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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第10章 静けさは次への序章

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女王は人口を読む

女王は、同じ場所に戻ってきていた。


巣の最奥。

静かで、揺れのない空間。


だが、

前に読んでいた戦記や英雄譚は、

すでに脇へ退けられている。


今、女王の前にあるのは――

統治記録だった。


国家の人口推移。

税収と出生率。

戦後の復興計画。


「……興味深い」


ページをめくる。


そこに並ぶのは、

剣でも魔法でもない。


数字。

表。

割合。


「人口増加期に、

 争いは集中する」


「減少期には、

 管理が強化される」


「……つまり」


女王の指先が、

一行をなぞる。


「人間は、

 数が多いほど判断を誤る」


別の本。


粛清の正当化。

民族浄化の理由。

“間引き”という言葉。


「争いを止めるために、

 人を減らす」


「だが――」


女王は、静かに首を振る。


「それでも、

 争いは止まらない」


なぜか。


答えは、

次のページにあった。


判断は、

常に人に委ねられる


人が迷う限り、

争いは終わらない


女王は、書を閉じた。


「……理解した」


これまでの結論は、

甘かった。


判断を奪うだけでは、

不十分。


判断する主体――

人間が多すぎる。


「英雄も不要」


「裁定も不要」


「管理も、

 最小でいい」


女王の意識が、

巣全体に広がる。


《静滅群》が、

静かに応答する。


「人気を、

 減らしなさい」


「人を殺すのではない」


「人が存在しない状況を作る」


都市。

街道。

集落。


人が集まり、

迷いが生まれる場所。


そこから、

“人そのもの”を減らす。


「これは、

 虐殺ではない」


女王は、淡々と告げる。


「最適化だ」


巣の奥で、

新たな個体が脈動を始める。


それは、

戦争のためではない。


英雄と戦うためでもない。


――人間が、

判断しなくて済む世界を

作るための存在。


女王は、最後に一言だけ、

自身に言い聞かせる。


「感情は、

 まだ計算に含めていない」


その“誤差”が、

後に致命傷になることを、

この時の女王は

まだ知らなかった。


最初に消えたのは、

村ではなかった。


街道だった。


交易路の途中。

宿場と宿場の間にある、

小さな休憩地。


井戸があり、

簡易な柵があり、

夜になると自然と人が集まる場所。


――だから、適していた。


変異群・女王直属

《静滅群》の一体、

**《空白ブランク》**は、

そこに“存在した”。


攻撃は、ない。

威嚇も、ない。


ただ、

そこにいるだけ。


最初に起きた異変は、

誰も気づかなかった。


「……あれ?」


旅人が、首を傾げる。


「井戸、

 ここだったよな……?」


あるはずの場所に、

視線が合わない。


目は、見ている。

だが、

認識が滑る。


存在希薄イグジスタンス・フェード》。


《空白》は、

物理的に消えていない。


“認識されない存在”として、

そこに在る。


夜。


焚き火が灯り、

人が集まる。


だが、

人数が噛み合わない。


「一人、足りなくないか?」


「いや……」


「さっき、

 ここに誰か――」


言葉が、続かない。


思い出そうとすると、

頭の中に

“空白”が生まれる。


痕跡抹消ノーヒストリー》。


足跡。

荷物。

会話。


“いたはず”の人間が、

最初から存在しなかったことになる。


翌朝。


休憩地には、

人がいなかった。


血もない。

争いもない。


ただ、

使われなくなった井戸と、

冷えた焚き火跡。


通りがかった行商人が、

ぼんやりと呟く。


「……ここ、

 休む場所だったっけ?」


街道は、

少しだけ使われなくなる。


だが、

不便ではない。


遠回りすればいい。

判断を先送りにすればいい。


だから――

報告は、上がらない。


群圧クラウド》は、

その様子を“観測”していた。


次の配置候補が、

いくつも浮かび上がる。


分岐点。

広場。

市場。


人が集まり、

判断が分散する場所。


「……効率、良好」


《群圧》は、

一切動かない。


動かなくても、

人は勝手に滞留し、

勝手に動かなくなる。


選択肢が増えるほど、

