七
日光が届いてないはずなのに漆黒の鎧は黒く輝き、背中に背負った戦斧が歩を進めるたびに重量感を感じさせる音を鳴らしテツの心臓を締め付けてくる。
脳裏に蘇るのは命を取り合ったあの死闘――恐怖は確かにあったが今までの訓練のおかげで体が先に動き構えると学園長が前に出ていく。相変わらずのスーツ姿だが、巨大な布で包まれた何かを肩に担いでテツの視界を塞ぐ。
「アベンジの幹部の一人ハンク様じゃねぇか」
「貴様は今や学園長か。やれやれ落ちたな」
互いに軽口は叩くが油断はなくジリジリと間合いを狭めていく。テツはその光景を見ていると昔どこかの剣豪小説の中に出てきた侍同士の斬り合いを思い出す。
互いに抜き身の刀を構え一分で少しづつ距離を縮め必殺の瞬間を待つ……ハンクと学園長はまさにそれだが、肩に担ぐ巨大な布の中身を出さない。
「ぬ、私も忘れる出ない馬鹿者」
ハンクの巨体の陰から一人の女性が出てくると学園長は動きを止めて焦りが顔に出てしまう。
装備は胸当てとすね当てだけで軽装のハンクと同じ黒。
褐色の肌に冴える銀髪は美しく、妖艶な切れ長の瞳……そしてハンクの戦斧にも負けず劣らない馬鹿げた大きさの剣。
その女性は女で一つでアベンジを纏め上げた才覚も持つ。
「おぉマリアも大きくなったなぁ~ハハッ懐かしいなぁ」
「イリア。アベンジの頭がこんな前線に出てきていいのかよ」
「ぬ、まぁ今回はどうしてもハンクが私と出掛けたいと言ってたな、一人身で辛かろうと私が同情してやったんだ」
今まで威圧するように距離を縮めてた学園長は背中を向けて一気にテツとマリアまで後退していく。普段は強気だが今回ばかりは恥も受け入れ敵に背中を向けた。
「マリア、俺と組んでイリアをやるぞ。テツはハンクとやれ……なるべく時間を稼げ」
「おい!! なんで俺が一人でハンクと」
「黙ってろ」
今までのふざけた顔はどこにも無く危機迫る表情で睨まれるとテツは喉まで出かけた言葉を閉まってしまう。マリアは無言で頷くと両手に持つバスターソードを構えイリアを見据える。
腕を組んでニヤニヤしながらこちらを見てくるイリアは見ていて腹が立つが今は感情で動くべきじゃない、もしマリアが今感情で動いたら確実な死が待ってるはずだ。
「テツ悪いな、今回の試験軽めにしたつもりだが見ての通りだ」
学園長はテツの額に自分の額をくっつき目を閉じながら語りかける。その行為だけでテツはイリアという女がどれだけ危険な存在か感じてしまう。
「いいかイリアは二人で片づける。お前はハンクと戦いなるべく時間を稼げ、今のお前じゃそれが限界だ」
「……おいおい学園長~逆だよ。あんたが時間を稼げ、その間に俺が片づけてやるよ」
「驚いたな。虚勢でもそれだけ言えれば上等だ。いいか相手は魔王軍の中でも最強と言われる奴らだ、気合い入れろ」
その言葉を最後に学園長はテツと離れイリアの前に立つと横にマリアが構える。待ちくたびれたイリアは推定二メートル以上の巨大な剣を寒気がする素振り音と共に抜く。
「我が魔剣レイブンで遊んでやるわ」
肩の布を勢いよくとると剣が出てくる。学園長の両手に握られた剣は魔剣とほぼ同等の大きさを見てイリアの瞳が大きく見開く。長年戦ってきたが相棒の魔剣と同じ大きさの剣を初めて見て驚く。
「ぬ、お前いつ契約者になった」
「何を言っているイリア。俺は契約者じゃない、こいつは特注品でな~格好いいだろ」
「なるほど……そんな偽物叩きわってくれるわ!!」
イリアが大きく振り下ろし、学園長は横からの振り回しで激突。マリアもそれを合図のように飛び上がり滅んだ王国の跡地で戦いは始まってしまう。