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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第1章

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雑魚コピーと呼ばれた理由

死ぬ瞬間の記憶は、やけに静かだった。

痛みも叫びもなく、ただ――息がすうっと薄くなり、世界が遠ざかっていく。


次に目を開けた時、天井が低かった。木目の梁、粗い布の天蓋、鼻を刺す薬草の匂い。体が重い。指が短い。声を出そうとして、喉が鳴っただけで言葉にならない。


「……あ、ああ?」


言えない。脳は言葉を知っているのに、舌と喉がついてこない。

理解だけが先に走る。体が追いつかない。


傍にいた男が泣いて笑って、女が震える手で額を撫でた。

知らない顔なのに、胸の奥に“ここが居場所だ”という熱が、勝手に灯った。


――レイン・アルヴェルト。

それが、この世界での自分の名前だった。


六歳。村の魔法教室で、子供たちが順番に火球を出していた。

教師の指先から飛ぶ火は丸く、明るく、綺麗だった。才能のある子の火は、風に揺れず、芯がある。


レインの番が来る。手のひらを前に、教えられた詠唱をなぞる。

周囲の視線が刺さる。息が浅くなる。


――焦るな。順番通りに。


詠唱は終わった。魔力を流す。

だが、熱が立ち上がらない。代わりに指先がじわりと痺れ、空気だけが震えて終わった。


「また失敗か」


教師がため息をつく。後ろで誰かが笑う。

レインは歯を食いしばった。悔しい。腹が立つ。言い返したい。だが、言い返しても火は出ない。


レインは地面を見た。

発動に失敗した瞬間、魔力がどこへ逃げたか――“残り方”が、なんとなく分かった気がした。流れが途中で細くなって、詠唱が終わった直後に、ぷつんと切れている。


(詠唱は合ってる。問題は……流し方だ)


教師は「次」と言った。

レインは動かなかった。


「何をしている。さっさと下がれ」


「……もう一回」


自分でも驚くくらい、声が強く出た。

教師の眉が吊り上がる。「身の程を知れ」と言いたげな目。


それでもレインは、もう一度だけ詠唱した。

今度は魔力を“押し込む”んじゃない。逃げた箇所を思い出して、そこだけ、ほんの少しだけ太くする。水路の穴を指で塞ぐみたいに。


熱が、わずかに立つ。

歪んだ小さな火が、ぷす、と生まれた。豆粒程度。揺れて、今にも消えそうで――それでも、確かに火だった。


教室が一瞬、静まった。


「……偶然だ」


教師が吐き捨てる。

「次からは余計なことをするな。基礎もできていないくせに」


レインの胸に、熱いものが溜まる。火球じゃない。怒りと悔しさだ。

でも同時に、別の確信も生まれていた。


(できないんじゃない。わかってないだけだ)


その後のレインは、派手に伸びなかった。

魔力量は増えない。詠唱も遅い。強い魔法も撃てない。


ただ、失敗の回数だけが増えた。

失敗するたび、レインは“何が違ったか”を覚えた。成功した子の魔力の癖を盗み見て、動きを真似して、頭の中で分解して、試す。何十回、何百回。


周囲は笑った。「変なやつ」「要領が悪い」「天才気取りの落ちこぼれ」。

レインは言い返した。感情的にもなった。殴り合い寸前になったこともある。だが、結局“結果”が弱い以上、誰も真面目に聞かない。


やがて村を出る年になり、レインは冒険者登録をした。

理由は単純だ。魔法を理解するには、現場が要る。魔物が要る。未知が要る。


最初は下っ端の雑用。荷運び。見張り。罠の確認。

それでもレインは、倒された魔物の死骸の前で立ち止まり、魔力の匂いを嗅ぐように観察した。仲間に嫌がられてもやめなかった。


そんなある日、酒場で声をかけられる。


「――おい。お前、変な目で魔物見てた奴だろ」


振り向くと、赤い羽飾りをつけた男がいた。重い剣を背負い、周りの空気まで自分のものみたいに立っている。

その後ろに、魔導士らしい女、神官服の女、身軽そうな短剣使い。


紅鷹クリムゾン・ホーク》――近頃名が売れ始めた四人組。

リーダーのガルド・レオンハルトが、顎で示す。


「解析役が欲しい。……結果を出せるならな」


レインの喉が、きゅっと鳴った。

期待と警戒と、腹の奥の反骨が同時に立ち上がる。


「……やってやるよ」


そう言った瞬間、ガルドが薄く笑った。

その笑いが、なぜか――最初から“切り捨てる顔”に見えた。


紅鷹クリムゾン・ホーク》での生活は、最初の一週間だけは順調だった。


レインは解析役として後方につき、戦闘後に魔物の残滓を確認し、魔力の流れを言語化して報告した。

「次はこの個体、初動で魔力が跳ねる。魔法詠唱は一拍遅らせた方がいい」

「今の個体は、攻撃直前に足元の魔力が沈む。そこが隙だ」


ガルドは一度だけ頷いた。

リディアは鼻で笑い、ルークは肩をすくめた。

セシリアは何も言わなかった。


結果は悪くなかった。

小型魔物の群れなら被害ゼロ。中型でも負傷は最小限。

だが、それは“目に見える成果”とは呼ばれなかった。


「雑魚相手にイキっても意味ねぇんだよ」


ルークが笑いながら言った。

「雑魚モンスターの能力くらいなら、誰でも対応できるだろ?」


レインは言い返した。

「対応できてなかったから、被害出てたんだろ」


その瞬間、空気が冷えた。

ガルドが視線だけで制したが、レインの胸には苛立ちが溜まっていく。


(またか)


