七
「テツさん」
フェルに手招きされ近付くと真剣な表情で顔を寄せてくる。
「悔しいですが隊長の言う通りです。一人では勝てません……テツさんはとにかく接近してください援護は私はします」
「あいよ、お前もあんま無茶すんなよ。昨日みたいな顔あんま見たくねぇ」
「きき昨日は少しだけ頭にきただけです!! ほらもういってください」
深呼吸し全身の力を抜き数回飛び準備運動を終えるとマリアを見る。茶色く錆びた鎧だが装甲はかなり物と見てわかり相棒に話しかけていく。
「最強のパンドラさんよ、どうだい?」
「あんな紙切れ同然の玩具楽勝よ」
「聞いといてよかったわ。加減してほしい、いくらなんでも殺すわけにはいかないしな」
「あの女に舐めてかからない方がいいわよ。一応加減はするつもりだけど殺すつもりでいきなさい」
最短距離を最速で駆け抜ける……それはボクシングを習ってた時のテツの目指してた事だった。拳を構え実行に移し正面から走り出す。距離など五歩も歩けば届く、マリアは待ち構えるように二本の木刀を上げた瞬間に蛇が宙を駆ける。
「隊長私達に武器を持たせたのは間違いです」
テツより速く蛇腹剣はマリアに喰らいつき装甲を切り裂いた。貫通はさすがに出来ないがフェルの狙いは遠間から鞭のように浴びせマリアを防御しか出来なくする事、思惑通りにマリアが防御の体勢に入った時には懐に禍々しく紫色に光る悪魔の腕が振るわれていた。
「おっしゃ!!」
鈍い金属音が鳴り響くと重装甲の鎧を着込んだマリアはテツの一撃で後退した。腹部の装甲は大きく凹み中身のマリアから苦痛の声も漏れてくる。テツは勢いに乗り前進し再び拳を振り被り、フェルは隙など与えるかと言わんばかりに蛇腹剣を浴びせ続けた。
「い――つぅ……さすがにキツイですね」
マリアの弱音が吐いた瞬間にはもう遅くテツが殴りかかってきていたが、援護であるフェルの攻撃が止まっている事に気づきテツは迷ったが構わず拳を突きだす、選んだの単純な右ストレート。
狙いは一番的が大きい胸を選び体ごとぶつける勢いで放ったが……拳は下からの切り上げで大きく弾き飛ばされた。重装甲を装備してるにも関わらず素早く動き見事な一撃。テツは異世界にきて何度目かの台詞を言う。
「ありえない」
常人のパンチならともかくパンドラで強化され速度も何倍にも加速してる拳を木刀という細い木で弾くなどありない。つい弾かれた拳を見るとマリアの片手には握られている。蛇腹剣がしっかりと握られフェルの攻撃を無力化していた。
「驚きました? 結構自慢なんですよ。遺伝らしいのですが私は反射神経と動体視力に優れてるらしいです」
「だぁあああぁあ!!」
まだ残っている左を放つ。地面を蹴り腰を回し全ての力を左に伝えたフック、コンパクトに振り抜き距離もタイミングも十分だったが腕に何かが絡み付いている。それはマリアが握っていた蛇腹剣だった、何度も巻かれガチガチに固められテツが止まってしまうと間髪入れずに一撃が顔面に叩き込まれる。
「さぁフェルさんどうしますか? テツ君の片腕には貴女の自慢の刃が絡みつき、戻そうとすれば腕が千切れますよ」
「悪魔じみた女ですね。学園の顔は仮面だったんですね」
「いいえ、あの顔も私です。ただ戦うと少しだけ変わるだけですよ」
フェルは動けない。唯一の武器である蛇腹剣はテツに巻きつき戻せなく攻撃にも使えない。舌打ちを一つ鳴らすとテツに再び木刀が振り下ろされた。
「さぁどうします!! 戦場では何回死んだかわかりませんよ!!」
「おい年増のいき遅れババア」
「あぁ!! てめぇ今なんつったぁ!!」
巻き付いた蛇腹剣に指を絡ませ引き抜いていく、ガリガリとナイトメアが削れる音がするがかまわない。テツは大きく振り被りラリアットのように振り回すと後方にいたフェルの体が飛ぶ。
「調子乗んなよババアァアアアア!!」
蛇腹剣を振り回し握っていたフェルも空に飛びマリアに一直線に飛んでいく。
「テツさ……のわぁああああ!!」
「ブン殴れ!! いいか拳を大きく後ろに振り被り前に出せ!! それだけだ」
落下してくるフェルに対しマリアは対処のしようがなかった。真上からの攻撃なぞ剣術では想定していないからだ。フェルのパンチは見事にマリアを捕え重装甲に亀裂が入った瞬間に追撃をテツがする。
再び腹部を殴りつけると装甲は完全に砕かれマリアは膝を着く。必ず勝てるという確信がテツに芽生える。
もう木刀を振るには距離が近すぎる、ならば何をどう足掻いても拳が先に届くはず。今までの恨みと言わんばかりとフルスイングしていくと。
「そこまで」