第六章
教室の扉を開けて軽く挨拶し返事はなし。いつもの事と慣れたように席につくと隣でニノも座り大欠伸をし、つられてテツも大きく背伸びをし欠伸をかく。
前の席では少しだけ首を動かし横目でチラチラとこちらを見て「おはようございます」の一言にテツは無理矢理首を掴み体ごと振り向かせ「おう!! おはよう」といつも通りの朝。
タイミングよくエリオが頭をボリボリかき、わざとらしく欠伸をかきながら「おおはよーすテツ、ニノ……フェル」とまだ慣れてない挨拶をフェルにすると、ちょこんと頭を下げられたエリオは少しだけ赤くなる。
「不思議なもんだな」
両手を頭の後ろに回し椅子を傾けグラグラとバランスを取りながら後ろの席から教室を見渡すと、元いた世界と大差ない風景……しかし学んでるのは殺人術、いかに効率よく敵を殺せるかというテツからすれば狂っている。
しかしテツ自身も狂ってると自覚していた。だんだん人を殺す事に迷いがなくなってきていて恐怖すら薄れてきている。この世界は「弱肉強食」とい言葉がそのまま具現化したような世界だ。
「うぃ~すお前ら今日は俺が直々に見てやるから外出ろ」
教室に入ってきたのはマリアではなく学園長。年齢とは反比例した筋肉と健康的な肌を輝かせ手を叩き生徒達を外に誘導していく。
外に出ると曇空で少し肌寒い。生徒達は慣れたように他の生徒と組んで戦い乾いた木製の音を響かせ練習用の武器で訓練を初めていく。学園長はドッシリと地面に胡座をかき顎をさすりながら一人一人の動きを見ていた。
「がが学園長!! 教室にいったら誰もいなくて授業ボイコットされたと思いましたよ!! てか勝手に」
「おぉマリアか、まぁたまには直接生徒達をの訓練を見るのもいいじゃねぇか……やはり飛びぬけてるなニノは」
今日は珍しくニノに何人かの男子が挑んでいた。怖い物みたさか自分が強くなったと勘違いしたのか意気揚々と挑むが結果は地面に転がる事になり、もう数人がニノの足元に転がり短い黒髪を揺らし表情一つ変えず首を傾けポキッと音を鳴らす。
「ようニノ!! 今度は俺と遊んでくれよ!!」
「む、エリオか、懲りない奴だな」
実はエリオが一番ニノに挑み続けていた。同じクラスになって以来ひたすら挑みひたすらに負けてきたという歴史を持つ。手には木製で作りあげた自作の槍を持ち腰を落とし構える。
腰に手を当てわざとらしく溜息を吐くニノに対し隙をつくような一突きを繰り出すと上半身だけのけぞらせ避けられる。いつもなら体ごと後ろに飛ばすはずとエリオが驚くとニノは笑う。
「フッフッ驚いただろう、テツの動きを真似してみたんだ」
「真似しただけでそう簡単に上手くいくかっての!! 今度こそ勝つ!!」
槍の特性は徹底した間合いの広さ、特に剣相手なら自分だけ安全な所から一方的に攻撃出来るという最大の利点があるはずなのだが……ニノ相手だとそれが嘘のように思えてくる。何回突こうが避けられ防御に徹してるかと思えば、いきなり仕掛けてくるその速さに。
槍使いは絶対に懐に入られてはいけない。長物だけあって懐に入られれば振り回せずに後手に回るしかない、だからエリオは必死に突きの弾幕を張りニノの動きを制限するが、嘲笑うかのように弾幕の隙間をすり抜くてくる。
「こいつがテツから盗んだ足さばきだ!!」
「んな見ただけで盗めるか……うぎぁ!!」
確かに一瞬テツの動きと重なり突きを紙一重で避けられ、気づけば地面に両膝をつき口の中から酸っぱい液を垂らしていた。