二
柄を腰の位置で持ち体の中心に刀身を重ねユウヤはまず様子見を選択した。幼き頃祖父から最初に教えてもらったのは身を守る術、相手の動きを逃さないように目を見開き静かに待つ。
ルドルフの武器は片手剣と通常より若干短く、腕を垂らしながら近づいてくる。仮にも傭兵の中でトップをとった男の行動にしては無褒美するぎると感じるがユウヤは徹底的に待った。
「なんだい随分大人しいな、遠慮なく行かせてもらぞ」
構えもなにもなく大きく振り被り真っ直ぐくる。リーチでは刀のユウヤに分がありルドルフが間合いに入った瞬間に斬撃を走らせた。
武器のリーチ差を最大に生かした突きで胴体を狙う。走ってくる相手には防ぐのはもっとも困難で点でしか見えない攻撃……しかしルドルフはその困難な試練を真っ向から受けた。
「思った以上に伸びる武器だな。だが反応出来ないほどではない」
振り上げた片手剣を垂直に下ろし向かってきた刀の切っ先に滑らすように重ね軌道を反らしていく。全体重を乗せて放った突きの軌道を変えられたユウヤは前のめりに数歩歩いてしまう。
隙の塊となったユウヤにルドルフは邪悪な笑みを浮かべ太ももを一突きしエグる。二人の対決で最初に悲鳴を上げたのはユウヤだった。
「ハァ……ガッ!! なぜ太ももなんて甘い個所を狙った!!」
「久々の挑戦者だ。じっくり楽しみたいんでね」
ユウヤの出血で傭兵達は盛り上がり歓声を上げる中、機動力の元となる足に傷を負ったユウヤはルドルフを分析する。おそらく動体視力が並ではなく天から授かったのであろう……そんな相手にまともに行くのは危険と判断する。
幼き頃から叩きこまれた剣術に自信があるが今やってるのは殺し合い。しかも相手は野生動物のような五感を持ち狡猾。ユウヤの頭の中で戦術は組み上がった。
「……」
構えを解き刀を地面に垂らすとルドルフが一瞬表情を曇らせたが先程と同じように突撃してくる。大きく振り被り隙だらけだが持ち前の動体視力を武器に圧力をかけてくる。
ユウヤは再び待つ、今度こそ好機を逃さぬように全身の力を抜き足の痛みも意識の外に追い出し、野生の虎のようなルドルフを受け止めるように。
「降参しないと頭割っちま――…ッ」
片手剣を頭めがけ振り下ろした瞬間に自分の腹から胸にかけて一筋の光が登ってきているのが見えた。数秒すれば血が吹き出し斬られたと気づき痛みが感じる頃には目の前にいたユウヤが消えていた。
「いくら目に自信があっても攻撃の瞬間はどうしようもない。加えて剣速なら絶対の自信があるんでな」
地面から斬り上げた刀をルドルフの胴体を裂きそのまま体を走らせ横をとる。自分の出血に気づき目で追う頃にはユウヤが上段で大きく構えの……一閃!! ここで終わるはずだったが片手剣を振り上げ防ぐ事が出来たのは持ち前の才能でもあっただろう。
片手でユウヤの振り下ろしを防げたのは二人の体格差や筋力の差もある。そう考え反撃に出ようとした瞬間ルドルフは妙な感触に気づく。甘暖かいと思うと手首が握られていた。
「グッ!! 今更握手でもするのかよ」
「ヘヘ~捕まえたぁ~」
ルドルフの天地がひっくり返った。まるで何かの力に引っ張られるように空中に放り出され痛みで意識が飛びかける。口の中の砂の味で自分が倒れていると気づき顔を上げると目の前の景色が歪んでいく。
「一応確認だ、降参しろ。勝ち目はなくなった」
「――…おい……何をした」
地面に手と膝をつきようやく起き上がろうとするが体が言う事を聞いてくれない。ユウヤの体はグニャグニャに歪み空が下にある景色。力任せに起き上がるが再び顔は地面につく、ルドルフは魔法攻撃だと思うが視界や感覚を攻撃する魔法なんて見た事も聞いた事もない。
「あんたには今まで通り部隊の頭をやってもらう。俺が欲しいのはあんたの指揮だ」
首に暖かい感触が巻きつけられ腕だと気づく。後頭部にも手がいきルドルフは暴れ出すが力がまるで入らない。
「ルドルフ。あんたの戦闘力があればベルカを落とすのも夢じゃない……これからよろしく」
【裸締め】一度決まれば抜け出すのは不可能。ユウヤはその技でルドルフの首を締め上げ酸素を奪い、最後には意識を刈り取り大勢の傭兵達の前でルドルフを落とした。