三
汗ばむ気温の中で風が通り抜けると少しだけ汗が引いてくれてありがたい……そんな事を思いテツは目の前の不機嫌な少女に溜息を漏らしてしまう。
授業の後は昼休みになり学園で恐怖と変わり者の名を欲しいままにした四人は屋上にくる。フェルの一件以来クラスの半分の女子は大人しくなったがどうも空気が重いと感じエリオが言いだした事だ。
地面に何もしかずそのまま座るとニノは自家製の弁当を広げ食事に集中し無言になる。エリオは苦笑いを浮かべながらどうにか会話を盛り上げたいが空回り、それも全て不機嫌なフェルから出てるオーラである。
「なぁフェルよぉ、機嫌直せよ~あぁするしかお前に勝てなかったんだよ」
「かりにも騎士を目指す方が相手の足を踏むんですか? 確かに勝ちに徹するのはいいでしょう……しかしあまりにも幼稚すぎて言葉も出ません」
「ハハッテツが勝ったのにまるで負けたような態度だな」
エリオの軽口は完全に無視されフェルとテツの言葉が弁当の上を飛び交う。最初はテツだって必死に謝っていたがフェルのあまりにも頑固な態度にだんだんと苛立ちが溜まってきてしまう。
テツだってもう三十三歳だ、子供が少し拗ねたくらい可愛いと思うが目すら合わせないフェルに対し口元が引きつってきて「テツさんの戦法は子供です」この一言で笑顔が消えてしまった。
「おい聞いたかエリオ? 俺の戦法が幼稚だってよ~ならそれに負けたフェルは赤ん坊か?」
「おおいテツ。どうしたよ、ほらフェルもそんな怖い顔してると折角の整った顔が」
怒りながら食べていたパンを止めて急に立ち上がると食べかけのパンをテツに向ける。
「勘違いしないでください!! 負けたのではなく私が油断した結果です」
「ん? 何を言ってんだ。油断した結果負けたんだろ~フェルよぉどんな形であれ負けは負けだろ? 認めたくはないのはわかる。よぉ~くわかるぞ」
ここぞと言わんばかりに捲し立てると今まで見せた事がないように顔を真っ赤にし持っていたパンを握り潰してしまう。どうやら口喧嘩では自分に分があると思いテツがニヤニヤしてるとフェルは下を向き肩を震わせる。
「~~~ッ!!」
声にならない声を出すとフェルはズカズカと立ち去り残されたテツは勝利の余韻に浸っていると頭を抱えてしまう。大人げないにも程があると今気づきフェルを追おうとするが、既に屋上の扉が勢いよく締められた反動でフラフラと動いていた。
「テツお前の弁当もくれ、どうせ私が作ったのだからいいだろ」
「今更喋り出してそれか!! ついでに言うと嫌だ!! 腹空いてんだよ!!」
「しかしフェルがあんな感情的になったのは初めてみたぞ。テツお前は人を怒らす天才らしいな」
雲一つない青空に向かい大きな溜息を出し空腹を満たすために食事を再開……フェルの喧嘩の後の食事は喉を上手く通ってはくれなかった。
「そんな落ち込むな。どうせ明日にはケロッとしてるさ、なぁエリオ。ん、エリオ」
――追う。
初恋の相手を必死になり追ってしまう。考える前に体が動き気づけば全力で走っていた。しかしフェル足が速くついていくだけで体力が消費しもう限界が近い。
ようやく止まったと思うとグランドにある大きな樹木の下でフェルは大きく息をつき背中を預ける。小柄な美少女が少し息を荒くし悔しそうに唇を噛む姿は見ていて胸が高鳴る。
「よよよう、フェルお前はそんな顔見せるなんて珍しいな」
「うるさいです!! 私はテツさんのあの幼稚な態度に我慢できません!!」
まだ怒りが収まらない様子のフェルの横でエリオは腰を下ろすとポケットの中に入っていた飴玉に気づきフェルに無言で差し出す。受け取ると口の中に放りこむコロコロと転がし甘い味を楽しむ。
「ところで何でわざわざ追ってきたんですか」
「え!! いやそりゃ~ほっておけるわきゃないだろ。そそれに俺がフェルを追ってきて悪いかよ」
「いえ……ただ物好きですね」
どうも会話が続かなく焦り出すとフェルが助け舟のように口を開いてくれた。その内容は空気を更に重くしてまうがエリオは乗っかるしかない。
「エリオ。貴方は何のために戦います?」
「……俺はこれしか生きる術がないからな。頭悪くて不器用だし、女子が言うように落ちこぼれさ」
「珍しいですね。この学園は騎士になり富と名声ばかり欲する人達ばかりと聞いてますが」
苦笑いで肩をすくめフェルを見上げるともう怒りに表情は消えて空を悲しげに眺めていた。
「そりゃ確かに富と名声は魅力的だが、凡人たる俺は生きる事で精一杯なんだよ。フェルは富も名声もあるんだろ? なんでこんな学園にきたんだ?」
「復讐です。必ず殺すと決めた相手のために強くなろうとし学園にきました」
空から視線を下ろしたフェルの顔はいつもの無表情に戻っていた。復讐のたった一言に体を縛りつけられたようになったエリオはフェルが立ちさるまで動けなない。
復讐をするというからどれだけ怒りを込めて言うのかと思えばいつもと変わらない。つまり日常から思い常に頭の中で考えてると予想すると鳥肌が止まらない。
「おいおい……初恋にしては重過ぎんだろ相手が」