九
潮と魚の匂いが街を包み漁師達が活気のある声を出している、海に囲まれ海産物で生計を立てている港街に二人はきていた。
青いズボンと白シャツの二人は日航が照りつける中では浮いた服装、通りすがる屈強な漁師達が鼻で笑ってくるがフェルは変わらずの無表情で買い物を済ませていく。
買い物といっても食材を選んで騎士団本部の位置を書き、そこに送ってもらうだけと荷物にはならない。フェルの手際はよくエリオは実質見てるだけで買い物は終わってしまう。
「しかし魚臭いですね。少しこの匂いは苦手です」
買い物を済ませ海からの風に銀髪を泳がせる姿はエリオの鼓動を早くした。わざわざテツが気を回したのだから何かしないとと意気込むエリオだったがどうにも空回りが続いていた。
情けないと自分でも思うが仕方ない。入学式で見た瞬間から恋に落ちたエリオはフェルの前で馬鹿をやったり格好をつけてみたりするが全て不発……今回買い物に一緒にきてもエリオだけが喋っている。
「そそうか!! まぁフェルの髪綺麗だしな、潮風は悪いかもな」
「……エリオ。聞きたい事があります」
「なんだ。おおぉい顔近い近い!!」
砂浜でエリオが腰を下ろすとフェルも横にきて顔を近付ける。目の前で見ると人形のように整った顔で綺麗すぎて不気味だとさえ思えた。生唾を飲み込み喉を鳴らしながらフェルの言葉を待つ。
「なんで私なんかに付きまとうんですか?」
「ふぇ」
「教室でもやたらと私に話かけ目の前で馬鹿みたいな話をして、たまに髪型を誉めたり、しまいには騎士団までついてくるなんて理解不能です」
眼鏡が日光で反射して表情豊かなエリオが顔を固めてしまう。わかっていた事だった。自分ではアピールしていたつもりだったが、その全てがフェルには届いていなく溜息すら出なくなる。
「あぁ~そりゃフェルが一人寂しそうだったからよ!!」
「はぁ、それはエリオ貴方じゃないですか。クラスで結構浮いてましたよ」
「うっ、うるせぇ!! 俺はエリート気質な奴らとは合わないんだよ!!」
エリオが顔を真っ赤にして怒るとフェルは少しだけだが口元を緩め笑みを作った。その微かな笑みだけでエリオは飛び跳ねそうになり自分を抑えつける。我ながら自分が恥ずかしいと思うが初恋という薬で止まってはくれない。
「エリオは不思議ですね。何度も無視してるのに懲りない。今日も喋り続けてますね」
「がぁあああ別にいいだろ!! 俺は退屈が嫌いなんだ」
「私もエリオみたいに楽天的だったら少しは楽しかったかもしれませんね」
尻をはたき砂を落とし立ち上がると大きく背伸びして「帰りましょう」とエリオに手を伸ばし二人は砂浜を出た。露店が両側に並ぶ大通りを歩くと魚の匂いがよほど苦手なのかフェルが鼻をつまむ。
エリオは自然とフェルの手を掴み小走りで露店の中を抜けていく。耳まで真っ赤にし顔など見せられたものじゃないが、その時間がたまらなく嬉しい。不器用で口下手の少年の精一杯の行動。
「エリオなんで手を掴むんですか」
「いや、そこ聞く所かよ~べべ別にいいだろ」
人ごみの中をフェルの手を握り走る時間は一生の思い出になるだろうなと思いエリオは真っ赤の顔で笑う。しかし浮かれているエリオの脚が突然止まってしまう。フェルが地面に根を生やしたように動かなくなりある場所を見つめていた。
「おぉ!! 見ろユウヤ、こんな魚見た事ないぞ!!」
「確かにな。おっちゃんこれくれ!!」