十二
ニノ・クライシスと名付けられた女の子が自分で立ち上がり、父のユウヤから剣術を学ぶまで成長するまで月日が重なったある日……ある城に中庭で可愛らしい声でニノは父から授かった一本の刀を振っていた。
中央の噴水に腰をかけている大男ハンクは最近ニノの世話ばかり、両親であるユウヤとイリアは戦場に渡り歩き今では傭兵界ではなく全世界に名を響かせる豪傑になっている。
そんな親だからこそ我が子に刀を渡し「これで遊んでろ」という言い放ってしまうのは。ハンクは戦いだけの人生だったがニノの子守りをするにつれ表情が和らいでいく事に気づかないでいた。
「おぃハンク!! そんなとこで座ってないで私の相手をしろ」
「む、生意気だな。お前なぞ数秒で倒すぞ」
「やってみなければわからんぞ馬鹿者め!!」
背はハンクの膝ぐらいまでしかないニノが刀を振り回し近付いてくる。世話をするついでにニノの稽古をしてみれば親譲りの才覚があり将来とんでもない怪物になる片鱗を見せていた。
「その口調はイリアの真似か?]
「母上が私を殺すまで強くなれと言っていた!! たのしみだ。母上と戦える事が」
「話を聞かないのもイリア譲りか……そんなに強くなってどうする」
ニノはハンクの言葉に一度出しかけの言葉を口の中に戻すと石のタイルの上に座り空を見上げる。顔はイリアに似たのか整っているが、瞳や髪色はユウヤ譲りの黒になり、この世界では珍しい。
「ハンク。私は強くなるのは賛成だが……なぜ父上と母上はあんなに人を殺せるんだ。わからん、なぜあんなに楽しそうなんだ」
「それが戦うって事だニノ。強くなりたければ敵を殺し、勝利の優越感に酔い経験を積み上げた結果に強さがあるんだぞ」
「私は止めたい。父上や母上は十分に強いではないか、もう強くなる必要なんてない。それを教えるために私は強くなりたいんだ」
ハンクは目を丸くした。まだ十歳そこそこの子供の台詞ではない。何度も両親に戦場に連れていかれ人が苦しみながら死ぬ姿を見て出した答えのだろうか、瞳は決意の炎に燃え覚悟は既に決まっていた。
「む、しかし大層な目標だな。お前の父や母はとんでもなく強いぞ」
「ならば更に強くなればいいぞ!! 父上も母上も私の強さで抑えつけてやるわ!! フハハハ!!」
「考え方はイリアだな。そうだなお前が強くなり私の生命すら脅かすまで成長するのを心待ちにしてるぞ」
高笑いをするニノの背中を微笑むながら見つめ一言残す。それはこれからニノが歩む試練の道のりを表すような言葉だった。
「しかし苦労するぞニノ。お前の父は今や世界を動かし人々から嫌われ、魔王とまで呼ばれているんだぞ」
それから数年後。ニノはウィルの協力の元に世界を移動しテツをこの地獄のような世界に引きずり込んだ。