十二
脳がフラフープのように回り吐き気が込み上げ立ってるだけで骨が軋む。学園長とマリアを倒した怪物を目の前にしテツは不思議と恐怖は無い。いい加減命のやりとりにも慣れたのだろか、女が持つ巨大な剣……魔剣と大層に自慢してた武器を見て考える。
どう懐に入るか、どう誘導して空振りさせるか、どう殴り殺すか。ハンクとの戦いに勝利してテツは元の世界にいた自分の面影を無くした代償に迷いが無くなっていた。
「パンドラ後どれくらい動けるんだ」
「さぁ~もうブッ倒れてもおかしくないし限界など軽く越えてるぞ」
イリアが手に持つ魔剣を離し地面に落とすと無警戒で歩いてくる。構えもなにもなし歩いてくるイリアを見るとテツは迷う。明らかに罠だと考え隠してある武器を探すが、イリアはそんなものないと言わんばかりに拳を大きく振り上げて体ごとぶつけてくる。
「のわ!!」
あまりにも真正面すぎる攻撃にテツの反応が遅れるが寸前で避けると空振り音に寒気がした。巨大な丸太を振り回すような音……およそあの小さな拳が出す音ではない。
「ぬ、起用に避けるものだな。丁度いい機会だお前で試すか」
「何をだ!!」
それからイリアは何度も拳をテツに向かい振り回すが一発たりとも当たりはしない。威力は桁違いだが素人以下の殴り方だとテツは気づく、反撃に転じる。
左のジャブを顔面を刺すと顔が跳ね上がるだけで破裂どころか少し痣が出来るだけである。ハンク以上に頑丈とわかると舌打ちを一つ鳴らし高速のジャブでイリアの顔面を串刺しにしていく。
「ぬ、ぐ……この!!」
焦って更に大振りなった所へのカウンターが入り後退するとイリアの片目を大きく張れ片目が完全に塞がっていた。
「……凄いなお前、正直ここまで一方的とは思わなかったぞ」
「一つ聞かせろ。どうしてこの世界の人間であるお前が素手で戦う」
「ぬ、フッフッさてな」
イリアは拳を下ろし大きく足を開き重心を落とす構えをとるとテツを威圧する。打撃系の構えではなく組み合いをするつもりだと瞬時に理解すると一方的な攻めは止まってしまう。
「片目を犠牲にしてわかった。お前とは殴り合いでは天地の差があるとな」
「ならどうする? 立ちでは勝てないから寝かせるか? お前を倒した後に聞かせてもらうぞ、その発想を教えたのは誰かとな」
「ユウヤには感謝しないとな。こんなにも美味しそうな相手と遊べるなんて……ゆくぞ!!」
タックルで突進してくるがテツは付き合うわけがなく横に避けて、今までジャブだけだったが右を大きく振り被り打ち下ろしの形で顔面へ叩きつける。いくら頑丈とはいえ体重が一番乗る打ち下ろしはイリアを仕留めるには十分なはずだった。
「え」
拳を振り下ろしたはずなのに視界が揺れて天地が逆転する。高速に回転する世界で微かに見えたのはイリアが長い足を回している姿……気づいた頃には最悪の事態が目の前に広がっていく。
「身を低くしつつの高速足払いだ。中々上手いもんだろ?」
腰の横に膝を突かれ全体重を感じる。馬乗り……マウントを取られてしまっていた。背丈は頭一つテツの方が大きく何とか力任せに起き上がるが――顔面がバスケットボールのように跳ねた。
「暴れるな馬鹿者が、この状態は抜け出すとのは不可能らしいぞ。さて」
殴られると後頭部が地面にえぐり込み、テツは悲鳴を命ごいもする暇もなく拳を叩きつけられた。頭など一発目で破裂してもおかしくない威力だったが契約者としての体が許してくれない。
「ガッ――…オ」
一発一発が重く何とか防ごうと両腕を上げるが腕ごと殴り壊されていく。まるで子供の喧嘩のような光景だがテツには馬乗りを返す術もない。やがては腕から力が抜けていき表情も固まっていく。
「どうした!! ハンクを倒した猛者ならもう少し気骨を見せてみろ!!」
それでもイリアは拳を止めてはくれなかった。