十
――肉を引き裂き、骨を一片の欠片の残さず砕き
殺す――
雨で重くなり邪魔になった制服を脱ぎ上半身を裸にし、垂れてきた前髪をかきあげオールバックにし視界にハンク以外何も入れないようにする。
考える事はどう効率よく敵を倒せるかではなく殺す事。異世界にきてまだ半年も立たないというのにテツは自分の変わりように気づく。だんだんと殺人に慣れ異常なほどの力に酔っている部分があった。
「む、少し顔立ちが変わったな」
「お前みたいな奴と戦えば嫌でも変わるぞ、一応確認だ。黙って去ってはくれないか」
「この前の借りもあるからな。テツ存分にやり合うぞ」
頭上で戦斧を回転させると地面の雨水が浮き上がり水流の竜巻のようにハンクを包む。テツはその光景を見ると手が出せなくなってしまう、例えるなら常に刀の切っ先を突きつけられてるようで動けない。
「もうわかってる思うがこちらの魔法は水分や温度を自由に操れる物だ」
「自分から魔法の種を明かすなんざ余裕だね」
「テツお前の戦法は知っている。今回はこちらの戦い方に付き合ってもらうぞ」
ハンクの周辺で浮いてた雨粒が形を変えやがては氷の鋭い刃に変わる。その数は雨粒一つ一つ数えるのと同じで無限にも見える……避けられる数ではない。
「人間!! 地面を全力で殴りなさい!!」
氷の刃が飛んでくると同時に地面を殴ると目の前が紫に染まる。何事かと思い目を凝らすと――炎。裸体を晒した上半身に伝わる温度も半端ではなく火傷してるかと思う。
時間にして数秒紫の炎の壁が現れ消えるとハンクが兜の上からでもわかるほどに動揺していた。
「ナイトメア。悪魔達が地獄の業火で作りだした魔小手……あんな大きいだけの玩具に負けるわけないでしょ」
「――パンドラお前本当に何でもありだな」
「人間、お前が私を使いこなせば……って、さぁあの木偶に誰を敵に回してるか教えてあげなさい」
まだ微かに両拳は深紫の炎を出し続け、落ちてくる雨を蒸発させている。ハンクは戦斧を止めて片手を振り上げると地面の水分は空中に巻き上げられ氷の壁を作りだす。
好機……ハンクはテツを目の前にし初めて守りに入ったのだ。元々頭が悪いテツには作戦はなく単純。ただ近づいて殴るだけという行為は敵であるハンクを脅えさせた。
「シッ!!」
氷の壁を殴り砕こうとした瞬間に壁は自ら破裂していく。破片はテツの体に突き刺さり、激痛が伝わると砕かれた壁の奥から大きく戦斧を振り被ったハンクが漆黒の兜の下で笑っていた。
「人間防ぎなさい!!」
距離は到底拳が届く範囲ではなく、逃げるにしても中途半端とまさにハンクが支配する距離になっていた。腕をクロスさせ近づいてくる戦斧の禍々しいほどに巨大で鋭い切っ先を見つめ奥歯を噛む。
「――ッ!!」
消し飛ぶ。その言葉通りにテツは体ごとその場から消え、地面に水平に飛ぶというありえない軌道で倒れていた柱に激突し全身の骨を打ちつけていく。
決して油断したはけではなく、警戒していたはずなのに……ハンクとの差は強力な武器を持った所で埋められる差ではなかった。