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呼吸が止まり口から垂れる涎がやたらと遅く見えてしまう……おそらく腹。エリオの一撃を避けて懐に入ると同時に腹を打ち抜かれたのだろう。数秒止まっていた呼吸が戻ると目眩と吐き気が同時に襲いかかりエリオは自身のダメージを再認識した。



「ハァ――ハ……ハッ!!」



騎士学園に入る一年前にエリオは急に父親から呼び出され槍の稽古が始まった。父は槍の心得が多少はありエリオのような素人に教えるのは十分、エリオもどんどん強くなるのを実感し稽古が楽しくなり腕を上げていく。


そして卒業と共に学園騎士の入学願書を渡された時になぜ父が稽古をつけてくれたのかを初めて理解する。寮の手続きまで終えて後はエリオが家を出ていくだけ……勉学も最低ラインで他の取り柄なしの子供を親は戦いへの道へ導いた。


今まで勉学をサボってきた利子を払うようにエリオは家を出て一人騎士の道へと足を踏み入れると、同期で入った連中には負けなかった。この時ばかりは自分を捨てた父に感謝したが、ニノと出会う。



「む、まだ立つか。もうよせ顔色悪いぞ」



「ヘヘッまだまだ」



速く重く鋭い。およそ剣の使い手が必要とする技術をニノはどれも持っていた。初めて闘った時は今でも忘れられない、今まで同級生を何人も倒してきた必殺の突きを簡単に避けらと同時に意識が飛ぶ……何をされたかさえわからなかった初の敗北。


それから何度も挑み何度も倒され一度の勝利も貰えず、今日この瞬間もエリオは挑んでいる。


戦い以外で生きる術がなく、戦いを奪われたら一般人以下になるのが怖くエリオは鍛錬を積み上げて――突く!!



「む」



エリオの突きを避けるのではなく受け止めたニノは不可思議な現象に目を細めた。勢いが増している、先程これ以上ないくらいの手ごたえで腹を打ち抜いたはずなのに突きの速さが上がっていく。



「今度こそ勝つぞ!!」



「エリオお前のその執念は凄いな」



突きの動作を小さくし的を絞り最小限の動きでエリオは罠を張る。当たってもダメージにすらならない突きだが、こうも連続で好き勝手突かれるとニノは苛立つはず、何回も戦ってきたエリオにはニノの性格がわかる。


我慢できずにニノが防御を無視し突っ込んできた時こそ最大にして唯一の勝機。残り少ない体力を注ぎこんでのカウンターを狙う。



「えぇい鬱陶しいわ!!」



軽い突きを無視するように大きく木刀を振り上げてきたニノを見た瞬間に心の中で笑う。大きく体重を後ろに溜めて脚を地面に突き刺すように力を溜めていく、一秒に満たない一瞬を力を溜める時間に使い大きくを息を吸う。


対するニノは突然動きを変えたエリオに驚き罠にかかった事を悟るが後退はしない。もう後ろに下がれる間合いではなく前に行かなければ負ける自分の姿が簡単に想像できた。



「もらったぁ!!」



「ハッハ!! 楽しいなエリオ」



突きと上からの振り落としの軌道は混じり合うと……エリオは確かに見た。突きに対しニノは勢いを利用し横に一回転し突きの軌道から逃げていく姿が。ありえない――走ってる最中に横に避けるならわかるが、回転し勢いを殺さずそのまま攻撃に移るなんて。


そう思った直後にエリオの肩に稲妻のような一振りが叩き落とされ地面に崩れ落ちた。全身が麻痺したように痺れて、痛みで顔を歪めたいが表情すら動かせない。



「肝を冷やしたぞエリオ。また遊ぼう、お前とは楽しいからな」



「ガッ!! クソったれ!! 次こそは……」



誰も見てない片隅でのエリオとニノの戦いを眺めていた学園長だけは歓喜の口笛を鳴らし満足する。隣で見ていたマリアも驚く、ニノの圧倒的強さではなくエリオの秘められた力に。



「マリアあの小僧なんていう奴だ。中々面白い奴だな!!」



「エリオです。確かに見どころはありますが、あれでは戦場では生き残れないでしょう」



「かぁー厳しい事言うなやあ~エリオが駄目なら他の生徒も大抵駄目だろうが」



面白い物が見れて満足だったが学園長の一番のお楽しみは……契約者になりベルカ最強の騎士に一矢報いた男テツである。目を凝らし探すと大きな木の下の木陰で少女と向き合っていた。



「相手はフェルか、マリアどっちが勝つか賭けようぜ」



「当然フェルですね。あの子はニノと同等かそれ以上ですから」



「あぁ嫌だねぇ~歳をとると守りに入り確立高い方に賭けるその姿勢が」



「じじじじゃあ学園長はテツ君に賭けるんですね!! いいんですね!! お昼ご飯一カ月分ですよ」




 



 

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