「ようやく、形になっとる」


《断絶裁定》は、再計算を開始する。


《処理効率:低下》

《原因:未確定の維持》

《対処:未確定の核を排除》


そして。


《断絶裁定》の視線が、レインに向いた。


《対象:未裁定核》

《排除:最優先》

《結論:不要》


世界が、レインだけを“削り落とそう”とする。


ミリアが即座に動く。


《踏越位(ふみこしい/オーバー・ライン)》

剣を抜かないまま、立ち位置だけを奪い取る。


「レインは、渡さない」


ガランが吠える。


「前に出すぎだ!」


「前に出ねぇと守れねぇんだよ!」


英雄たちが、自然に壁になる。


蒼衡も、迷わず同じ動きを取る。


思想は違う。

だが今は関係ない。


“裁定に削られる側”が一致している。


それでも、《断絶裁定》の処理は落ちてくる。


概念が剥がれ、理由が薄れ、

“仲間”という関係がほどけそうになる。


その瞬間――


レインが、深く息を吸った。


《模写理解(もしゃりかい/アナライズ・コピー)》が、静かに回る。


(……分かった)


(こいつの正体は)


(結論を出す存在じゃない)


(結論だけを“残す”存在だ)


レインは、仲間を見る。


英雄を見る。

蒼衡を見る。


「次で終わる」


「でも――一人じゃ無理だ」


リュカが頷く。


「分かってる」


「“連鎖”を完成させる」


エルドが盾を握り直す。


「俺が、核を支える」


ミリアが笑う。


「じゃあ私は、前線を“決めない”」


ノインが静かに指を鳴らす。


「間を落とさない」


イリスが、光を灯し直す。


「理由は――私が残す」


ヴァルハルトが、大剣を構える。


「重さは任せろ」


ライザが口角を上げる。


「結論の落下地点は、俺がずらす」


セインが短く言う。


「秩序は最後に回す」


戦場が、一つに揃う。


その中心で、レインが告げた。


「――《非裁定ノーリトリート》」


「新技を使う」


空気が、張り詰める。


《断絶裁定》が、最後の圧を落とす。


世界が、答えを出そうとする。


――その瞬間に。


レインの瞳が、静かに光った。


世界が、答えを出そうとしていた。


断絶裁定だんぜつさいていアポカリプス・ジャッジ》の演算は、すでに最終段階に入っている。

未確定。

揺らぎ。

余白。


それらをすべて削り切れば、残るのは――一つの結論だけ。


《最終処理開始》

《対象:戦域全体》

《結果:排除》


音が消えた。


いや、正確には違う。

音に意味がなくなった。


叫びも、命令も、誓いも、

すべてが「処理に不要な振動」として均一化されていく。


英雄たちの足が、止まりかける。


蒼衡そうこうの動きが、わずかに鈍る。


世界が、“戦う理由”を剥がしに来ていた。


その中心で――

レインだけが、動かなかった。


止まらなかったのではない。

判断を、最後まで保留したまま立っていた。


(……来る)


(これが、最後)


《模写理解(もしゃりかい/アナライズ・コピー)》が、初めて一つの形を結ぶ。


断絶裁定の力は、強大だ。

だが、その本質は単純だった。


「結論を先に固定し、世界をそこへ押し込む」


ならば――

固定できなければ、どうなる?


レインは、静かに息を吸う。


「――エルド」


「立て」


エルドは前に出ない。

盾を構えもしない。


ただ、そこに居る。


存在係留そんざいけいりゅう》が、静かに最大化される。


“ここに居る結果”だけが、世界に刻まれる。


「ミリア」


「道を、開ける」


ミリアは剣を振らない。

踏み込むだけ。


踏越位ふみこしい

斬撃ではない。

進行方向という概念だけを、選ばせない一歩。


「リュカ」


「判断を、捨てろ」


「了解」


戦域把握せんいきはあく》は最適解を出さない。

配置しない。

決めない。


ただ、“余白”だけを残す。


「英雄のみんな」


レインは、振り返らない。


「力を貸してほしい」


「勝つためじゃない」


「――結論を、閉じるために」


答えは、言葉では返らなかった。


ライザ=クロウデルが走る。

イリス=アークライトが光を灯す。

ヴァルハルト=レオンが大剣を叩きつける。

ノイン=フェルツの召喚が、空間を繋ぐ。

蒼衡の剣が、戦場の輪郭を支える。


全員が、前に出ないまま、世界を支えた。


その瞬間。


《断絶裁定》の演算が、完全に停止した。


《未確定要素:過多》

《結論固定:不能》

《処理失敗》


初めて、

“答えが出ない”という結果が生まれる。


「――今だ」


レインが、静かに告げた。


非裁定ノーリトリート

四人の立ち位置が、完全に噛み合う。


裁かない。

退かない。

選ばせない。


それは否定でも、破壊でもない。


結論そのものを、閉じる行為。


「いくよ」


レインが、最後の技名を口にする。


非裁定終閉ひさいてい・しゅうへい


(ノーリトリート・エンドレス・ホールド)


因果を切らない。

未来を否定しない。

結果を消さない。


ただ――

結論だけを、確定できない状態に留める。


世界が、静かに“止まった”。


《断絶裁定アポカリプス・ジャッジ》の輪郭が、揺らぐ。


排除できない。

確定できない。

次の処理へ進めない。


それは敗北ではない。


存在理由の消失。


《断絶裁定》は、音もなく崩れ始めた。


砕けない。

爆発もしない。


ただ、

「そこに在った理由」だけが、消えていく。


最後に、かすかな演算音が鳴った。


《結論》

《――未定》


そして、完全に消滅した。


静寂。


風が戻る。

瓦礫が、意味を取り戻す。

誰かの呼吸が、はっきりと聞こえる。


「……終わった、のか?」


誰かが呟く。


レインは、深く息を吐いた。


「うん」


「終わった」


ジル爺が、岩に腰掛けたまま笑う。


「ほっほ……」


「上出来じゃ」


「若いもんに任せて、正解じゃったわい」


ミリアが、その場に座り込む。


「……疲れた」


エルドも、盾に寄りかかる。


「でも……立ててたな」


リュカが、静かに頷いた。


「誰も、前に出すぎなかった」


英雄たちも、蒼衡も、言葉を発さない。


ただ、そこに“生きて立っている”。


それが、答えだった。


レインは、仲間を見渡す。


「……帰ろう」


「この戦いは、ここで終わりだ」


世界は、まだ不安定だ。

だが――


裁定されることは、もうない。


非裁定ノーリトリート》は、

静かに戦場を後にした。


勝利は、確かにそこにあった。

※ここまで読んで面白いと感じた方は、

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