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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第58章

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裁定の崩壊点

 重力が、揺れている。


 上でも下でもない。


 中央も、外周もない。


 六角構造は崩れ、

 石柱は逆さに浮き、

 黒曜石の床は砕けた鏡のように

 空間へ散らばっている。


 裁定場は、壊れた。


 だが消えてはいない。


 ***


 粉々になった光輪の欠片が、

 ゆっくりと回転している。


 白い光が、安定しない。


 明滅する。


 脈打つ。


 怒りのように。


 ***


 堕天使《断罪失墜者グラヴィエル》は、

 空中で静止していた。


 翼を広げたまま。


 片翼は崩れ、

 片翼は完全。


 その不均衡が、

 空間の歪みを支えている。


「……秩序が、崩れた」


 呟きは、低い。


 責める声ではない。


 理解の声だ。


 ***


 ミリアは逆転した重力の中で、

 剣を構え直す。


 補正はない。


 承認線もない。


 踏み込みは、自分で決める。


「やっと、自分の足だ」


 短く笑う。


 重さも軽さも、

 選択できる。


 それだけで十分だ。


 ***


 エルドは盾を持ち替える。


 守る方向は、定まらない。


 ならば。


「全部だ」


 全方向を守る。


 補正なし。


 それが本来。


 ***


 エルフィナは、

 距離感を失った空間で

 全員と繋ぎ直す。


 浅くもなく、

 深くもなく。


 今の状態で。


「……繋がってます」


 裁定基準がない。


 だから、

 罪状もない。


 ***


 リュカは、

 数値を出すのをやめる。


 観測不能。


 確率不能。


 それでも。


「……面白いな」


 構造がない戦場。


 それは、

 純粋な事象。


 ***


 カイラは、

 ゆっくりと目を閉じる。


戦況最適化オーバードライブ》を

 起動しない。


 起動できないのではない。


 選ばない。


「最適じゃなくていい」


 重力が揺れる。


 視界が歪む。


 だがそれを、

 受け入れる。


 ***


 ノウンは中央を見る。


 裁定式が、

 崩壊しかけている。


「裁定は、全定義を前提とする」


 一拍。


「未定義が増えすぎました」


 空間が軋む。


 光輪の残骸が、

 粉のように崩れる。


 ***


 ピコが、ぽよ、と浮く。


 上でも下でもない場所で。


「……いま、だれも、きめてない」


 嬉しそうでも、

 怖そうでもない。


 ただ事実。


 ***


 グラヴィエルの目が、

 ゆっくりと全員を見渡す。


 怒りではない。


 焦燥でもない。


 “理解”だ。


「秩序は、必要だ」


 翼の光が濃くなる。


「未確定は、堕落を招く」


 一拍。


「私は、堕ちた」


 空間が、わずかに止まる。


 その言葉。


 初めて、

 “裁定官”ではなくなった。


 ***


「私は、裁定を拒んだ者だ」


 低く。


「それでも秩序を選んだ」


 その瞬間。


 翼の光が剣状へと収束する。


 法廷ではない。


 構造でもない。


 純粋な力。


 ***


 レインは静かに言う。


「裁定を壊して、断罪に戻るか」


 グラヴィエルの目が細まる。


「裁定なき秩序は、暴力だ」


 一拍。


「ならば暴力で証明する」


 光の剣が完全に形成される。


 重力が再び揺れる。


 今度は補正ではない。


 衝突の予兆。


 ***


 レインが一歩踏み出す。


 《完全模写理解》を深める。


 裁定は壊れた。


 だが。


 “堕天”の論理は残っている。


 グラヴィエルは、

 ただの敵ではない。


 裁定を拒み、

 なお秩序に執着した存在。


 その矛盾が、

 この空間を歪ませている。


 ***


 ミリアが剣を振るう準備をする。


