二
「ふぅようやく到着か、しかしここが世界で名高いベルカ騎士の部屋とはね」
「ぼやくなエリオ。俺達は学園のエリート共が喉から手がでるほど欲しい騎士の資格を手に入れたんだ。これくらい我慢だ」
薄暗い部屋は蝋燭一つの光しかなく埃臭い。広さも二人にしては狭く石の壁には血の後が何箇所もあり不気味……木製の二段ベッドは腰を下ろすと年季の入った音を出し二人の体重を支えられるか不安になってくる。
四人は荷物を纏め馬車に飛び乗りそのままベルカ騎士団本部まで連れていかれた。丘の上に古城があり周辺には草木もない平地だけと殺風景な場所が騎士団の総本山だった。
平地でも何十という騎士達が訓練していて活気のある声が響いている中四人はまず自室に案内されてる。城内は作りは古いものの広く何人かとすれ違うと物珍しそうな目で四人を見た。
「ベルカ軍遊撃部隊!! 新生マリア隊!! 聞こえはいいが本来騎士になる歳じゃない子供三人と謎のおっさん……嫌でも注目されるだろうなこれから」
「確かにな、やったじゃねぇかエリオ!! 俺達人気者だぜ」
「どうでもいいけど掃除してよね人間。最強たる私がこんなカビ臭い部屋に耐えられるわけないわ」
パンドラの言葉に二人は無言で頷くと持ってきた荷物から雑巾を出し溜息をつく。魔王軍との戦いを馬車の中でマリアに詳しく聞くとはっきりいって絶望的な状況だった。
数もそうだが一人一人の戦闘力も負けていては勝負にすらならない。魔王軍は全世界の傭兵達を集め軍に取り入れ訓練を施した後に驚異的な強さを手に入れ騎士達を圧倒していた。よほど戦闘に精通している師がいるのか、敵ながら感心するとマリアは言う。
壁を雑巾で磨きながらテツはこれからの身の振り方を考える。このまま騎士として戦うか、もしくは全てを捨てて気楽にこの世界で生きるか……邪念を捨てると答えは決まっている。戦うしかない。
「エリオ君テツ君、到着早々悪いけど出てくれる」
部屋の扉を開けたマリアが言うと二人の手が止まりテツは荒縄でエリオは自前の訓練用の槍を持ちマリアに続く。騎士への支給の白を中心としたシャツと動きやすさを重視した青色の太めのズボンのマリアはテツにはどうにも魅力的に見えてしまい目を反らしながら外に出た。
「今日はここで改めて二人の実力を確かめます」
中庭に出ると外と同じく茶色の地面が乾ききっていてヒビが入っている。他の部隊の騎士もいたが三人が到着すると動きを止めて視線を送るとマリアどうにも気まずいのか首を傾けてしまう。
「でででは!! まずはエリオ君構えなさい」
「はぁマリア先生……じゃなくて隊長」
テツは少し離れた場所で腰を下ろし二人を観戦する。マリアは訓練用の木刀を持ち真っ直ぐ構え学園で教わった通りの構えに対しエリオは槍を少し下げ独自の構えになる。我流が入っているのか槍の矛先はユラユラと常に揺れていた。
「どうしましたか、待っていては敵は倒せませんよ」
マリアの挑発にエリオは乗り下から突き上がるように矛先を刺す。マリアの胴体まで跳ね上がると木刀に叩き落とされてしまいエリオの舌打ちと共に二発三発と次々に猛攻が続く。
しかしマリアはうるさい蚊でも払うように器用に木刀を使い全てを捌く。教科書通りの動きだがそれを高レベルで実戦しているマリアに対しエリオの我流混じりの槍術など通るわけがない。
「エリオ君まず技術よりも基礎体力をつけなさい」
焦りもあり体力消費が激しく肩で大きく息をした瞬間に間合いは殺され、気づけば目の前に木刀が迫り、痛みと共に膝をつきうずくまってしまう。息一つ乱さず涼しい顔のままテツの振り返り笑う。
「さぁ我が騎士団ヘクター様と渡りあったテツ君の番ですよ。あの無様に転がった時よりも多少は強くなったんでしょうねぇ~」
邪悪な笑みを浮かべ肩を震わせ笑うマリアは本性を出した。およそ人の上に立つ者の顔ではないと思いつつテツは腰を上げて拳に荒縄を巻く。