二
大きく背伸びをして起き上がると一週間過ごしたテントの中でテツは首をポキポキと鳴らす。外は風が強いのかテント全体が激しく揺れているがいい加減なれた、壁にかけてある胸当てやら軽装な装備をつけてパンドラを手に持つ。
「人間、装備はなるべく軽装。お前は機動力勝負だからな。多少の傷なら治癒出来る」
「ふぁ~なぁパンドラ。俺本当に魔王倒せるかな」
「フッ聞くまでもない最強たる私がたかが人間如くに」
「あ~はいはい」
胸甲板にグリーグ{すね当て}だけと装備にしては少ないが、腕はナイトメアで強化するので丁度いい。この一週間テツがなぜ異世界に連れてこられたかを知り悩みに悩み抜いた。
しかし悩んだか所でルーファスやウィルの言う通り答えは決まっていた。さんざん殺してきたテツはもう普通の人間の思考はなくなり呼吸をするように殺せるだろう……辿りついた答えは魔王討伐。
「うぅ~寒」
テントを出ると何人もの騎士が焚き火を囲み息まいてた。「俺が魔王を倒して英雄だ」「ここで魔王を倒せば一生遊んで暮らせる」など下っ端連中の考えが耳に入りテツは苦笑いを漏らす。
ベルカの騎士などど偉そうにいっても所詮は人間。当たり前の事を思い空を見上げると無限に雪が落ちてくる。
「エリオ。惚れた女の前だからって無茶しすぎだ」
――ヴァルセルク雪原。
時間、季節など関係なく常に吹雪いてる極寒の地にベルカ他魔王に敵対する各国が集う。各国の国旗が何個も掲げられ集まった数は数万、数十万単位にさえ見えた。
各国の首領達は指揮を分散させて連携攻撃と作戦にでた。ベルカもその意見に賛成し一週間の時間を待ち始まる。
「私はベルカ代表ルーファス」
各国の戦士達数万人の前にルーファスは王族の衣装で登場すると静寂に包まれる。耳鳴りがするほどの無音の世界に雪が地面に積もる音だけだが、やがて王は拳と共に言葉を投げつけていく。
「この世界を支配出来るのは圧倒的な力。他者を寄せ付けないほどの力。魔王はまさにそれを欲しいままにしている」
規則正しく並び兜の隙間から視線を感じるとルーファスはより一層声高らかにし拳を上げる。
「ならばその力を凌駕し魔王を踏みにじろうじゃないか!! ここに集いし同士は誰もが世界平和を望むと私は信じている。しかし理想では意味が無い。諸君、平和のために殺してください」
ルーファスの言葉は理想など甘くはなく現実を語っていた。平和が欲しければ目の前の敵に剣を突き刺し返り血で体を染めた先の平和。
ルーファルの隣にいる老兵……片目を失い敗北の傷を顔に刻み込んでるヘクターが勢いよく剣を抜くと正面の騎士かた勢いよく剣は抜かれていく。
「すげぇ」
数万の戦士達が前列から剣を抜く光景は波のように広がり音で鼓膜が刺激される。見ていたテツは耳を塞ぎながら震えていた。こんなにも大規模な戦いなんて歴史の教科書か映画でしか見たことがない。
「テツ」
決戦の準備をする騎士達の中から一人の少女が気まずそうに歩いてくる。装備はテツと同じ軽装だが腰には刀がある白銀のニノが現れるとテツもどこか気まづい。
「そのテツ……あぁ~いや」
「ニノ確認したい事がある。お前は親を止めたいと言ったが、結果的に殺す事になるかもしれないんだぞ」
「……私も出来れば殺しはしたくないのだが、不可能に近いだろうな」
「あぁ~後この前は悪かったな。頭に血が上り言いすぎた、この通りだ悪かった!!」
テツが頭を下げるとニノは両手をブンブン顔の前で振りながら焦る。顔を上げてテツが笑うとニノもつられて笑ってしまいこれから戦いに行くような雰囲気ではない。
「ようやく見つけましたよテツ君ニノさん!!」
腰に手を当てて溜息をわざとらしく大きく吐きだすマリアが二人に厚手のコートを渡す。
「体温管理も一応してくださいね、地の理は魔王にありますから。私達に与えられた命令は単独で魔王城に潜入し魔王の首を持ちかえる事です」
獣の皮で作られた茶色のコートは着てみると温かく体温を逃さない。騎士達は鎧だがテツとニノは軽装で着る事ができた。
「ニノさん。貴女が魔王の娘である事は聞きました。今更ですけど……いいんですね?」
「構わない。もう何年も前に決めた事だ」
それを聞くとマリアは歩き出し二人はついていく。吹雪の中親を止めるために魔王の血族と戦う大義名分もないが友達を助けたいと思うおっさんは一歩一歩進んでいく。
魔王という目標に向かい。