前世の記憶が、嫌な形で重なる。

“今は結果が出てる”

“そのうち分かる”

そうやって、いつも評価は後回しにされた。


ダンジョンの階層が深くなるにつれ、問題が表面化した。


中堅クラス以上の魔物。

複合属性。

未知の挙動。


レインは解析に時間を要した。

一度の戦闘で全ては分からない。観察し、仮説を立て、次で試す必要がある。


だが、紅鷹は待たない。


「考えるのは後だ」


ガルドは即断で前に出る。

リディアは威力重視の魔法を叩き込み、魔力を消耗する。

セシリアは回復に追われ、ルークは舌打ちを繰り返す。


結果、勝つ。

しかし被害は増えた。


「……だから言っただろ」


レインが口を開くと、ガルドが睨んだ。


「結果論だ」

「お前の理屈は遅ぇんだよ」


リディアが続ける。

「コピー能力なんて所詮そんなもんでしょ。

 雑魚モンスターの能力しか、まともに扱えない」


その言葉が、決定打になった。


レインの中で何かが切れた。

「“しか”じゃない。理解できる範囲から積み上げて――」


「うるせぇ」


ガルドの声が被さる。

「戦場で講義してんじゃねぇ」


決定は、あっさり下された。


野営地。焚き火の前。

ガルドが腕を組み、淡々と告げる。


「レイン。お前は足手まといだ」


一瞬、意味が分からなかった。

言葉が頭に届くまで、間があった。


「……嘘だろ」


声が震えた。

「俺がいなきゃ、次の階層はもっと――」


「結果が出てねぇ」


ガルドは感情を乗せない。

それが一番、残酷だった。


「成長が遅い。即戦力にならない。

 パーティの方針と合わない」


リディアが腕を組む。

「正直、邪魔」


ルークは笑った。

「身の程知れよ。コピーしかできない雑魚」


セシリアは、俯いたまま何も言わない。


レインは一歩、前に出た。

「待て……まだ途中なんだ。

 理解できれば――」


「しつけぇ!」


ガルドが足を出す。

腹に鈍い衝撃。視界が反転し、地面に叩きつけられた。


「うざいんだよ」


土と血の味がした。

胸が苦しい。息が詰まる。


それでもレインは、地面に手をついて顔を上げた。


「……俺は、間違ってない」


その言葉に、ガルドは鼻で笑った。


「だったら、一人で証明しろ」


焚き火が爆ぜる音だけが、やけに大きく響いていた。


夜明け前、レインは一人だった。


紅鷹の野営地から離れ、最低限の荷だけを背負って森を歩く。

追ってくる気配はない。呼び戻されることもない。


――当たり前だ。


腹部の痛みは引いてきたが、心の奥が重い。

怒りも悔しさも、全部まだ生々しい。


「……くそ」


言葉にすると、少しだけ楽になる。

前世でも、同じだった。理解しても、説明しても、待ってもらえなかった。


(まただな)


そう思った瞬間、足が止まった。

自分で言って、自分で気づく。


(“また”じゃない)


今度は、証明できる。

一人でも、理解して、積み上げて、形にできる。


数日後。

レインは小さな遺跡に辿り着いた。


地図にも載らない、崩れかけの石造建築。

魔物の気配は薄いが、魔力の“滞り”がある。古い。だが、整っている。


(……設計が違う)


直感がそう告げていた。

現代魔法とは、根本から構造が異なる。


奥の部屋で、レインはそれを見つけた。

石台の上に置かれた、一冊の古い魔導書。


文字は読めない。古代語だ。

だが、ページを開いた瞬間、頭の奥が熱を持った。


詠唱じゃない。

命令文でもない。


(……処理手順だ)


魔力の流れ、分岐、収束。

図形のように、回路のように、意味が“形”で入ってくる。


模写理解アナライズ・コピー》が、静かに起動した。


理解は一瞬じゃない。

一行ずつ、構造を噛み砕く。前提を確認し、矛盾を潰し、今の魔法理論に当てはめる。


「……なるほど」


声が漏れた。

これならいける。原典のままじゃない。再構築すればいい。


レインはページを閉じ、深呼吸した。


遺跡の外。

小型の魔物が近づいてくる。


以前なら、雑魚だ。

だが今日は違う。


レインは詠唱を最小限にし、魔力の流れを組み替える。

古代魔法の構造を、現代仕様に落とし込む。


熱が集まる。

だが、暴れない。無駄がない。


放たれた一撃は、静かだった。

音もなく、魔物が崩れ落ちる。


レインは自分の手を見る。

震えてはいない。


「……ああ」


思わず、笑った。


紅鷹が欲しがったのは、即効性だった。

だが、これは違う。時間をかけて、理解して、積み上げた結果だ。


(世界が……変わったな)


レインは魔導書を抱え直し、歩き出す。

もう振り返らない。


追放されたのは、終わりじゃない。

ただ――理解する時間が、ようやく手に入っただけだ。



続きが気になったらブクマだけでも…!

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