十一
――ベルカ陥落から数年後。
ベルーザの予言通りに各国は動きだし戦い続けていた。人間の欲望だけが世界を動かし、権力、金、力の三つが交差する永遠に続くかと思う戦いは終わらない。
アベンジはベルカ陥落させ傭兵界ではもはや伝説となり数多くの傭兵達の語り草となっていた。中には「俺はアベンジと共にベルカを落とした」という輩も出てくるが、アベンジのメンバーは自ら名乗らないという行動は噂に拍車をかけていく。
イリア、ハンク、ユウヤの名だけは知れ渡り英雄扱いする者も少なくない。何百年も支配し続けたベルカ王を少数で潜入し首をとったという事実は現実離れしすぎて嘘ではないかという意見も飛び交う。
「……クソッ!!」
指を組み貧乏ゆすりをしながら苛立つ英雄――ユウヤはある部屋で恐怖していた。竜と相対した時以上の恐怖で脂汗が出て震えが止まらない。自分が何も出来ず待つだけという状況に感じた事のない恐怖を覚える。
「ユウヤ!!」
ユウヤと同じく顔を真っ青にしながらハンクが巨体で扉を蹴り飛ばしてくると、勢いよく立ち上がり詰め寄る。異世界にきて数年で何百という命を奪った男は心底震えている。ハンクにすがるように掴みかかると、その手は弾かれ肩を掴まれ「落ち着け」と言われる。
「とにかくこい!! イリアが待っているぞ」
廊下を走る……風のように走り抜け扉を何枚も開け、途中何人かと肩をぶつけるが謝りもしないでただ走った。普段以上に体力消耗が激しいのは恐怖のせいだろうが気にしてる暇はない、とうとう最後の扉の前に立つと心臓の音が全身を叩きつけるように鳴ってきた。
「ふぅ~……イリア!!」
覚悟を決め扉を開けるとベッドに横たわるイリアが見え近付くと汗まみれの顔で笑いユウヤはその場で腰を抜かし尻餅をついてしまう。後からハンクもくるとイリアの無事な姿を確認し同じく尻餅、そんな間抜けな二人を見てイリアが笑い一人の女性が近付いてきた。
「手術は困難でしたがなんとか乗り切りました。おめでとうございます」
「む、腰が抜けて立てん」
「俺もだ」
「ぬ、アベンジの幹部で今や世界に名を知らしめた二人がこんな姿になるとは生命とは凄いものだな」
白衣の女性が手の中にある小さな布で包まれたある物をイリアに渡すと、ユウヤやハンクが見た事のない笑顔になり戦士の顔を忘れてしまう。似布をとると一つの生命が手の中で産声を上げる。
「フハハハうるさい奴め~父親に似て下品だな」
「いや母親似だな。俺はもっとスタイリッシュだ」
「む、お前ら二人似だ。やれやれこれでまた世話の仕事が増えるな」
太い腕を組みながら何回も頷くハンクはこれからの苦労を思うと不思議と笑みになる。今までの人生で戦い以外の事は無能だったがこれほど先が楽しい世話役もないと思い「俺にも抱かせろ」と言う。
「名前どうする? 俺が決めていいか」
「私イリア・クライシスの娘だ。もう決めてあるぞ」
「クライシス? 初耳だが」
「滅多に名乗らない主義でな。一応父上の名だ」
手術後だというのにイリアはベッドの上に立ち上がり拳を上げて高らかに宣言する。愛するユウヤとの子供のために何カ月前から考え抜いた名前を。
「我がアベンジの子孫ともなろうこの子は
ニノ・クライシスと名付けよう!!」