五
関わりたくない。
一目学園長の笑みを見て確信する。ろくな事じゃないと、顔を伏せ忍び足で横を通り過ぎた瞬間にテツの腕は剛力に締め上げられ完全に動きを止められた。
「おいニノおじさん達で用事あるから先行っててくれ」
「ぬ、テツお前はよほど学園長に好かれてるな」
「いや……おい!! 待てよニノ」
万力のような握力で掴まれた腕は悲鳴を上げ引きづられていく。学園から少し離れた平地に出ると馬車が止まっていてマリアが扉を開けて招き入れる。
馬車内は広く天井にはランプが照らさせ、木製で作られた背もたれに強引に座らせテツはようやく腕の痛みから解放され一息つく。
「お前らアベンジと戦ったらしいな」
「痛ぇ。アベンジ? しらねぇよ」
「お前が強烈にドツいた黒騎士の事だ!!」
思い出すだけで寒気と鳥肌が蘇り身を丸くしてしまう。あんな化け物の事など記憶の片隅に閉まっておきたいのに言葉に出され恐怖が一気にテツを支配する。そんなテツを見て学園長は落胆の溜息を漏らし顔を近づけていく。
「アベンジはどうやら魔王側についたらしい。傭兵集団だから金次第なんだろう、それでこれから奇襲をかけにいく」
「……ハハ冗談だろ~たった3人で戦うのかよ」
「奇襲だからな。安心しろ相手もそこまで多くねぇ、今回は少しつついて連中の様子を見る」
ベルカ王国の騎士学園のトップとその教員と――テツ。わけがわからない、いくらテツが頭悪くても今回の行動は自殺しにいくようなものだと気づく。仮にも学園一つ任せられてる男の行動とは思えない。
「テツ君貴方のテストもかねてます」
馬の手綱を引き走らせるマリアが背中ごしに語りかけてくる。いつもならゴミを捨てるような厳しい口調だが言葉の温度は冷たく淡々していた。
「契約者である貴方を戦力として考えるなら、今回戦う程度の敵に負けてるようじゃ話になりません」
「つーわけだテツ。こうしてパンドラも持ってきたし安心しろ」
いつの間にか学園長の手にはパンドラが握られテツに押しつけてきた。馬車内では重い空気が流れテツは言葉を失う……今まで数カ月続けてきたトレーニングの成果を出す時がきたのだ、殺人によって。
虚勢でもいいから強がろうとするが喉から言葉が出てくれない。相手は今まで戦ってきたような奴らとは違う。あのハンクとかいう騎士を思い出せばわかる。
「人間。何を怖がっている、私がいる限りお前に無限の殺戮を約束をしよう」
いらない約束をもらいテツは頭を抱えた。初めての実戦というわけでもないのに震えてしまう。これから自分が死ぬかもしれない戦いの前は慣れずいつも恐怖で押しつぶされそうになってしまう。
一度大きく息を吐き深呼吸し窓の外を眺めると一度頭の中を真っ白にし高まる鼓動を落ち着かせる。
「学園長もうすぐです」
馬車内の窓から見える景色は変わりどこかの遺跡のような場所に着く。