九
勢いをつけ飛び上がると常人の三倍はあろう飛距離を稼ぎ、重力に逆らい高度を稼ぐ。野太刀を両手で握り大きく振り被りながら竜の顔に迫っていく。
契約者になって身体能力も上がったのか自分の跳躍に驚きながら竜に迫る。ある程度まで上がると今度は重力に押されるようにに降下していき剥き出しの牙の隙間からマグマのような炎が見える。
空中では回避も出来ず落ちるしかない。竜が大きく口を開き喉奥から業火を吹き出す瞬間にユウヤの一太刀も振り抜かれていった。
「ユウヤ!!」
イリアの叫び声が届く頃にはユウヤの姿は業火に隠され黒い影すら残らない。吐かれた業火は周辺の壁や地面を一瞬で黒くし中には溶ける部分もあり見ていたハンクの顔から血の気が引いていく。
「グギャァアアアアア!!」
業火を吐いた竜が急に叫び出すと地面に大量の血液を垂らし悶え苦しむ。首を何回も振り前脚で顔を隠すような仕草を見るとイリアの動きが止まる。ハンクが何事かと思い竜の周辺を見渡すと、竜の後ろに全身から煙を出し着ていたロングコートを焦がすユウヤが膝をついていた。
「ヒハハハ!! さすが旦那ぁ~片目は貰いましたぜ!!」
「ハンク、イリア!! 胴体じゃない脚を狙え!!」
片目から血の涙を流しながら竜は四足で立ち怒涛の怒りの声を上げ威嚇してくる。声だけで石の壁にひびが入り空気が震えだす。目前で吠えられると心が根こそぎ折られそうになるがユウヤはそれ以上に喜びの鳥肌が浮かぶ。
戦いこそ人生
闘争こそ生きる価値
殺し合いこそ全て……。
「胴体は固くて攻撃が通りづらい、細い脚を叩き斬って無力させるぞ!!」
強い敵に出会うたびに自分が強くなったと思い込み、その快楽に酔いしれる人生だった。そんな根っからの殺人者の前に竜という最高の料理が出され後は食らいつくだけ……狙うは体重を支える後脚の細い足首。
ハンクが我先にと突っ込み戦斧を振り抜くと竜の動きが変わる。巨体とは思えない速さで背中を見せ何事かと思った瞬間にハンクの体は消えていた。
太く長い尻尾が振り抜かれハンクは壁まで飛ばされ、石段の壁を貫通し王室から強制的に除外された。
「やってくれたな人間!! 骨一つ残さず灰にしてくれるわ!!」
「ユウヤどうする……あの竜め、懐に入れないつもりだぞ」
「さすがにこちらの狙いはわかるか。イリア俺が必ず隙を作る、その間に一撃を叩きこめ。お前の怪力なら一撃で十分だ」
深呼吸し前に踏み出すと恐怖が体に巻き付く。ユウヤは大きな賭けに出た。もし再び竜が業火を吐けば間違いなく塵も残らず消されるだろう……しかし竜は怒り冷静さを失っている。片目を奪われ怒りに震えている今なら。
前脚を大きく振り被り圧倒的なリーチをいかし力任せに殴りかかってきた。狙い通りと思いユウヤは真正面かた野太刀を突きたてていく。
鱗を切り裂き中身の肉を切り裂いていくが刃は途中で止まる……人間と竜では質量の桁が違い、斬れる物無しと言わしめた野太刀は竜の剛力の前に敗北した。
「――…ガッ!!」
トラックにでも引かれたような衝撃が真正面から受けユウヤは吹き飛び、ひびが入っていた肋骨の骨が砕ける痛みと音が聞こえ表情を苦痛に歪めるが、竜にも負けないくらい巨大な魔剣を持ち力強く走るイリアの背中を見て笑う。
「人間風情がぁ!!」
前脚を切り裂かれ一瞬であるが隙を見せた竜の懐に飛び込んだイリアは体を投げ出す勢いで魔剣を竜の顔に叩きつけていく……鼓膜を破るような金属音が響くと竜の眉間に魔剣は叩きこまれ両者が静止した。
「ハァハァ……見たか竜よ人間を」
「ガァアアアアア!! 人間ガァアアアア!!」
眉間に魔剣を叩きこまれ血を雨のように降らしても竜は顔を上げて牙を向きイリアに喰らいつく。もう逃げれる距離でもなく、そもそも全身が痛むイリアには回避運動は出来ずに膝をつき視線を落としていく。
「……くそ……ユウヤ、ハンク。すまぬ」
噛み砕かれる瞬間に魔剣を下顎に滑り込ませ凌いだが、契約者になり貰った怪力でも竜の噛む力とでは勝負にならない。支えてる魔剣を両腕が悲鳴を上げていき二の腕が血が吹き出し視界が暗くなっていく。
「噛み潰して灰にしてくれるわ!!」
「悪いな竜よ。その女には手だしは許さん、俺の獲物だ」
野太い声が聞こえると空気を切り裂く音と共に竜の残った片目に戦斧が突き刺さる。視界を完全に奪われた竜は混乱しもがき始めると解放されたイリアが大きく魔剣を竜の顔に突きたてて……眉間に突き刺しえぐる。
何度も何度も突き刺し最後には魔剣が竜の頭を貫通し動かなくなると、イリアは自らの拳で殴り始める。拳を痛めようとも関係なく殴り続け最後にはユウヤに抑えられた。
「おいやめろ!! もう死んでるぞ!!」
「ガァアアア!! こいつが!! この竜が!!」
「む!! イリアいい加減にしろ!!」
ユウヤとハンクに抑えられ止まると大きく息をつき座り込む……世界滅ぼした竜の末裔を討伐した者は復讐に人生を捧げた一人の女だった。