六
世界は違うが曇り空は変わらず太陽の光は遮断され空気が湿っている。昔こーゆ天気の日に交通誘導するといつ雨が降るかわからずカッパの着替えが面倒だったなと思いだしてテツは馬車から降りて遺跡の地を踏む。
何本もの柱が立っているがどれも崩れ地面の石段も穴だらけと王国の滅んだ後のように見えた。岩陰に隠れ進むと嗅覚が刺激され鼻を摘む、最初は鉄の匂いかと思ったが腐ったような匂いで血だとわかる。
「テツ君一応援護はしますが基本的には一人で乗り切ってください」
「学園長は離れた場所から高見の見物決め込みやがって……パンドラ」
「今日はどれにする人間、お勧めは……チッお前一つしか使えない奴だったな」
両手が緑色の光に包まれると禍々しい悪魔の腕が現れマリアが本能的に下がってしまう。紫の装甲は肩まで浸食し指の先から腕の形体を変えテツの両腕に悪魔の力を送り込む。
「人間、一応忠告だ。迷うな億すな、どちらかが欠ければお前は死ぬ」
「悪ぃなパンドラ、今の俺は迷ってるし億してるわ。だが死ぬ気はねぇ!!」
岩の陰から顔を覗かせると数人の盗賊が倒れた柱に座り楽しげに喋っている。足元には女子供の死体がまだ血が渇きってない状態で無残に転がっていたのを見ると鳥肌が立つ。
テツは別に正義の味方を気取るつもりはないがその光景に迷いが消えた。人間としてやってはならない事をしたと薄汚い盗賊共を睨みつけて目の前の岩を飛び越えた。
「テツ君!! 私の援護を」
学園長の言う通りだと確信した。こんな奴らに負けてるようじゃこの先命がいくつあっても足りない、ここは一人でと真っ直ぐ走り出す。
盗賊達はテツに気づくと飲んでた瓶を地面に叩きつけて武器に持ち変える。一般的に復旧してるバスターソードと手斧と様々あるがたいした問題ではない。一人目が大きく振り被り上から叩き下ろす一撃を軽く避けて容赦のない拳が顔面を捕えた瞬間。
「なっ……っ!!」
人間の頭が弾ける光景をテツはまるでスローモーションのように遅く見えていた。頭蓋骨が砕かれ脳を飛び出し眼球が潰れていく様を一度も目蓋を閉じずにテツは見た。
ハンクの自慢の鎧を砕いた攻撃を人間にぶつけた結果それは必然だった。人間の頭がバッドで叩き割られたスイカのように宙で真っ赤なカーテンを降ろしていく。
「人間!! 次だ」
考えるよりも先に体が動き横からの一突きを避けて返しの左フックで顔も見ないままの敵の腹を打つ……打つというより体そのものを爆発させ、飛ばされた敵の体は空中で分解され地面につく頃には原型を失っていた。
「ヒッなんだてめぇ!!」
テツのあまりの残虐な殺し方に残った敵は戦意喪失し一人が逃げ出すと連鎖するように残りの敵も逃げていく。テツは追いはしなくその場で立ち尽くし未だ肉を貫き骨を砕いた感触が残る拳を見つめる。
もうボクシングとは呼べる物じゃない。こんな物をボクシングとは呼んではいけない……今まで汗を積み重ね会得した技術を初めて呪ってしまう。
「これがパンドラの力なの」
援護をと飛びだそうとしたがテツの戦いぶりに足が止まってしまったマリアがようやく近づいてくる。人間がこうも簡単に破壊される光景は見た事はなく本当に学園で笑っているテツかと疑ってしまう。
「人間、数人逃がしたな……覚悟を決めろ、私を使う限りこの先何万とその感触が手に残るぞ」
「――っ!! あぁ……わかってるよ」
殺されると思い恐怖する事は今まで何回もあったが人を殴るのが怖いと思ったのは初めてだった。慣れるしかないと自分に言い聞かせても腕の震えは止まってはくれない。
「まぁ~ギリギリ合格かな」
敵の逃げた方向から学園長が歩いてくると手には生首が何個も持たれている。近づいてくると生首を放り投げ未だ真っ赤に染まった両手を見つめるテツの前に立つ。
「困ったもんだぜ~戦闘力は見ての通り化け物だが心が弱すぎる。マリアどう思う」
「まぁ慣れるしかありませんね。今回は正直私も驚きました、しかし単純な戦力としては申し分ありません」
与えられた試験を一分もしない内に終わらせたテツの評価は上がったが不安はまだ残ると学園長は白髪だらけの短髪をガリガリとかき腰を下ろす。マリアは腰に手を当て一息つくと空から落ちてくる雨に気づき髪を一回靡かせ帰るために振り返ると。
「む、また会ったなテツ。それに懐かしい顔もいるようだ」
雨が世界に縦の線を作り地面を濡らし始めた時に戦斧が現れた。