 エルドが盾を構える。


 エルフィナが呼吸を整える。


 リュカが観測角を定める。


 カイラが自分の演算を走らせる。


 ノウンが構造崩壊点を見極める。


 ピコが、中央を見上げる。


 ***


 グラヴィエルが告げる。


「断罪を、開始する」


 翼の光が、爆ぜる。


 第三フェーズ。


 純粋戦闘。


 裁定なき暴力。


 ***


 静止は終わる。


 次は、衝突だ。


 光が、爆ぜる。


 重力が乱れる。


 上下の概念が、再び揺らぐ。


 だが今度は裁定ではない。


 力。


 純粋な、暴力。


 ***


 堕天使《断罪失墜者グラヴィエル》が

 消える。


 瞬間移動ではない。


 重力の“斜面”を滑った。


 空間の歪みを利用して、

 視界の外へ。


 光の剣が、横薙ぎに走る。


 ***


 ミリアが反応する。


 補正はない。


 承認線もない。


 だが今は、

 自分の速度。


「――はっ!」


 踏み込み。


 重力が一瞬軽くなる瞬間を

 読み切る。


 刃と光がぶつかる。


 火花ではない。


 白い裂光。


 衝撃が波となって広がる。


 ***


 エルドが盾を差し込む。


 光の剣が盾に食い込む。


 衝撃が腕を震わせる。


 だが押し返す。


「こっちは自由だ」


 役割ではない。


 選択だ。


 ***


 グラヴィエルの翼が

 六方向へ裂ける。


 光の羽片が、

 弾丸のように放たれる。


 軌道は読めない。


 裁定補正がないからだ。


 ***


 リュカが叫ぶ。


「軌道不規則!」


 観測不能。


 だが視る。


 全方向。


 確率を捨てる。


「右、上、斜め下!」


 声が遅れない。


 今は空間が補正しない。


 自由だ。


 ***


 エルフィナが即座に繋ぐ。


生命線維持ライフ・ラインキープ》を

 最大域展開。


 距離概念が曖昧な空間で、

 全員に同時接続。


 衝撃を分散。


 負荷を均等化。


「……持ちます!」


 罪状は出ない。


 裁定はもうない。


 ただ負荷だけがある。


 ***


 カイラが目を見開く。


戦況最適化オーバードライブ》を起動。


 今度は止まらない。


 提示されない。


 自分で組み上げる。


 重力変動。

 翼展開角度。

 光剣の収束時間。


「三秒後、上方反転!」


 即座に告げる。


 全員が動く。


 ***


 ノウンが、

 崩れかけた光輪の破片を見る。


「構造支点、あそこ」


 中央上空。


 不安定な光の核。


 グラヴィエルの力は、

 そこを軸に展開されている。


 ***


 ピコが、ぽよ、と跳ねる。


 光の羽片を、

 弾く。


 弾けないはずの光が、

 わずかに歪む。


「……ここ、やわい」


 未定義の接触。


 裁定がない今でも、

 完全な秩序には戻れていない。


 歪みは残っている。


 ***


 レインが《完全模写理解》を深める。


 グラヴィエルは、

 裁定官ではない。


 堕天。


 秩序に固執する理由。


 裁定を拒みながら、

 秩序を欲した。


 その矛盾が、

 力の歪みを生む。


 光剣が再び振り下ろされる。


 今度は直撃軌道。


 ***


 ミリアが迎え撃つ。


 今度は逸脱でも承認でもない。


 真正面。


 全力。


 剣と光が衝突。


 衝撃が空間を裂く。


 逆転重力が揺らぐ。


 ***


 エルドが盾で光を押し上げる。


 カイラが軌道をずらす。


 リュカが支点を叫ぶ。


 エルフィナが負荷を均等化する。


 ノウンが崩壊点を示す。


 ピコが未定義の衝突を起こす。


 レインが構造を読む。


 ***


 グラヴィエルの翼が

 初めて、大きく軋む。


 光剣に、亀裂。


 片翼の崩壊部分が、

 さらに広がる。


「……秩序は、必要だ」


 声に怒りが混ざる。


「未確定は、滅びを招く!」


 光が爆発する。


 第三フェーズ本格開始。


 裁定ではない。


 思想ではない。


 神話級の、

 正面衝突。


