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お耳をふさいで

 

 何が起きた?

 

 仕事柄、人が死ぬ場面には慣れているし、目の前でギャルが眉間を撃ち抜かれたところで何も驚きはしない。岩井と北村の2人も同じく、困惑の表情こそ浮かべているものの、悲鳴を上げたり狼狽える素振りは見せていない。彼らもまた、教師やSPといったのは表の仕事で、裏では殺しに関わる仕事をしているのだろうと推測できる。

 

 松本が困惑したのはそこではなかった。

 

 殺された事実ではなく、なぜ殺されたかである。

 

 名前を名乗る前に退場させられたので、あのギャルの名前は知らないが、死に値するような事をしただろうか。せいぜい屋敷の当主である久世に対して、あまりにフランクすぎる態度を取ったくらいではないか。顔をこねくり回すのは流石に失礼だとは思うが、その報復が弾丸では、あまりにつり合いが取れていない。

 

 それにギャルは松本たちと同じ、招待客という立場だった。人を呼んでおいて撃ち抜くなど、これではまるで罠にかかった獲物ではないか。久世はもしや自分たちも同じ目に合わせるつもりだろうか。

 

 いつでも戦えるようにテーブルの下に手を入れ、この日のために新調したドレスの裾を捲った。ベタではあるが、太ももに銃をホルダーごと巻きつけてある。スパイ映画などでよく見る常套手段だ。使い古された手というのは、意外と誰にも気付かれないもので、何度もこの方法で拳銃を忍ばせてきた。ドレスは体のラインが隠れるので、足元が不自然に盛り上がる心配もない。強いて言うなら、風でドレスの裾が舞い上がって、隠している拳銃が露見してしまうケースが想定された。もちろん対策は打ってある。ドレスの裾の先に小さい錘をつけて、そよ風程度では舞い上がらないようにしてあった。暴風が吹けば流石に生地も捲れてしまうだろうが、今日の天気は快晴で風もない。

 

 怪しまれないように目線は久世を見据えたまま、落としたものを拾うふりをしてグリップに触れる。

 

 「皆さん、私の執事がお騒がせして申し訳ございません。ですがもうひと騒ぎ起きますので、耳をおふさぎ下さい」

 

 「耳を?」

 

 唐突に久世から出された指示に、岩井が訊き返した。

 

 「両手を封じて無防備な状態にする、なんて狙いはありませんかね?」

 

 北村が毛虫のような眉毛を吊り上げて、疑念をそのまま口にする。

 

 確かに、と松本は思う。言われるがままに両手で耳をふさげば、武器も何も使えない無防備な状態となる。そこを3人まとめて始末するつもりではないか。そもそも始末される理由も分からないのだが。

 

 無礼にも当主に向けられた北村の発言も、もう久世には届いていなかった。

 

 なぜなら、久世は真っ先に両手を自分の耳に当てていたからだ。力こぶなどまったくない枝のような腕を上げて、なぜか目まで閉じている。聴覚だけでなく、視覚にも影響のある攻撃でも行われるのか。

 

 怖くなってきた松本は、久世と同じポーズを取った。日々の筋トレで鍛えられた二の腕の筋肉がぽっこりと隆起しており、華奢な久世との対比に少し恥ずかしくなった。

 

 薄目を開けた久世が、まだ指示に従っていない岩井と北村に、目線で「早く」と合図を送る。

 

 2人も渋々といった様子で耳をふさいだ、その瞬間。

 

 ブウウウウンという音が、執事が消えていった奥の部屋から響いてきた。モーターの駆動音?いや、それよりももっと嫌な響きだ。

 

 最近見たホラー映画を思い出した。顔面を覆うマスクを被った男がチェーンソーを振り回して暴れるシーンが、映画のラストを飾る作品。男から逃げ切った主人公の女性が、遠ざかる殺人鬼を尻目に、高笑いしている場面が印象に残っている。その映画で何度も聞いた音だ。

 

 チェーンソー。

 

 間違いない。奥の部屋から響いているのは、チェーンソーの刃が回転する音だ。

 

 それを裏付けるように、刃が何か固いものを切断する音が聞こえてきた。

 

 回収されたギャルの死体。フル回転するチェーンソー。切断される固いもの。

 

 死体を解体している。

 

 それからしばらくの間、ブウウウウンとバキバキという2種類の音がわりとリズミカルに続いた。解体しているのはあの執事だろう。無駄のないリズムを刻む解体のオーディオからは、随分と手慣れた様子を想像させる。松本がスーパーで買った鶏肉をぶつ切りにするときのような感覚なのかもしれない。

 

 耳をふさげと言われたのは、これが原因だ。

 

 久世は客人である松本たちに不快な音を聞かせたくなかったのだろう。そして自分も聞きくなかったので、我先にと耳をふさいでいたわけだ。目を閉じていたのはおそらく何の意味もないはず。不愉快なものから目を背けたいという一心で、つい反射的に瞑ってしまったのだろう。そんな久世もまた、可愛く絵になっているので、同じ女性として妬ましい。

 

 解体ショーは5分程度で終わった。どのみち耳をふさいでいてもある程度は聞こえてきたが、もしも指示に従わなかったら、今頃鼓膜が破れかけていたかもしれない。忠告してくれて助かった。

 


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