誰も決めなくなる。


選択過多オーバー・チョイス》は、

“場そのもの”に染み込んでいく。


そして。


代行サロゲート》が、

その空白を埋め始めた。


誰かがやるはずだった作業。

誰かが決めるはずだった判断。


それらを、

“人間以外”が代行する。


「今日は、

 ここは閉めた方がいい」


「危険だから、

 向こうに行こう」


誰が言ったのか、

誰も覚えていない。


だが、

流れは生まれる。


人は、

それに従う。


判断しなくて済むから。


女王の意識が、

遠くからそれを確認する。


「……良好」


「人は、

 消えなくてもいい」


「減ればいい」


英雄は、現れない。

蒼衡も、切れない。


戦場が、存在しないから。


そして――

ノーリトリートも、

まだこの段階では

“敵”を認識できていなかった。


ただ、

世界の一部が、

少しずつ

“使われなくなっていく”。


それだけの現象。


だがそれは、

確実に、

人類の居場所を削っていた


異変は、

「事件」としては成立していなかった。


死者数は、少ない。

被害報告も、断片的。

魔物討伐の依頼としては、条件を満たさない。


だから――

世界は、気づくのが遅れた。


非裁定ノーリトリート》が違和感を掴んだのは、

“地図”だった。


「……消えてる」


リュカが、指先で地図をなぞる。


「街道が、一本」


「正確には、

 “使われなくなってる”」


宿場。

休憩地。

小さな集落。


どれも壊れてはいない。

燃やされてもいない。


ただ、

人が行かなくなった。


「理由が、ないな」


エルドが低く言う。


「危険指定も、

 封鎖命令もない」


「なのに、

 誰も選ばない」


ミリアは、黙ったまま窓の外を見ていた。


人通りはある。

市場も動いている。


だが――

“流れ”が変だ。


「あそこ」


指差す。


「人が、

 固まりすぎ」


交差点の中央。

進むべき道が三つある場所。


誰も通行止めを出していない。

案内板も、正常。


それでも人々は、

足を止め、

立ち話をし、

結局、引き返す。


「……嫌だ」


ミリアが、はっきりと言った。


「また?」


レインが尋ねる。


「うん」


ミリアは、視線を逸らさない。


「前と同じ」


「でも、

 今回は――」


一歩、前に出る。


「誰も悪くない」


レインの《模写理解アナライズ・コピー》が、

強く反応した。


(……点じゃない)


(……線だ)


(……配置)


(……減少)


頭の中で、

これまでの情報が繋がる。


村。

街道。

分岐点。


戦場ではない。

英雄の出番もない。


だが――

人の居場所が、

静かに削られている。


「……分かった」


レインは、息を吐いた。


「これは、

 戦いじゃない」


「環境改変だ」


リュカが、目を見開く。


「敵が、

 世界を作り替えてる?」


「うん」


「人間が、

 判断しなくて済む世界に」


エルドが、盾を強く握る。


「それは……」


「人が、

 立たなくなる世界だ」


ミリアは、即座に言った。


「無理」


「それ、

 生きてるって言わない」


その言葉に、

レインは静かに頷く。


「裁けない」


「でも」


「放置したら、

 全部“空白”になる」


非裁定ノーリトリート》は、

ここで初めて理解した。


敵は、

前に立たない。


刃も向けない。


ただ――

選ばれなくなる状況を、先に作る。


遠く。


変異群の巣。


女王は、

新たな報告を受け取っていた。


――拒絶反応、発生。


――感情的判断、介入。


「……やはり」


女王は、淡々と結論づける。


「感情は、

 最後まで排除できない」


「ならば」


「次は――

 感情ごと消す」


沈黙ミュート》が、

静かに起動準備に入る。


同時に、

《空白》と《群圧》が

新たな地点へ向かう。


世界は、

もう一段階、静かになる。


その気配を、

ミリアは確かに感じ取っていた。


「……次は」


剣の柄に、手をかける。


「ちゃんと、

 止めに行くよ」


レインは、短く答える。


「うん」


「今度は――

 相手が見える」


裁かず。

退かず。


だが、

人が“立つ場所”だけは、

消させない。


非裁定ノーリトリート》は、

初めて

姿を持たない敵と

正面から向き合うことになる。


――静滅は、

すでに始まっていた。


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