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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第1章

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失われた前提

依頼は、決して難しくなかった。


数も少ない。

地形も単純。

事前情報も揃っている。


――はずだった。


「……チッ」


ガルドは、舌打ちをしながら剣を構える。


目の前の魔物は、一体。

だが、動きが読めない。


「おい、どうなってる!」


ルークが叫ぶ。


「情報だと、突進主体だろ!

 なんで、途中で止まるんだよ!」


魔物は、確かに突進した。

だが、途中で“迷った”。


それだけで、

連携が崩れる。


「……下がれ!」


ガルドが叫ぶが、遅い。


リディアの魔法が、

本来当たるはずの位置をすり抜けた。


「なっ……!?」


魔物が、反転する。


「くっ――!」


セシリアが庇いに入るが、

体勢が崩れる。


小さな失敗。

だが、それが連鎖する。


「……くそっ」


ガルドは、歯を食いしばる。


(おかしい……)


以前なら、こんなミスはしなかった。

少なくとも、

“理由が分からない”ことはなかった。


「ガルド! 指示が遅い!」


「分かってる!」


だが、

分かっていない。


何がズレているのか。

どこが間違っているのか。


誰も説明できない。


なんとか魔物を倒した後、

一同は荒い息を吐いていた。


「……被害、増えてるわね」


リディアが、腕を押さえながら言う。


「最近……

 こんなのばっかじゃない?」


ルークは、答えない。


視線は、地面に落ちている。


セシリアが、小さく口を開いた。


「……前は」


言葉を選ぶように、続ける。


「前は、

 もう少し……

 “分かって”戦えてた気がする」


その一言が、

ガルドの胸を刺した。


「……余計なことを言うな」


低く言い放つ。


だが、

誰も反論しなかった。


野営地。


焚き火の前で、

ガルドは一人、剣を磨いていた。


火の揺らぎが、刃に映る。


(……あいつがいた頃は)


思考が、勝手に戻る。


解析。

前提。

行動の理由。


考えなくていい、と切り捨てたもの。


「……馬鹿らしい」


そう呟いても、

違和感は消えない。


力はある。

経験もある。


なのに――

戦いが、噛み合わない。


ガルドは、焚き火を睨みつけた。


知らず、拳が震えていた。


ギルドの空気が、変わっていた。


掲示板の前で立ち止まる冒険者は多いが、

紅鷹クリムゾン・ホーク》の名が書かれた依頼書に、

手を伸ばす者はいない。


「……おかしいわね」


リディアが、低く呟いた。


「私たち、Bランクよ?」


ルークが肩をすくめる。


「依頼は来てるだろ。

 ただ……」


言葉を濁す。


ガルドは、受付の前に立っていた。


「この依頼、条件が違う」


指で示した依頼書には、赤字が入っている。


――“慎重対応推奨”

――“追加被害の可能性あり”


「以前は、こんな注釈はなかったはずだ」


受付の女性は、困ったように視線を逸らした。


「……最近、

 報告書の内容がですね」


「何だ」


「“想定外の動きが多い”

 “連携が噛み合っていない”

