十一
「……ふぅ」
ハンクはテツが吹き飛んだ先を見ると体の上半分は瓦礫に埋まり、出ている足はピクリとも動かないのを確認すると一息つく。謎の腕を武装する武器に紫の炎――知り得る限りでは見た事も噂すら聞いた事がない。
瓦礫に埋もれたテツに近づき軽く足をつついてみると反応がない。全力で振り抜いた一振りを防御したとはいえ食らったのだ両腕は無事では済まないだろうと確認のために顔を近付けた瞬間。
「む――っ!!」
瓦礫の中から腕が伸びてきて兜を掴まれた。ミシミシと亀裂が入る音が響き崩壊へ近づいている。人間が単純な握力で兜を潰す……ありえない、そう思った瞬間に亀裂から悪魔のような指が食い込んできてるのが見える。
「腕は……動く、足は平気だが、体中の骨が悲鳴をあげてる」
「感謝しなさい人間。あの一撃から両腕を守って上げたんだから」
「む、ぬぅううううう」
瓦礫から這い出てくる体は氷の刃と瓦礫の破片で血だらけだが腕だけは悪魔に浸食され兜を今にも握り潰しそうだ。咄嗟に握り潰そうとしている腕を掴んだがハンクにはそこから先の技術は無い。
戦斧を振り上げた瞬間に体がくの字に曲がり何をされたかと気づくのは兜が砕かれ視界が開けた時だった。眉間にしわを寄せ白い歯を剥き出しのテツの表情が見えた時に二発目が巨体に突き刺さる。
「~~――ッ!!]
苦痛の声すら出ない衝撃を受け何とか倒れないのは契約者としての強靭な体と鎧のおかげだと思うが鎧もボロボロこぼれ落ちるように砕かれていく。
「ハンク、俺とお前の戦いは距離だ。正直今でも倒れてしまいそうに体中が痛いが……ここだけは逃せない」
腕を畳み拳を顎の下に持っていくピーカブスタイルで体を左右に揺らし体重を拳に乗せていく。ハンクの苦し紛れの戦斧での突きは勢いも無くあっさり避けられ懐に潜り込まれ――右のフックは脇腹に入り二メートル近くあるハンクを宙に浮かせ数秒後に地面に沈めた。
「ゲハァアァ!!」
口から異物を出しながら顔ごと地面に倒れるとハンクの嗚咽が咳のように漏れて動く事すら叶わない。テツは勝利の余韻に浸るまでもなく大の字に倒れ空から落ちてくる雨を浴びていく。
「ヘ……ヘ、勝ったぜ~見たかよ~」
「もう少しエレガントに勝てないものか人間よ」
勝ったと確信すると体中の痛みが何倍にもなってテツを苦しめた。氷の刃は骨には達してないが皮膚を深く突き破り、骨はどこが痛いのかすらわからない。
時間にしてどれくらいだろうか、テツがようやく起き上がるだけの力を取り戻した時には雨はやんで雲の隙間から日光が差し込んでくる。
「うむ、見事なり」
拍手の音がし顔を向けると少し顔に泥のついた銀髪の女が歓喜に震え手を叩いていた。瓦礫だらけのこの地に一人の美女が子供のように無邪気な笑顔で拍手する姿はどこか滑稽だと思いテツは笑う。
「途中から見させてもらったが、お前のその戦い方はなんだ? 見た事がない」
「学園長とマリアはどうした」
「ぬ、あっちだ」
指さす方向には意識を失った学園長にハンクと同じく腹を抑え地面にうずくまっているマリアがいた。