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久々に顔を見せにきたニノの顔を見るのが楽しくなっているのは歳のせいだろうか。ポッドから暖かい紅茶をコップに運びニヤけた顔をシワを寄せるようにこわばらせ咳払い一つ鳴らし出迎える。


壁も床も木製で作られ暖炉の灯りですぐニノを見つける。壁際に腕を組み立っているが機嫌がいいようには見えない。むしろどこか困っているか焦っている……そんな雰囲気だ。



「よぉウィル久しぶり~ってわけでもないか」



中央に椅子に座りながら指を組み声をかけてきたのはテツ。魔王を倒すために別世界から強制的に連れだした男を見てウィルは目を疑う。



「お前がテツなのかっ!!」



最初に出会った時は坊主だったが今はのびて前髪が眉に届くほど、しかし髪型なんて問題ではなかった。二重で大きい目は鋭く一重かと思うほどに狭まり、瞳からは光が消えている。


風貌そのものが変わり果てたテツを目の前にウィルは一つの答えを出す。


人を殺した。それも一人や二人ではない、元々平和な世界にいたテツが人殺しを実行し薄汚れた異世界に染まったんだと理解してしまう。



「あんたの言う通り契約者になったぜ」



足元にある銀色の箱を自慢げに持ち上げるとウィルは鼻先まで近づけみるが、少し変わった鞄にしか見えない。大きく溜息を吐きテツの前に椅子を持ってきて背中を預ける。



「ルーファスから聞いてるぞそんな事。とんでもない化け物武器だが使い手か駄目だとよヒヒッ」



「間違ってないから腹立つぜ……さてウィル。聞いてると思うが魔王とやりあうらしい、その前に聞きたいんだ」



組んでた指を解き膝に重ねズイッと体を前に出しテツは聞く。疑問に思っていた、魔王を倒すなんて大役をなぜ自分かと。そんな役ならば自分なぞまず論外であろうと考えていた。



「なぜ俺を選んだウィル。ニノに聞いたらお前が答えてくれるってよ」



「お前がいた世界の西暦は何年だ?」



「へ? あぁ~二千年くらいだけど、それがなんだ」



「んじゃ今は少なくともお前のいた時間から千年以上は立ってる計算かぁ」



一瞬目の前が真っ暗になりかけ平衡感覚を失いかけたテツはウィルの言う事がまるで理解できない。千年以上? 桁違いすぎて想像するのすら馬鹿らしい。



「簡単に言うと過去からお前を連れてきたんだよ。お前のいた世界の未来が今の世界だ」



「ハハッおいニノ~こんな話するためにそんな深刻な顔してんのかぁ~」



おどけて両手を広げてみるがニノは厳しい表情のままだ。時間が立つにつれウィルの言ってる事が真実味が色を濃くしてくる。根拠も何もないはずなのに不思議と信じてしまいそうになっていく。



「昔お前みたいな奴が何を理由か知らないが時間を通り越しここにきてな、そいつがたまたま武器と契約してわかったんだ。過去の人間なら契約できるってな」



「だから俺を連れてきて契約させたのか~……おい糞ジジイふざけんなよ」



勢いよく立ち上がりウィルを見下ろしながら声に迫力を乗せて口から吐きだす。まるで元の世界にいた頃にしたゲームみたいな話だった。



「魔王が現れ契約者は魔王につくか殺され味方になったのは少数。はっきり言って魔王に勝つには強力な契約者が必要……ヒヒッそこで俺は生涯最高の発明と言っていい時間を逆行する装置を開発したわけだ」



「んでニノを使い俺を誘拐ってか。俺が戻る手段は」



「ない。時間に逆らうなど神に等しい行為だ。一往復が限界、まぁそれでお前という契約者を作り出せたんだ、中々のもんだろ」



二人の間にある机はテツの拳で叩き割られ紅茶は床に飛び散りコップの破片が上半身裸のウィルに刺さる。痛みをまったく感じないのかウィルは刺さった破片を抜き放り投げた。



「過去の人間を未来に連れてくるんだ。歴史が大きく変わる可能性だってあるよな? 例えば今いる奴の先祖を連れてきたら大問題だ……テツよ言ってる意味わかるか」



「俺は馬鹿だからな~簡単に説明しないとその顔見れないようにするぞジジイ~……ッ!! てめぇ!!」



気づく――なぜ自分が勇者なんて大役に選ばれたのかを。それはテツが予想してたよりも簡単で残酷だった。



「俺がニノに言った条件は二つ……子を残しそうになく、歴史に残りそうにない人物」



「フッ……ハハハハッ!!」



額に手を乗せ狂ったように笑う。ウィルの条件は全て満たしていた自分の情けなさに、確かにあのまま生きていたら結婚どころか恋人なんて出来なかったであろう。歴史に残る? ボロアパートで死ぬまで働き安月給だった男が歴史に残るわけがないと。



「ハハハッそれで交通誘導の会社に潜り込んだのかニノ~確かにあそこにはそんな連中がゴロゴロいたもんな~お前の判断は正しかったぞニノォ~」



テツはしばらく笑い続け疲れたのか椅子に座り直すと頭を抱えて言葉を失う。選ばれた者とか勇者とか自分の中で少しでも舞い上がってた部分はまだあったが情けなくて涙が出そうになる。



「でだテツ、てめぇはもうこの世界で生きるしかない。しかも人を殺しまくってるんだぜ。わかるよな」



「~~~ッ!! 汚いジジイだぜウィル~」



今まで腕を組んで黙っていたニノが壁から離れ二人に近づきようやく口を開く。



「父を、魔王を倒すぞ。元の世界で何も生きた証を残せなかったお前は思わないか? 自分が何かを成し遂げた証が欲しいと」



「てめぇら揃いも揃って人の人生をなんだと思ってんだよ!! ようはお前の親子喧嘩で勝てないから俺を使うって事だろうが!!」



ニノが言葉ではなく沈黙で答えるとテツは何度目かの大きな息を吐きのびた前髪を掴む。この世界には犯罪を裁く法律や警察もいなく二人を訴える事など出来ない。そもそもそんな次元の話ではない。



「お前ら二人には腹が立つが……乗ってやる。魔王を殺せばいいんだろ」



パンドラを持ちウィルに背中を向けて立ち去っていく。テツが真実を知っても戦う理由は一つだけだった……エリオとフェル。この世界にきて得た友人は見逃すには一緒にいた時間が長すぎた。



「はぁ~とことん終わってるぜ人生が」



――始まる、魔王との戦いが。

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