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勝利すると一気に体の痛みが何倍にもなり膝が折れユウヤとハンクは地面に座る。イリアは無言で竜の屍を見下ろし無表情で突き刺さった魔剣を抜くと返り血を顔に浴びてしまう。



「む、ユウヤ体の具合はどうだ」



「お前と同じだよハンク。肋骨が折れ鎖骨にひび……まぁ見ての通りボロボロだ」



「互いによく生き残ったものだ。本当にこの化け物を……イリア」



片足と魔剣を重たそうに引きずりながらベルーザが出ていった扉に向かう。後は王の首を取れば全てが終わると確信したイリアは痛む体に鞭を入れて世界の支配者ベルカを落としにかかる。



「やれやれ、ユウヤ行け。イリアを頼むぞ」



一息ついたと思うと続々と騎士達が現れ剣の切っ先を向けてきた。折れた膝を曲げハンクが立ち上がり戦斧を大きく構えると背中ごしにユウヤに喋っていく。



「俺は自分がこんな小さな男とは思わなかった。イリアがお前に惚れてると知り同様し嫉妬さえもした……だがイリアはお前を選んだ。頼む」



「こんな時に何言ってんだハンク!! この数は無理だ!!」



「ほう甘く見られたものだな。この馬鹿デカイ武器はこんな時のためだったんじゃなかったのか」



数人の騎士が向かってくると戦斧は猛威を振るい鎧ごと騎士達を砕きバラバラにしていく。ウィル特性の漆黒の鎧は竜の一撃で半分以上砕け、兜はどこかに吹き飛び、太い眉毛に大きな顔と素顔を晒し仁王立ちでユウヤの前に立つ。



「笑える話だ。ある女に敗北から始まった淡い恋心は叶わず、しかし未練ばかり残り……その未練のせいでこうして命を張っているとはな」



「おいハンク――…俺がフラれる可能性を入れてないぞ。俺がイリアにフラれたらどうすんだお前」



「……フ、フハハハ!! そいつは傑作だ!! もしそうなったら力の限り笑ってやる。しかし安心したぞ、そう言うからにはイリアに惚れているんだな」



「あぁ惚れちまった。美人もそうだが、あんなイカれた女そうはいない、俺みたいな糞野郎には丁度いいかもな。ハンク頼んだぞ」



背中ごしに軽く手を振られるとユウヤは全力でイリアを追う。残ったハンクの雄雄しい叫び声が背中を押すように加速していき破壊された扉を潜り階段を更に上へと登っていく。


壁にはビッシリと血痕がつけられ、その血がイリアでないと願うばがりだ。進むたびに騎士の死体を増えていきイリアが生存しているとわかる唯一の証拠だった。



「ハァハァ、イリア!!」



息を切らせながら階段の先の光へと身を投げ出すと顔が濡れる。上を見ると曇空から雨粒が落ちてきていた。ベルカ城最上階は円形に作られた石段の屋上……そこでイリアと黄金の騎士は相対していた。



「愚か物共め!! 竜を殺すという事はどーゆ事かわかるのか!! 世界のバランスは崩れ、各国が我先にと侵略してくるぞ」



「ベルーザ。今こそ我が父上母上……今まで数え切れないほどの命を散らしていった奴隷達の無念晴らさせてもらうぞ」



ベルーザの周辺の騎士は既に人の形を失い残るは王のみ。しかしイリアの怪我、疲労も酷く今にも倒れそうだった。ユウヤもボロボロの体を引きずりながらイリアに追い付き肩を掴むと驚きの表情で振り返る。



「ぬ!! ユウヤなぜ追ってきた。お前はもう十分働いた、もう休んで」



「イリア結婚しよう」



「――ッ」



血に濡れた復讐のみの人生の最終到達地点。今まさにベルーザの首を落とす瞬間に予想もしえない言葉を聞いてイリアは思考を停止してしまう。



「ユウヤ何を言っているんだ、ふざける時では」



「お前の銀色の髪、顔立ち、性格、頭のてっぺんから爪先まで全てに惚れた。どうだ? 俺みたいな奴じゃ駄目か」



「……答えを知りたくばベルーザを倒すぞ」



昔傭兵の仲間の女が言っていた「幸せ」好きな男と過ごす時間がたまらなく幸せだと。なんとなくわかった気がした。ただイリアは好きな男と世界最強の国家ベルカ王を殺すという自分らしい状況に笑みを作る。



「竜を殺し、よもや王たる我が前で茶番とはな。ふざげるな!!」



もう二人は言葉を交わす事なく走り出す。ユウヤが前に出るとイリアは最後の力を振り絞る。体ごと投げつけるように魔剣を振り被り、鉄の塊を勢いよく矢のように投げ出した。


回転しながら正確に目標を捕え、ベルーザに直撃を確認すると倒れユウヤの背中を見て意識を失ってしまう。


王の意地か魔剣の直撃を剣で受け止めたベルーザの手首の骨は粉々に砕けるが、ふんばり視界を遮っていた魔剣を落とすと目の前は雨が降っているだけの光景。



「――どこ……だ」



いない。上下左右見渡してもユウヤの姿はなく雨で濡れた目蓋を何回も擦るがどこにもいない。思考をフル回転させると一つの答えに辿りつく、一か所だけ確認していない場所があると気づくと自身の腕がない事に気づく。



「漆黒の男よ。貴様は世界のバランスを崩した責任をとる事が出来るか!! これから今まで以上の血の歴史を戦いで作る事になるだろう」



唯一確認してない場所は背後だった。振り返ると野太刀を鞘にしまうユウヤの後ろ姿が見えベルーザは敗北を確信し斬られた片腕を見て次に胸……おそらく突き。心臓部分が赤く染まり痛みを感じない。


やがて視界が揺れ始め前のめりに倒れてしまう。倒れると自分の血だらけの海に沈みベルーザは長年の人生を敗北という形で幕を下ろした。



「ヒヒッ、ヒャハハハハ!! 旦那ぁ!! こいつは痛快愉快!! 荒くれ者の傭兵達がベルカを落としましたぜ」



「ヘヘ……ハハハハハッ!! そうさ!! 最高の気分だろう化け物刀!! 今まさに俺は世界の頂点に立ったんだぞ」



ベルカ王ベルーザを殺したユウヤは雨の中子供のように駆け回り、狂ったように踊る。こんなにも一度の勝利に酔いしれる事は今までなく泣くように叫んでいく。


世界の頂点にたった男は正義の味方ではなく、悪の塊のような男であった。殺戮を楽しみ快楽に変えていく殺人者は勝利をむさぼるように食らい続けていく。















――その日ベルカは陥落した事件は全世界に轟き、アベンジとそれを指揮したイリアやルドルフの名も轟き響き、長きに渡るベルカが築いてきた平和は終わりを告げた――





 

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