 そういう記述が、増えていて……」


その言葉が、

ガルドの喉に引っかかる。


「……それは」


言いかけて、止まる。


否定できない。


次の依頼も、芳しくなかった。


魔物は、弱い。

だが、動きが“揺れる”。


突進すると思えば、途中で止まる。

逃げると思えば、反転する。


そのたびに、判断が遅れる。


「……チクショウ!」


ルークの一撃が、空を切る。


「リディア、今だ!」


「分かってる!」


だが、魔法が遅れる。


セシリアが庇いに入るが、

小さな傷が増える。


勝てる。

だが、余計な消耗をする。


それが続く。


依頼後。


ギルドの片隅で、

紅鷹は重い空気をまとっていた。


「……最近、怪我が多い」


セシリアが、包帯を巻きながら言う。


「前は、

 もっと……

 楽に終わってた」


「……偶然だ」


ガルドが、強く言い切る。


「運が悪いだけだ」


だが、その声に力はない。


「……本当に?」


リディアが、静かに問う。


「私たち、

 考えなくなってない?」


その一言で、

空気が凍る。


「戦いが始まったら、

 前に出て、

 殴って、

 終わらせる」


「でも……

 相手の“癖”とか、

 “前兆”とか……」


言葉を探す。


「……前は、

 誰かが言ってた気がする」


沈黙。


全員が、

同じ名前を思い浮かべていた。


ガルドが、強く拳を握る。


「……もう終わった話だ」


吐き捨てるように言う。


「今さら、

 あいつの話をするな」


だが。


誰も、反論しなかった。


その夜。


ガルドは、一人で酒を飲んでいた。


杯を煽っても、

胸の重さは消えない。


(……違う)


自分が、間違っているはずがない。


間違っているのは――

世界の方だ。


そう思おうとすればするほど、

あの言葉が蘇る。


――理解しようとしなかった


ガルドは、杯を叩きつけた。


「……くそ……」


その背中を、

誰も支えなかった。


その依頼は、最初から嫌な予感がしていた。


――森奥での魔物討伐。

――数は三。

――危険度は中。


「……問題ない」


ガルドは、そう言い切った。


経験もある。

人数も揃っている。

今までなら、確実にこなせる仕事だ。


だが――

森に入った瞬間、空気が違った。


「……静かすぎる」


セシリアが、警戒する。


「気配が……散ってる」


リディアが、眉をひそめた。


「構えるな。

 出てきたら、一気に押す」


ガルドの声は、強気だ。

だが、それは根拠ではなく、意地だった。


魔物は、予想より遅れて現れた。


一体。

二体。

――三体目が、いない。


「……まだか?」


その瞬間だった。


背後の茂みが、弾ける。


「――後ろ!?」


ルークが振り向いた時には、遅い。


魔物の突進が、

セシリアを吹き飛ばした。


「――っ!」


地面に叩きつけられる音。


「セシリア!」


リディアが叫ぶ。


ガルドは、歯を食いしばる。


(……違う)


想定が、

完全に外れている。


「下がれ! 立て直す!」


叫ぶが、

誰も即座に動けない。


判断が、遅れている。


魔物の動きが、

“前提通りじゃない”。


それだけで、

全てが狂う。


なんとか魔物は倒した。


だが――

勝利とは言えなかった。


セシリアは、担架で運ばれる。

骨折。

戦線離脱。


ルークも、肩を押さえて呻いている。


「……失敗、ですね」


リディアの声は、疲れ切っていた。


ガルドは、何も言えない。


ギルドでの報告は、重かった。


「……今回の件ですが」


受付ではなく、

監査担当が出てきた。


それだけで、空気が変わる。


「パーティ《紅鷹》は、

 本依頼において

 重大な判断遅延を確認しました」


「結果、

 負傷者多数。

 任務達成は“条件付き成功”」


条件付き成功。

それは、ほぼ失敗だ。


「よって――」


監査担当は、淡々と告げる。


「当面、

 あなた方のランクを

 一段階引き下げます」


言葉が、耳に入らない。


「また、

 今後の依頼は

 制限付きとなります」


書類に、判が押される音。


それが、

決定音だった。


ギルドを出た後、

誰も口を開かなかった。


夜。


野営地で、

ガルドは一人、剣を握っていた。


刃が、月光を反射する。


(……違う)


何度も、そう思う。


自分は、間違っていない。

間違っていたのは――


「……あいつか」


ぽつりと、漏れる。


レイン。

ミリア。


理解を切り捨てた代償。


それを、

ようやく理解した時には、

もう遅かった。


ガルドは、剣を地面に突き立てた。


金属音が、虚しく響く。


その音は、

彼のプライドが折れた音だった。


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