 光が、裂ける。


 グラヴィエルの翼が、

 完全に開いた。


 崩れた片翼の内側から、

 黒い光が滲む。


 純白ではない。


 漆黒でもない。


 “焼け落ちた光”。


 ***


「秩序は、必要だ」


 声が震える。


 怒りではない。


 焦燥だ。


「私は、見た」


 一拍。


「裁定なき世界を」


 光剣が、縦に振り下ろされる。


 空間が裂ける。


 重力が暴走する。


 ***


 衝撃。


 ミリアの剣が弾かれる。


 腕が痺れる。


 踏み込みが崩れる。


 空中で体勢が崩壊する。


 ***


 エルドの盾が

 真正面から受け止める。


 だが。


 今度は押し返せない。


 衝撃が全身を貫く。


 盾が軋む。


 膝が折れる。


 ***


 エルフィナの接続が、

 一瞬、途切れる。


 負荷が過大。


 分散しきれない。


「……っ!」


 息が詰まる。


 魔力が焼ける。


 ***


 リュカの視界が白く飛ぶ。


 観測不能。


 予測不能。


 確率ゼロ。


 “想定外”。


 ***


 カイラの演算が崩れる。


 《戦況最適化オーバードライブ》が

 強制停止。


 脳が熱を持つ。


「……違う」


 これは単なる暴力ではない。


 “秩序の暴走”。


 ***


 ノウンが中央を見る。


 光輪の破片が、

 再び集合し始めている。


「支点、再形成」


 崩壊したはずの構造が、

 強引に組み直される。


 ***


 ピコが、

 吹き飛ばされる。


 ぽよ、と転がる。


 だが消えない。


 未定義は、

 壊れない。


 ***


 レインが、

 重力に押し潰される。


 《完全模写理解》が

 強制的に深まる。


 理解が流れ込む。


 ――天界裁定崩壊事件

 ――過剰確定

 ――全域浄化


 映像ではない。


 概念。


 グラヴィエルはかつて、

 “全てを確定させる裁定”に

 立ち会った。


 未確定を、

 根絶した。


 結果。


 可能性が死んだ。


 世界が、止まった。


 ***


「……それで、堕ちたか」


 レインが呟く。


 グラヴィエルの目が、

 揺れる。


「未確定は、恐怖だ」


 声が荒れる。


「だが確定は、死だ!」


 翼が大きく裂ける。


 黒い光が広がる。


 秩序に固執しながら、

 裁定を憎む矛盾。


 それが力を歪ませる。


 ***


 衝撃が再び走る。


 全員が、

 一度、床――いや、

 空間へ叩きつけられる。


 呼吸が乱れる。


 繋ぎが途切れる。


 演算が止まる。


 観測が失われる。


 盾が軋む。


 剣が弾かれる。


 ***


 グラヴィエルが宣言する。


「私は、断罪者だ」


 一拍。


「裁定を超えた秩序を示す」


 光剣が巨大化する。


 空間そのものを断ち切るほどの、

 刃。


 第三フェーズ、

 本気解放。


 ***


 その中で。


 ピコが、

 ゆっくり起き上がる。


「……でも」


 一拍。


「きみ、こわかっただけだよね」


 空間が、

 止まる。


 ほんの一瞬。


 光剣の収束が、

 揺らぐ。


 グラヴィエルの瞳が、

 わずかに人間味を帯びる。


 ***


 レインが、

 息を整える。


 理解は進んだ。


 堕天の核心。


 恐怖。


 未確定への恐怖。


 だから確定に縋った。


 だが。


 恐怖は、

 罪ではない。


 ***


 ミリアが、

 剣を握り直す。


 エルドが盾を立てる。


 エルフィナが再接続する。


 リュカが再観測を始める。


 カイラが演算を立て直す。


 ノウンが支点を示す。


 ピコが中央に立つ。


 ***


 レインが言う。


「なら、証明してやる」


 一拍。


「未確定は、滅びじゃない」


 光剣が振り下ろされる。


 今度は。


 全員で迎え撃つ。


 真正面から。


 神話級衝突の、

 第二幕。



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