表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

見せしめ程度のもの

 

 久世が水の入ったグラスを置いた。話している途中に何度かちびちび飲んでいたものが、ちょうど空になった。

 

 森山がどうして久世家の執事として雇われたのか。そして、いかに久世に忠誠を誓っていたか。それは、彼女を襲う父親を刺殺したことからも伺えた。雇い主は久世の父であるので、立場上は父に危害を加えるなど言語道断。しかしお目付け役として久世と関係性を築いていくにあたり、雇い主よりも久世への情が溢れてしまったのかもしれない。雇い主を刺身包丁で刺したのは、森山の正直な気持ちの現れなのだろう。 

 

 「ふーむ、話は分かりました。いや分かりましたが、大事な事がまだはっきりしとりませんな」

 

 岩井が口をへの字に曲げて顎を撫でる。

 

 「執事の方、森山さんでしたかな。彼は久世さんを父親から助けるために殺したんですよね。あなたの父がやったことは近親相姦未遂ですよ。あと一歩森山さんが刺すのが遅れていれば、未遂じゃ済まされないところです」

 

 近親者同士が性的行為をすることは、法律で禁じられている。父が娘に性的暴行を加えるなどもってのほかだ。森山が殺していなければ、久世の父は逮捕されていただろう。余罪は他にもありそうだ。

 

 「ええ、確かにあの時の森山は、私を助けたいという一心だったと思います。父から私を救ってくれたことには感謝しています。あのまま貞操権が侵害されていたかと思うと、今思い出しても鳥肌が立ちますよ」

 

 久世が両手で体を抱く。本当に寒気がしているようだ。

 

 「ではなぜ森山さんを我々に殺してほしいと?」

 

 話を黙って聞いていた北村が、眉根を寄せる。

 

 「父を殺してからの森山は、すっかり別人になってしまったんです。もう私の知る彼ではなくなった。あなたたちも見たでしょう?あの得も言われぬ威圧感といい、なんというかその、やばいやつって感じのオーラ」

 

 言葉を選ぼうとしたが諦めたらしく、やばいやつ、などとお嬢様らしからぬ砕けた表現が飛び出した。

 

 「確かにやばいオーラは出てましたね」

 

 松本もそれには同調した。

 

 「話に聞いた感じだと、出会ったときの森山さんは素朴というか地味な感じだったんですよね。今と随分雰囲気が違いますけど」

 

 「父を刺すまでの森山は、本当にどこにでもいるような男だったんです。実直に仕事をこなして、私の身の回りの世話も完璧にしてくれる。まさに理想の執事だったんですが」

 

 久世は森山に聞かれていないことを確認するように、奥の扉に目をやった。久世曰く、給仕が済めばしばらくは出てこないとのことだが、Aの件があった後なので、側で待機している可能性もある。

 

 安全を確認したのちに久世は続けた。

 

 「彼が変わったのを最初に感じたのは、事件から翌週の学校でのことでした。その日、いつものように登校した時に違和感を感じたんです。教室中がざわめいていたので、私はクラスメイトに尋ねました。なにがあったのって」

 

 久世は消費期限の切れた牛乳を誤って口にしてしまった時のように、顔を歪めた。

 

 「男性教師が一気に複数人、行方不明になったんです。お話したとおり、私のことを性的な目で見てくる男性教師がいたのですが、彼らがピンポイントで消えていたんですよ」

 

 「やたらとボディタッチをしてくる古典教師とかその辺の人ですか。女からしたら、そういうのってマジでキモイですよね」

 

 「他にもいたんです。両手で数えられるギリギリの数、私を性の対象として見てくる変態が」

 

 どれだけ久世の通っていた学校にはロリコンが多いのだ。

 

 慢性的な教員不足により就職のハードルが下がったせいで、性的欲求を満たす目的で教師になる人が増えたとは聞くが、まさかこれほどまでとは。

 

 「彼らが一斉に消えたということで校内はパニックでした。表向きはいい先生という面をしてましたから、ショックを受ける生徒も少なくありませんでしたね。しかも全員何の連絡もなしに行方をくらましたものですから、学校側も困惑してましたよ」

 

 「そりゃあそうでしょうな。何かの事件に巻き込まれたって可能性があるにしても、複数の教師が同時に同じ事件に、ってのは考えにくい。かといって個々で別件の事件に巻き込まれて、タイミングよく一斉に行方不明ってのも、あまりに不自然な話でしょう」

 

 「前日に同僚で集まって飲み会に行っていて、帰りのタクシーで交通事故に遭った、ということは?」 

 

 不可解な現象を説明するのに、最も現実的な可能性を北村が提示した。

 

 「いいえ、そうじゃありませんでした。真実はその日の放課後に分かったんです。放課後の夕暮れ時、いつものように森山が迎えに来ないから、所在をなくした私は辺りをウロウロしていたんです。生徒はみんな正門を使って帰りますから、無駄に目立つ私がそこにいては邪魔になると思い、ほとんど誰も使わない裏門のほうへ行ったんです。そして見つけてしまいました」

 

 久世が自分の首元に手を当てた。

 

 「裏門の塀の上に、並べられていたんです。私をいやらしい目で見ていた、教師たちの生首が」

 

 「な、生首ぃ⁉」

 

 岩井が椅子ごと転げそうになった。

 

 アメリカのホームコメディみたいなリアクションだが、これが彼の素なのだろう。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