一
ルドルフは階段に腰を下ろしユウヤの話に耳を貸すと次第に笑いが込み上げてきて最後は大笑いし、ようやく落ち着くと涙を吹きながら大きく息を吐き落ち着く。
「はぁ~笑ったわ~……つまりお前らアベンジは何百年と世界のトップに君臨しているベルカに真っ向から喧嘩売ろうってのかよ~何が面白いってそんな馬鹿な事を真面目にやろうってんだから笑っちまう」
「見た所ルドルフあんた三十代か。若くして傭兵としての富と名誉も手に入れ毎日優雅な暮らしを満喫しているから、わざわざ俺達アベンジの無謀で馬鹿しかやらない計画に手を貸す必要ないって顔だな」
挑発のような台詞を聞くとルドルフは立ち上がり近づくと頭一つ下のユウヤを腕を組み見下ろす、真っ黒なコートに先程少しだけだが見せた謎の剣術が気になり腰に手を近付ける。
意外にユウヤはすんなり刀を渡し鞘から抜くと曲線を描き他の剣とは違い細い。一度軽く振ってみるが今まで使った武器の感触とは違いルドルフはますます興味をそそられた。
「ぬ、ベルカは民を食い物にし自国だけの利益しか考えてないんだ!! 奴らが奴隷制度とかふざけた事を抜かしているのだぞ」
「それのどこが悪い」
刀に顔を近づけ刀身の波紋を真剣に見ているルドルフの一言にイリアは額に血管を浮かべ獣ような唸り声を出したが、飛びかかる寸前でハンクに止められてしまう。
「いいかいお譲ちゃん、世の中ってのはそーふ風に出来てんだよ。どんないい奴だって権力と金を手に入れて上に立てば変わるもんさ、いちいち正義の味方してたら傭兵なんて出来やしねぇよ」
「その通り、腹を割って話そうルドルフ。俺は何百年も我が者顔でのさばってるベルカを叩き潰したいだけなんだ……痛快とは思わないか? 歴史と伝統の国ベルカを荒くれ者の傭兵軍団が落とすなんて」
「お前の意見には個人的には賛成だが、こちらも俺一人で決断できるほど部下は少なくない。後先考えず突撃できる者は失う物が少ない奴だけだ……だが!!」
勢いよく刀を鞘に収めユウヤに返すと皮のズボンを履き、鎖帷子を着込み部下から一本の剣を受け取ると玄関ホールの破壊された扉に近づいていく。
「傭兵世界ではシンプルな掟がある。【強い奴が一番偉い】どうだいユウヤとやら、もし俺を倒せたら全ての部下はお前にくれてやる。毎日優雅な生活もいいが飽きちまってね~遊んでくかい」
「こんな大所帯の長がそんな気楽に俺みたいな奴と殺し合いして部下達は納得するのか?]
「細かい事気にする奴だな。俺がここの長になった時も前の奴をぶっ殺してなったんだから気にする奴なんざいないさ」
ルドルフにつられて外に出ると眩しい太陽に目を細め囲んでいた傭兵達を見ると一本だけ道が開かれ、その先には縄でしか囲んでない砂地のリングがあり大勢の傭兵達が罵声を飛ばしていた。
ルドルフがリングに入ると歓声が豪音にように響きユウヤの肌を震わせていく。
「待てユウヤ!! 私にいかせてくれ、あんな男一振りで」
「俺をご指名らしいしな。それに傭兵界の大スターとやれる機会を逃す手はない、まぁ見てな」
「む、油断するな。契約者ではないが相当の使い手だ」
ユウヤがリングに入るとブーイングや罵声……しまいには物まで投げられる始末だが、そのパフォーマンスが闘争本能を刺激して心地よかった。
「一応ルール確認だルーキー、片方が参ったと言うか戦闘不能になるまでやる。後は何でもありだ」
人が死ぬかもしれないスリルに傭兵達は酔いしれ異常なまでの熱気に包まれたルドルフとユウヤは武器を構えていく。